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2025年06月18日

貿易統計25年5月-米国向け自動車輸出が価格低下を主因として大幅減少

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.価格低下を主因として輸出入ともに前年比で減少

財務省が6月18日に公表した貿易統計によると、25年5月の貿易収支は▲6,376億円の赤字となったが、赤字幅は事前の市場予想(QUICK集計:▲8,852億円の赤字、当社予想は▲7,914億円の赤字)を下回った。輸出が前年比▲1.7%(4月:同2.0%)と8ヵ月ぶりに減少したが、輸入が前年比▲7.7%(4月:同▲2.2%)と輸出の減少幅を上回ったため、貿易収支は前年に比べ5,876億円の改善となった。

輸出の内訳を数量、価格に分けてみると、輸出数量が前年比1.8%(4月:同0.5%)、輸出価格が前年比▲3.5%(4月:同1.5%)、輸入の内訳は、輸入数量が前年比1.7%(4月:同2.8%)、輸入価格が前年比▲9.2%(4月:同▲4.9%)であった。
貿易収支の推移/貿易収支(季節調整値)の推移
輸出金額の要因分解/輸入金額の要因分解
季節調整済の貿易収支は▲3,055億円と3ヵ月連続の赤字となったが、4月の▲3,492億円から赤字幅は若干縮小した。輸出が前月比0.1%の増加となる一方、輸入が同▲0.3%の減少となった。
原油価格(ドバイと入着ベース)の推移 25年5月の通関(入着)ベースの原油価格は1バレル=75.4ドル(当研究所による試算値)と、4月の79.2ドルから低下した。原油価格(ドバイ)は、イスラエルがイランを攻撃したことを受けて70ドル台まで急上昇している。指標価格に上乗せされる調整金、船賃、保険料などを含めた通関ベースの原油価格は、6月には70ドル程度まで低下するものの、7月以降は大きく上昇することが見込まれる。

2.米国向け自動車輸出の減少幅が急拡大

25年5月の輸出数量指数を地域別に見ると、米国向けが前年比▲1.4%(4月:同1.2%)、EU向けが前年比6.3%(4月:同▲4.4%)、アジア向けが前年比1.5%(4月:同1.5%)、うち中国向けが前年比▲7.9%(4月:同▲5.3%)となった。
地域別輸出数量指数(季節調整値)の推移 25年5月の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前月比0.6%(4月:同0.3%)、EU向けが前月比4.2%(4月:同▲4.3%)、アジア向けが前月比0.3%(4月:同▲2.2%)、うち中国向けが前月比0.9%(4月:同▲3.4%)、全体では前月比1.0%(4月:同▲1.2%)となった。

25年4、5月の平均を1-3月期と比較すると、米国向けが+0.3%、EU向けが+2.0%、アジア向けが▲1.3%、中国向けが▲3.1%、全体が▲0.0%となっている。

米国向け輸出は関税が引き上げられた中でも数量ベースでは横ばい圏で踏みとどまっている。
米国向けの輸出数量は4月が前年比1.8%、5月が同▲1.4%と横ばい圏の動きとなっており、数量面では関税引き上げの影響が顕著に表れていない。一方、4月の米国向けの輸出価格指数は3月の前年比8.4%から4月に同▲3.0%とマイナスに転じた後、5月は同▲9.8%と低下幅が大きく拡大した。輸出価格低下の一因は円高だが、為替レートの変動以上に輸出価格指数は低下している。

25%の追加関税が課せられた米国向け自動車輸出は4月に前年比▲4.8%と4ヵ月ぶりの減少となった後、5月は同▲24.7%と減少幅が大きく拡大した。5月は輸出数量が前年比▲3.9%(4月:同11.8%)と減少に転じたことに加え、輸出価格が4月の前年比▲14.8%から同▲21.7%と低下幅が拡大したことが輸出金額の減少幅拡大につながった。

貿易統計の輸出価格指数は円ベースのため、為替変動の影響が含まれるが、日本銀行の「企業物価指数」では、契約通貨ベースと円ベースの輸出物価指数が公表されている。北米向け乗用車の輸出物価指数を契約通貨ベースでみると、3月の前年比▲1.5%から4月が同▲8.1%、5月が同▲18.9%と2ヵ月連続でマイナス幅が急拡大した。
米国向け自動車輸出の推移/輸出物価(北米向け乗用車)の推移
米国向け鉄鋼輸出の推移 一方、3月から25%の追加関税が課せられている(6月に50%まで引き上げ)米国向け鉄鋼輸出は4月の前年比▲29.0%から5月には同▲1.5%と減少幅が大きく縮小した。5月は数量、価格ともに低下幅が前月から大きく縮小した(輸出数量:4月:前年比▲20.3%→5月:同▲1.0%、輸出価格:4月:前年比▲10.9%→5月:同▲0.5%)。鉄鋼は自動車と異なり価格の大幅な低下は見られない。産業によってトランプ関税への対応が分かれているようだ。
 
関税引き上げによる輸出への影響は、価格競争力低下に伴う数量の減少と数量の落ち込みを緩和するための輸出企業の価格引き下げに分けられる。米国向け自動車輸出は5月には数量、価格ともに落ち込んだが、価格の落ち込みによる影響が圧倒的に大きい。関税コストを一定程度吸収するために、自動車メーカーが価格の大幅な引き下げを行っていると判断される。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
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(2025年06月18日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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