NEW
2025年09月03日

増え行く単身世帯と消費市場への影響(4)-教養娯楽・交際費から見る「自分時間」「人間関係」「自己表現」への投資

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

文字サイズ

1――はじめに~社会変化の先行指標となる単身世帯、教養娯楽面の特徴は?

これまで三回にわたり、単身世帯の実態と消費市場への影響について分析を進めてきた。第一弾では世帯構造の変化に基づき、単身世帯が2020年の38.0%から2050年には44.3%に達する中で、家計消費における存在感も3割を超える見通しを示した。第二弾では家計収支の分析を通じて、若年女性の経済力向上という明るい変化がある一方、壮年女性に見られる雇用面での脆弱性という課題も浮き彫りとなった。第三弾では食生活や住生活の具体的な消費行動を分析し、外食・調理食品志向の高さや賃貸住宅中心の住まい方など、単身世帯ならではの生活スタイルを明らかにした。

こうした分析を通じて見えてきたのは、単身世帯が社会の変化に敏感に反応する存在であるという点である。物価高が続く中、二人以上世帯に比べて外食控えや中食への移行が顕著であったように、単身世帯の消費行動は家族世帯よりも早く社会情勢を映し出す傾向がある。これは、意思決定の自由度が高く、個人の価値観や経済状況が直接的に表れやすいためと考えられる。さらに、年代や性別ごとに異なる消費パターンは、将来の社会全体の消費トレンドを占う上でも重要な手がかりとなる。

同時に重要なのは、単身世帯が決して一様な集団ではないという点である。若年女性のように経済力を背景に新たな需要を生み出す層がある一方、壮年女性のように雇用の不安定さから脆弱性を抱える層も存在する。加えて、高齢層では健康や住まいの維持に重点を置くなど、年齢や性別、さらには社会環境の変化によって多様な姿を見せる。こうした多層的な特性こそが、単身世帯を理解するうえでの前提となる。

本稿では、シリーズの最終回として、引き続き総務省「家計調査」を中心に、教養娯楽分野に注目をして分析をする。なお、前稿までの分析で、単身世帯は二人以上世帯と比べて教養娯楽への支出割合が高く、特にレジャーや旅行への関心の高さが確認されている。豊かさの実感や生活の質に直結する教養娯楽の消費動向からも、単身世帯の多様性と今後の社会のあり方が見えてくるだろう。

2――単身世帯の消費

2――単身世帯の消費~教養娯楽費と交際費などから見る性年代別の特徴

1教養娯楽費~若年層のレジャー志向、高齢層の読書・学習志向、壮年男性のデジタル投資
これまでに見た通り、消費支出に占める「教養娯楽」費の割合は、単身世帯では1割超、二人以上世帯では9.7%と、単身世帯の方がやや高くなっている。単身世帯内で詳しく見ると、男性では若年12.5%(勤労者)、壮年10.8%(勤労者)、高齢11.6%(60歳以上)、女性では若年14.9%(勤労者)、壮年12.5%(勤労者)、高齢10.1%(60歳以上)となっており、特に女性では若いほど高い傾向がある。

「教養娯楽」費の内訳を見ると、いずれの世帯でも、旅行やレジャー費用を含む「教養娯楽サービス」の割合が最も高く5~6割を占め、次いでゲームやスポーツ用品などを含む「教養娯楽用品」が続く(図表1)。単身世帯の特徴としては、高齢男女で「書籍・他の印刷物」の割合が二人以上世帯(7.6%)を大幅に上回り(男性15.9%、女性17.6%)、壮年男性ではパソコンなどのデジタル機器を含む「教養娯楽用耐久財」の割合が高い(二人以上世帯7.7%に対し14.6%)ことである。

さらに、「教養娯楽サービス」の大部分を占める「他の教養娯楽サービス(遊園地や映画館入場料といったレジャー費を含む)」に着目すると、高齢女性を除く単身世帯では、二人以上世帯(31.6%)を上回り、4割以上を占める。しかも、単身世帯では若いほどこの比率が高まる傾向がある。

一方、「月謝類」は、二人以上世帯(11.3%)と比べて単身世帯、特に男性で少ない傾向があり(いずれも3%未満)、これは二人以上世帯では子どもの習い事費用が大きく影響しているためと考えられる。

こうした消費パターンからは、単身世帯の教養娯楽に対するスタンスが読み取れる。レジャー費用の高さは、家族との時間に代わる「自分時間」の充実への投資と捉えることもでき、特に若年層でその傾向が強いのは、SNSでの体験共有やコト消費への関心の高まりが背景にあると考えられる。一方、高齢層での読書費用が高いことは、時間的余裕に加えて、継続的な学習や知的好奇心への投資という側面を示している。

壮年男性のデジタル機器への支出の高さも注目される。この世代は職場でのデジタル化の波を直接体験しており、私生活でも最新技術への関心が高いと考えられる。単身であることで、家族の同意を気にせずに比較的高額なデジタル機器を購入できる自由度も影響している可能性がある。こうした傾向は、今後高齢期を迎える単身世帯において、デジタル活用による生活の質向上や社会参加の新たな形を示唆している。
図表1 二人以上世帯および単身世帯の教養娯楽費の内訳(2024年)
また、5年前と比べると、二人以上世帯や単身世帯の男性では、名目ベース・実質ベースともに「教養娯楽」費が減少している(図表2・3)。一方で女性では、壮年や高齢層では名目ベースではやや増加したものの、実質ベースでは減少している。注目されるのは若年女性である。可処分所得の増加を背景に、実質ベースで44.4%と大幅に増加している。内訳をみると、特に「教養娯楽用品」や「教養娯楽用耐久財」の割合が高まっており、生活の中での自己投資や楽しみ方が拡大している様子がうかがえる。

一方、全体的な傾向として「月謝類」の割合は低下している。物価高の中で、習い事など継続的な支出が見直されている可能性がある。
図表2 二人以上世帯および単身世帯の教養娯楽費の内訳(2019年)
図表3 二人以上世帯および単身世帯の教養娯楽費の内訳の2024年と2019年の差

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年09月03日「基礎研レポート」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

お知らせ

お知らせ一覧

【増え行く単身世帯と消費市場への影響(4)-教養娯楽・交際費から見る「自分時間」「人間関係」「自己表現」への投資】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

増え行く単身世帯と消費市場への影響(4)-教養娯楽・交際費から見る「自分時間」「人間関係」「自己表現」への投資のレポート Topへ