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2025年09月10日

女性とリスキリング~男性より大幅に遅れ、過去の経験不足の影響も~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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1――はじめに

リスキリングについては、「経営環境の変化によって、新たなスキルを持つ人材が必要になる」というように、企業側の事情から、重要性が語られることが多い。一方で、働く人側から見ても、一つの職場で雇用されていても、30年も40年も同じ仕事を続けて給与水準を維持することは難しい。また、長寿化によって就業期間が延びているため、定年退職や役職定年を機に、これまでとは違う仕事に就く場合も出てくる。したがって、働く人自身も、勤務先の事業内容や役割の変化に応じて、あるいは労働市場の需要に合わせて、必要とされるスキルや知識を獲得していくことが必要になる。

日本では長らく、「仕事は男性、家庭は女性」という男女役割分業が続いてきたため、中・高年期の給与水準も就業率も、男性の方が女性より高い。しかし、女性の方が長寿であるため、老後シングルとなる可能性も高く、女性にとっても、ミドル期以降にリスキリングして職場への貢献度を高め、安定した給料を得たり、あるいはキャリアチェンジして長く働き続けたりすることは、ますます重要となるだろう。ただし、筆者がこれまでに述べてきたように、現在の中高年世代の女性は、過去の職務範囲が狭い傾向があり、このことが、現在のリスキリング状況にも影響を与えている可能性がある。そこで本稿では、リスキリングの男女差についてまとめ、女性にとってのリスキリングの課題について考えたい。

なお、「リスキリング」は本来、企業主導で従業員に新たなスキル獲得を推進するものだと考えているが、それとは別に、働く人自身が、長い人生の途中でキャリアチェンジを目指し、自ら新たな知識や技術を習得する「学び直し」も重要だと筆者は考えているため、本稿では、リスキリングと学び直しの双方を、考察の対象とする。

また筆者自身は、獲得対象となる「新たなスキル」の中には、近年注目されているデジタルスキルだけではなく、社会的に必須である、介護職などエッセンシャルワーカーのスキルも含まれると考えている点を付け加えておきたい。

2――リスキリングと学び直しの現状

2――リスキリングと学び直しの現状

1|男女別にみたリスキリングの実施状況
まず、現状における性別のリスキリングの実施状況を概観する。厚生労働省の「令和6年度 能力開発基本調査」(個人調査)よると、2023年度、企業によるOff-JT(業務命令に基づき、通常の仕事を一時的に離れて行う教育訓練)を受講した労働者の割合は、全体では、男性が43.2%に対して女性が28.8%であり、女性の方が10ポイント以上、低かった。

性・雇用形態別にみると、「正社員」では男性が47.7%、女性が39.1%、「正社員以外」でも男性が25.3%、女性が15.4%。男女ともに、「正社員以外」の方が「正社員」より低く、同じ雇用形態同士で比べても、いずれも女性の方が男性より低かった(図表1)。
図表1 OFF-JTを受講した人の割合(%)
2|具体的なリスキリングの内容
次に、同調査の事業所調査より、企業が2023年度に行ったOff-JTの具体的内容を尋ねると、全体では「新規採用者など初任層を対象とする研修」が最大の75.4%だった。次いで「新たに中堅社員となった者を対象とする研修」が47.5%、「マネジメント(管理・監督能力を高める内容など)」が46.6%、「新たに管理職となった者を対象とする研修」が44.2%などと続いた。採用や管理職登用など、階層のステップアップに伴って、研修を行う企業が多いことが分かった。
図表2 Off-JTの内容別にみた企業の実施割合
3|男女別にみた学び直しの状況
次に、個人が自発的に行う「学び直し」の実施状況について性別に比較する。同じ調査で、自己啓発を行った個人の割合は、男性が41.9%、女性が30.7%であり、やはり女性の方が男性よりも10ポイント以上低かった。雇用形態ごとに男女を比べたデータがないため、男女合わせた全体の値を雇用形態別にみると、「正社員」では45.3%、「正社員以外」では15.8%と、正社員以外の方が低い。女性は非正規雇用で働く割合が男性よりも大きいことが、自己啓発の実施割合が低い大きな要因だと考えられる。
図表3 自己啓発を行った人の割合(%)
4|男女別にみた学び直しに関する課題認識
次に、同調査より、個人が「自己啓発を行う上での問題点」を男女別にみると、「仕事が忙しくて自己啓発を行う余裕がない」が男女ともにトップだが、その割合は男性が57.0%に対して女性が43.2%と10ポイント以上の差がある。一方、「家事・育児が忙しくて自己啓発の余裕がない」は男性が19.1%対して女性が38.7%に上っている。

そのほかに注目すべき点としては、「自分の目指すべきキャリアが分からない」という回答が、男性が16.9%に対して女性が25.1%と高く、女性の4人に1人が進むべきキャリアを判断できていないことが分かった。
図表4 自己啓発を行う上で問題点だと感じている労働者の性別割合(%)

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年09月10日「基礎研レポート」)

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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性のライフデザイン、高齢者の交通サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度  「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
     2023年度~ 和歌山市「有吉佐和子文学賞」意見聴取員

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