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2025年05月23日

中国経済:2025~26年の見通し-米中の緊張緩和で成長率「+5%前後」目標の達成に一筋の光明

経済研究部 主任研究員 三浦 祐介

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1.中国経済の見通し

中国の2025年1~3月期の実質GDP成長率は、前年同期比+5.4%と、前期(24年10~12月期)の同+5.4%から横ばい推移となった(図表1)。需要項目別にみると、純輸出が引き続き経済のけん引役となっているほか、経済対策の下支えにより内需が改善した(図表2)。単月の指標をみると、米中関税合戦が激化した4月でも、外需の勢いは不安定ながらも依然強く、内需の減速も限定的だ(図表3)。

今後を展望すると、これまで同様、下振れ(米中摩擦および不動産不況)と上振れ(経済対策の効果)の要因が併存すると考えられるが、直近の情勢を踏まえると下振れリスクは低下している。最大の懸念材料である米国の対中追加関税に関しては、4月の相互関税発表を機に、米中による関税の応酬が一時エスカレートしたが、5月に閣僚級会談が実施され、いったん沈静化している。米中交渉の先行きは依然として不透明であるが、今後、100%を超える極端な関税合戦が再来する可能性は低いとみられることから、米国の対中関税に関する前提としては、従来同様の水準(30%)想定している。もうひとつの下振れリスクである国内不動産不況に関しては、改善の足取りは重いものの小康状態を維持している。他方、上振れ要因となる国内の経済対策に関しては、切れ目なく実施されており、1~3月期には想定を上回る効果をあげた。米中摩擦が再び悪化した場合には、追加対策を講じる構えもできているようだ。

以上を踏まえ、中国の実質GDP成長率は、25年から26年にかけて、それぞれ+4.6%、+3.7%と予想する(図表4)。25年の「+5%前後」の成長率目標は、関税合戦の激化により一時達成が危ぶまれたものの、米中の緊張緩和により、一転して達成が視野に入ってきた。もっとも、米中摩擦の動向をはじめ不安要素が完全に払拭されているわけではなく、今後の情勢には引き続き注視する必要がある。
(図表1)実質GDP成長率/(図表2)実質GDP成長率の需要項目別寄与度
(図表3)需要関連の主要指標/(図表4)中国のGDP成長率等の見通し

2.実体経済の動向

2.実体経済の動向

(生産・投資・外需)
生産の動向について、4月の前年同月比の伸び率(実質)をみると、鉱工業部門では、前月から伸びが低下した(図表5)。電気機械では伸びが高まった一方、素材や一般設備、自動車など多くの業種で伸びが低下した。サービス業部門では、伸びが前月から低下した。情報通信・ソフトウェア・ITで伸びが高まった一方、卸・小売で伸びが低下した。

PMI調査の結果をみると、製造業では、25年2月から3月にかけて改善したが、4月には景気の好不況の境目である50を下回った(図表6)。サービス業では、25年に入り50をやや上回る水準で推移を続けており、4月は前月から低下した。同調査で需要不足と回答する企業の比率は、24年7月以降具体的には発表されていないが、25年4月時点で、製造業では依然として高水準にあるとされた。
(図表5)生産/(図表6)PMI
投資の動向について、4月の固定資産投資の前年同月比伸び率(名目、以下同)は、前月から低下した(図表7)。業種別にみると、製造業の投資は、伸びが低下。設備投資は、依然として2桁の伸びを続けているが、前月からは減速した。インフラ投資も、相対的に高水準で推移はしているものの、前月からは伸びが低下した。不動産開発投資は、前月に続きマイナス幅が拡大した。

外需の動向について、4月の輸出(ドル建て)の伸びは、前月から低下した(図表8)。国・地域別では、米国向けが減少に転じた一方、ASEAN向けの伸びが大きく高まった。EU向けは伸びが小幅に低下、日本向けは小幅に高まった。財別では、衣類や履物、コンピュータ・同部品、携帯電話などが減少に転じた一方、半導体や液晶パネルでは伸びが高まった。輸入(ドル建て)は、伸びのマイナス幅が縮小した。貿易収支は、約960億ドルの黒字となり、前年同月比で増加した。
(図表7)固定資産投資(業種別)/(図表8)財輸出入(ドル建て)
(消費・家計)
消費の動向について、小売売上高の伸びをみると、4月は前月から低下した(図表9)。財、外食サービスともに伸びが低下した。

一定規模以上企業を対象にした統計で品目別の動向をみると、衣類等で伸びが低下した一方、化粧品や宝飾品は伸びが高まった(図表10)。耐久消費財の買い替え支援策の対象となっている商品は、引き続き高水準の伸びを続けているが、家具、通信機器、自動車では伸びが低下した。家電・AV機器や(タブレットを含む)オフィス用品等の伸びは高まった。不動産関連の財(建築・内装材)の伸びは、不動産市場の持ち直しに伴い改善傾向にあるが、買い替え支援の効果も表れているものとみられる。
(図表9)社会消費品小売総額/(図表10)社会消費品小売総額(一定規模以上企業、財別)
家計の状況について、都市部の調査失業率は、25年3月に続き4月も前月から低下した(図表11)。16~24歳(在学中の学生を除く)の失業率は、卒業シーズンを迎えた24年7月をピークに低下傾向にあったが、25年に入り、前年を上回る水準で推移しており、若年層の雇用環境は引き続き厳しい状況にある。消費者信頼感指数をみると、依然として楽観・悲観の境目である100を下回る水準で推移しており、雇用・所得の先行きは、3月に悪化した(図表12)。
(図表11)調査失業率/(図表12)消費者信頼感指数

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年05月23日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   主任研究員

三浦 祐介 (みうら ゆうすけ)

研究・専門分野
中国経済

経歴
  • 【職歴】
     ・2006年:みずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)入社
     ・2009年:同 アジア調査部中国室
     (2010~2011年:北京語言大学留学、2016~2018年:みずほ銀行(中国)有限公司出向)
     ・2020年:同 人事部
     ・2023年:ニッセイ基礎研究所入社
    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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