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2025年05月09日

東京オフィス市場は賃料上昇率が拡大。J-REIT市場は需給改善で反発-不動産クォータリー・レビュー2025年第1四半期

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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3.不動産サブセクターの動向

(1) オフィス
三鬼商事によると、2025年3月の東京都心5区の空室率は3.86%(前月比▲0.08ポイント)、平均募集賃料(月坪)は14カ月連続で上昇し、20,641円(前月比+0.8%)となった。他の主要都市では、複数の大型ビルの竣工により一時的に空室率が上昇したが、その後のリーシングは順調に進み、札幌を除いて空室率は前年比で低下している4(図表-9)。
図表-9 主要都市のオフィス空室率
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2025年第1四半期の東京都心部Aクラスビル賃料(月坪)は30,509円(前期比+7.1%)と6期連続で上昇し、空室率は6.1%(前期比+0.4ポイント)となった(図表-10)。同社は、「第1四半期は複数の新築ビルが空室を抱えて竣工したため空室率は上昇したが、足元のオフィス需要は活発な状況が続き、これら新築ビルでも成約に向けた話が進んでいることから、今後は空室消化が進む」としている。

また、日経不動産マーケット情報(2025年4月号)によると、「新築オフィスビル45棟5の平均稼働率は79%で、半年前の調査から10ポイント上昇した」とのことである。
図表-10 東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
ニッセイ基礎研究所は、東京都心Aクラスビル市場の見通しを3月に発表した6。「新規供給は続くものの、オフィス環境整備に支えられた需要は堅調であり、空室率は3%~6%のレンジで推移し、成約賃料は今後5年間で+10%上昇する」見通しである。

このように、東京オフィス市場では賃料上昇率が拡大し回復基調が強まっている。一方で、今後はトランプ政権による相互関税の影響が懸念される。製造業を中心に企業業績が悪化し、人員採用計画の見直しや経費削減、企業の設備投資意欲が減退すれば、オフィス需要が一転して停滞する恐れもあり、引き続き市場動向を注視する必要がある(図表-11)。
図表-11 企業の設備投資と東京都心5区オフィス募集賃料(前年比)
 
4 良好な需給環境を背景にいずれの都市も賃料が上昇している。2025年3月時点の平均募集賃料は、札幌(+4.4%)・仙台(+0.7%)・横浜(+2.2%)・名古屋(+1.8%)・大阪・(+1.8%)・福岡(+2.9%)となっている。
5 東京23区で2023年4月~2026年春に完成した、または完成予定の賃貸オフィスビルを含む大規模ビル。原則として、延べ床面積1万m2以上が対象
6 吉田資『東京都心部Aクラスビル市場の現況と見通し(2025年3月時点)』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2025年3月5日)
(2) 賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は、全ての住居タイプで前年同期比プラスとなった。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2024年第4四半期はシングルタイプが+7.3%、コンパクトタイプが+7.8%、ファミリータイプが+8.0%であった(図表-12)。
図表-12 東京23区のマンション賃料
一方で、総務省によると、2025年1-3月累計の東京23区における転入超過数は+35,649人となり、前年同期比▲14%減少した(図表-13)。昨年8月以降、前年同月の水準を下回る月が続いており、都心回帰の動きにやや一服感がみられる。
図表-13  東京23区の転入超過数(各年第1四半期)
(3) 商業施設・ホテル・物流施設
商業セクターでは、円高の影響や世界景気の減速懸念などを背景にインバウンド消費にブレーキがかかり、2月以降、百貨店の売上高が減少に転じている。商業動態統計などによると、2025年1-3月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が+0.1%、スーパーが+2.8%、コンビニエンスストアが+1.5%となった。3月単月では、百貨店が▲2.9%(2カ月連続のマイナス)、スーパーが+3.7%(5カ月連続のプラス)、コンビニエンスストアが+2.7%(2カ月ぶりのプラス)となっている(図表-14)。
図表-14 百貨店・スーパー・コンビニエンスストアの月次販売額(既存店、前年比)
ホテル市場では、引き続きインバウンド需要が牽引し宿泊者数は拡大しているものの、客室料金の高騰を受けて日本人の宿泊需要に頭打ち感がみられる。宿泊旅行統計調査によると、2025年1-3月累計の延べ宿泊者数は前年同期比+3.5%(2019年同期比+11.9%)、このうち日本人が同▲2.7%(同+0.4%)、外国人が同+23.0%(同+57.0%)となった(図表-15)。また、2025年1-3月の訪日外国人客数は約1,053万人となり、四半期としては初めて1,000万人を超えた。
図表-15 延べ宿泊者数の推移(2019年同月比、2020年1月~2025年3月)
物流賃貸市場では、首都圏の空室率が一段と上昇している。シービーアールイー(CBRE)によると、2025年第1四半期の首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率は11.1%(前期比+1.3ポイント)となり、2010年以来15年ぶりに11%を上回った(図表-16)。外縁部を中心に新規供給が継続するなか、空室の消化ペースは鈍く、空室率は当面高止まりする見通しである。一方、近畿圏の空室率は3.8%(前期比+0.1ポイント)と低い水準を維持し、需給は引き締まった状態が続いている。

また、一五不動産情報サービスによると、2025年1月の東京圏の募集賃料は4,700円/月坪(前期比▲1.7%)となり、3四半期連続で下落した7
図表-16 大型マルチテナント型物流施設の空室率
 
7 一方、J-REITが所有する物流施設は賃料の増額改定が続いている。GLP投資法人(2025年2月期)の満期更改時賃料上昇率は+5.2%、日本プロロジスリート投資法人(2024年11月期)の改定賃料変動率は+3.9%であった。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年05月09日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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