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家計消費の動向(単身世帯の比較:~2025年3月)-節約余地が小さく、二人以上世帯と比べて弱い消費抑制傾向

生活研究部 上席研究員 久我 尚子
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1――はじめに~個人消費は足踏み状態、消費市場で存在感の増す単身世帯、全体の約4割で増加傾向
さて、2025年3月の個人消費は、既出レポート1で示した通り、実質賃金の回復が依然として不十分であることから足踏み状態が続いている(図表2)。同月の現金給与総額は前年同月比で▲2.1%(速報値)であり、前月(▲1.5%)からさらに低下している(厚生労働省「毎月勤労統計」)。今年の春闘では昨年を上回る高い賃上げが実現されたものの、実質賃金が安定的にプラス圏で推移するまでには、一定の時間を要する見通しである。
こうした状況を踏まえ、本稿では、総務省「家計調査」を基に、コロナ禍以降、2025年3月までの単身世帯の消費動向について分析する。
1 久我尚子「家計消費の動向(二人以上世帯:~2025年2月)-物価高の中で模索される生活防衛と暮らしの充足」、ニッセイ基礎研レポート(2025/4/22)
2――単身世帯の消費支出の概観~二人以上世帯より消費抑制傾向は弱い、娯楽にはやや積極姿勢
なお、世帯消費動向指数は2020年を基準としているため、基準年の水準が低い場合には、他の年の消費水準は相対的に高くなりやすい。しかし、2019年と比べた2020年(コロナ禍)年の消費の落ち込みは、単身世帯と二人以上世帯でおおむね同程度であったと見られる。
よって、単身世帯で消費抑制傾向が弱い要因としては、(1)もともと住居費(家賃などの固定費)が消費全体に占める割合が高く(図表3(b))、節約の余地が限られていること(逆に二人以上世帯では節約の余地が大きいと言える)、(2)物価上昇局面で可処分所得の減少傾向が弱いこと(図表4)などがあげられる。なお、図表4は2020年の可処分所得に対する各年の増減率を示しているが、2020年には「特別定額給付金」として国民一人当たり10万円が支給されている。よって、勤務先収入などの他の収入が増加していなければ、2020年との比較において、2021年以降の可処分所得は減少しやすい状況にある。
あらためて図表4を見ると、単身勤労者世帯では、これまで35~59歳の可処分所得が伸びていたために、単身勤労者世帯全体としても2021年・2022年の可処分所得は増加しているが、2023年以降では減少に転じている。一方、二人以上世帯では2021年以降、減少傾向にある。なお、2024年では、単身世帯でも二人以上世帯でも勤労者世帯の可処分所得の減少率は2023年と比べて縮小しており、この背景には、最近の若年雇用者層を中心とした賃上げの進展があると見られる(どちらも実収入の約9割が勤め先収入)。実際に、2024年では、二人以上世帯の29歳未満の若年世帯では、可処分所得が増加に転じている。一方で、同じく二人以上世帯のうち、70歳以上の勤労者世帯では可処分所得の減少傾向が続いており、減少率の縮小も見られない。さらに、高齢者の多い無職世帯(2024年で二人以上無職世帯の世帯主の平均年齢は75.4歳)では、可処分所得が約1割減少した状況が継続している。
2 「家計調査」「家計消費状況調査」「家計消費単身モニター調査」を合成して得られた消費支出を元に、基準年(2020年)
を100とする指数。
3 単身世帯の消費行動は個人の意思決定に依存しているため、消費やライフスタイルに関わる多様性の影響を受けやすいことや、1回の大きな支出が全体に占める割合が高くなり、全体へ与える影響が大きいことなどから変動が大きくなる。
あらためて消費内訳の状況を見ると、2020年以降、二人以上世帯では「食料」や「住居」、「家具・家事用品」の支出が減少傾向を示しているのに対して、単身世帯ではこれらの費目はおおむね横ばいで推移している。これは、前述の通り、単身世帯では、住居費が消費支出全体に占める割合が高く、節約の余地が小さいことがあると考えられる。一方で、「交通・通信」や「教養娯楽」については、単身世帯・二人以上世帯ともに増加傾向にある。
これらの動きについて、以前のレポート1で述べた通り、二人以上世帯では、消費行動が平常化する一方で物価高が継続する中、実質的な可処分所得の目減りを背景に、生活必需品を抑えて、娯楽を優先する「メリハリ消費」の傾向がある。
単身世帯では、可処分所得が減る中でも二人以上世帯のように生活必需品を抑える傾向は明確には見られないが、旅行やレジャーなどの娯楽的な支出や、それに関連する項目に対しては、相対的に積極的な消費姿勢を示している点は同様である。
3――まとめ~単身世帯の増加で多様化する消費、きめ細やかな商品提供と政策設計の必要性
また、節約の余地が小さいために、単身世帯では、二人以上世帯で見られる「メリハリ消費」(生活必需品の出費を抑えて、娯楽費を優先する)といった消費行動が明確には見られなかったが、生活必需品と比べて娯楽関連の出費については相対的に積極的な様子は見て取れた。
冒頭で示した通り、単身世帯は増加傾向にあり、2030年には総世帯の4割を超えると予測されている。こうした世帯構造の変化は、消費市場においても多大な影響を及ぼす。
単身世帯が増えることで、世帯の消費行動や価値観は一層多様化しており、従来「標準的」とされてきた家計モデルは、もはや個人消費全体を代表するものとは言い難くなっている。
今後は、世帯特性をより的確に捉えた商品・サービスの提供に加えて、きめ細やかな経済政策の設計が一層求められるだろう。特に、単身世帯の動向を把握することは、将来の消費構造や家計支援の在り方を考える上でも重要な視点である。
(2025年06月06日「基礎研レポート」)

03-3512-1878
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/06/06 | 家計消費の動向(単身世帯の比較:~2025年3月)-節約余地が小さく、二人以上世帯と比べて弱い消費抑制傾向 | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
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