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コラム
2025年08月25日

「持ち家か、賃貸か」。法的視点から「住まい」を考える(4)~「所有権」の制限:「公法上の制限」は公共の福祉のため~

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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1―「所有権」の制限、「公法上の制限」について解説する

「持ち家を購入するか、それとも賃貸住宅で暮らすか」。この「住まいの選択」に関する問いは、「どちらが得か」といった経済合理性の観点から語られることが多い。実際には損得勘定だけでなく、各人のライフスタイルや価値観を踏まえた判断が求められるが、そのうえで、住宅に関する法制度を正しく理解することも欠かせない。そこで本シリーズでは、住宅リテラシーの向上に向けて、知っておきたい住宅に関する基本的な権利や制度について解説する。

初回のレポートでは、持ち家の購入、すなわち不動産の「所有権」を取り上げた。続く第2回・第3回のレポートでは、「所有権」に対する制限(図表1)のうち、「権利の濫用」と「相隣関係」1について解説した。

本稿では、引き続き「所有権」に対する制限のうち、「公法上の制限」について解説したい。
図表1 所有権に対する一定の制限

2―「公法上の制限」 は、「公共の福祉」の増進を目的としている

憲法第29条2項は、財産権を保障するとともに、その権利行使が「公共の福祉」に適合することを求めている。「公共の福祉」とは、たとえ個人の権利であっても、社会全体の利益や秩序と調和するように制限されるべきとする考え方である。

不動産の「所有権」を制限する公法の種類と内容は多岐にわたるが2、本稿ではその中から「都市計画法」と「建築基準法」にもとづく「用途地域」を取り上げる。これらは、いずれも第1条において法の目的が「公共の福祉」に資するものであることを明記している3,4
 
2 他にも「国土利用計画法」、「都市再開発法」、「土地収用法」、「土壌汚染対策法」、「文化財保護法」、「農地法」、「道路法」、「景観法」など、エリアや立地特性に応じて多種多様な法律があげられる。
3 都市計画法1条:「この法律は、都市計画の内容及びその決定手続、都市計画制限、都市計画事業その他都市計画に関し
必要な事項を定めることにより、都市の健全な発展と秩序ある整備を図り、もつて国土の均衡ある発展と公共の福祉
増進に寄与することを目的とする。」
4 建築基準法1条:「この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。」

3―「用途地域」は都市の発展や生活の質を守るうえで重要な役割を担う

不動産の「所有権」に対する「公法上の制限」の一つに、「用途地域」の指定が挙げられる。これは、住居や店舗、事務所、工場など、同じ用途の建物を一定の区域に集め、互いの生活の快適性や利便性を高めることを目的としている。「都市計画法」では、用途に応じて地域を13種類に区分し、それぞれについて建築可能な建物の種類を「建築基準法」であらかじめ定めている5。都道府県は、こうした建築制限を前提に「用途地域」を指定し、区域ごとの土地利用を計画的に管理している(図表2)。

まず、住居系は8種類に区分される。主に住宅の建築を中心としながらも、周辺環境に応じて日用品店や診療所、集合住宅などの建築が制限付きで認められている。具体的には、良好な低層住宅地の形成を目的とする「第一種低層住居専用地域」と「第二種低層住居専用地域」、中高層住宅の立地を想定する「第一種中高層住居専用地域」と「第二種中高層住居専用地域」、商業施設との共存を想定する「第一種住居地域」と「第二種住居地域」、自動車関連施設の立地も可能な「準住居地域」、そして農業と居住の共存を目的とする「田園住居地域」である。なお、第一種は主要用途を明確に限定しているのに対して、第二種は「主に」とされ、用途の制限を緩和している。

次に、商業系は2種類に区分される。主に近隣住民向けの店舗を想定する「近隣商業地域」、百貨店や映画館、大型オフィスビルなどが立地可能な都市中心地となる「商業地域」である。なお、いずれの地域でも住宅の建築は可能である。

続いて、工業系は3種類に区分される。住宅との共存が可能な軽工業中心の「準工業地域」、幅広い工場の立地が可能で一部住宅も認められる「工業地域」、住宅や学校などの建築が認められない工業活動専用の「工業専用地域」である。

これらの「用途地域」は、それぞれの土地の機能や安全性、周辺環境との調和を図るために設けられており、都市の持続的な発展や住民の生活の質を守るうえで重要な役割を担っている。
図表2 用途地域
では、次のような不動産利用を検討した場合、どの「用途地域」で実現可能だろうか。

<事例1> 
・自宅を建築することになった。あわせて小さな喫茶店を併設したい。

戸建て住宅は、「工業専用地域」を除く12の「用途地域」で建築可能である。そして、喫茶店、理髪店・美容院、学習塾等のサービス業店舗は「工業専用地域」を除く12の「用途地域」で併設することができる。ただし、用途地域や行政区によってはより細かい制限がある6

<事例2>
・自宅の戸建てを、民泊として活用したい。

ホテルや旅館を建築できる区域は、「第一種住居地域(3,000㎡以下)」、「第二種住居地域」、「準住居地域」、「近隣商業地域」、「商業地域」、「準工業地域」に限られ、建築段階から厳格に運用されている。しかし、2018年に施行された「住宅宿泊事業法」により、民間の住宅を宿泊施設として活用できるようになった。同法を根拠に、「工業専用地域」を除く12の「用途地域」で民泊の運営が可能である。ただし、民泊は区市町村の条例で制限が課される場合があり、当然その内容を遵守する必要がある7
 
5 都市計画法8条、建築基準法18条ほか。参考:東京都「用途地域による建築物の用途制限の概要」 https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/toshiseibi/pdf_kanko_area_ree_youto_seigen
6 「第一種低層住居専用地域」に建築できるのは、一般的に店舗の面積が50㎡以下かつ全体の面積が半分以下である場合である。また、田園住居地域では2階以下の農家レストラン等である必要がある。
7 民泊運営の枠組みには、届け出制の住宅宿泊事業法(営業日数が年間180日以内との制限)と、許可制の旅館業法(営業日数の制限なし)、特区民泊(営業日数の制限ないが条件がある場合がある)の3つがある。また、行政区によっては別途制限がある場合がある。

4―「公法上の制限」は、社会の安全や快適な生活環境を守るための社会ルール

不動産の「所有権」に対する「公法上の制限」の1つに、「用途地域」の指定が挙げられる。「用途地域」は13種類あり、それぞれの土地の機能や安全性、周辺環境との調和を図ることで、都市の持続的な発展や住民の生活の質を守るうえで重要な役割を担っている。「公法上の制限」は、「公共の福祉」を増進することを目的として、社会全体の安全や快適な生活環境を守るためのルールであり、「不動産」の所有者は、これらのルールを遵守することが求められる。

次回は、「所有権」の制限のうち、「共有」について述べることとしたい。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年08月25日「研究員の眼」)

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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

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