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トランプ関税で激動の展開をみせる米中摩擦-中国は視界不良の難局にどう臨むか

経済研究部 主任研究員 三浦 祐介
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3――中国は経済への打撃に耐えつつ、米国以外との関係を強化
累計145%という前代未聞の追加関税に直面した中国だが、現時点での影響はまだ限定的だ。相互関税に対する中国の報復措置発表を受けて、2025年4月7日には株価が約6カ月半ぶりの安値水準まで一時急落したものの、中国政府が即座に株価下支え策を発表したことで、その後報復関税の応酬の間も一段の株安には至っていない(図表4)。実体経済に関しても、25年1~3月期の実質GDP成長率は、前年同期比+5.4%と、好調な出だしとなった。外需の堅調さや経済対策の効果が、成長を下支えした。
もっとも、今後、経済への影響顕在化は必至だ。直接的には、まず対米輸出が減少する。前回の米中貿易摩擦の際にも対米輸出は悪化したが、追加関税の規模や対象は前回と比べて大きく拡大していることを踏まえると、その影響もより深刻となる可能性が高い。米国の対中輸入の状況をみると、第1次トランプ政権時の対中追加関税を経た後でも、対中依存度の高い財は残っており(図表5)、再び迂回輸出が拡大する可能性もあるものの、中国の輸出シェアが高くない財を中心に中国からの調達は減るだろう。また、輸出セクターの業績悪化を起点に設備投資や家計消費への押し下げといった間接的な影響も生じることが予想される9。これらの影響を勘案した経済の押し下げは、追加関税がない場合に比べてGDP比3%強に及ぶと考えられる。中国指導部は、4月以降の経済情勢の悪化を警戒しており10、早くも追加経済対策を打ち出すことが予想されるが、「+5%前後」という25年の成長率目標の達成には暗雲が立ち込めている。

9 中国の産業連関表によれば、2020年時点における製造業の最終需要に占める輸出のシェアは42%である。なお、2024年時点で輸出総額に占める対米輸出のシェアは約15%となっている。また、2024年の就業者数7.3億人に対して、中国商務部によれば、輸出産業に従事する就業者数は1.8億人とされている(例えば、人民网.《中国:改革迈出新步伐》. 2014年2月27日. http://finance.people.com.cn/n/2014/0227/c1004-24477134.html.)。ただし、10年以上前から同様の数値が言及されており、どの程度正確な値かははっきりとしない。
10 李強首相は、2025年4月9日にエコノミストや企業家を招き開催した座談会で「国内外の情勢変化に対して、4~6月期およびそれ以降の経済運営をしっかりと行うことがとくに重要であり、各政策に継続的に力を入れ、さらに力強く取り組む必要がある」と発言している。また、同18日に開催された国務院常務会議では、経済や雇用の安定に向けた対策を強化する考えも示された。
経済面では厳しい局面に陥った中国だが、対外政策の面ではしたたかな動きも見られる。関税を武器に圧力を強め、世界との軋轢が生じ始めた米国を横目に、中国は米国以外の国・地域を相手に積極的に外交を展開している(図表7)。とくに重きを置いているのが、ASEANをはじめとしたアジア周辺国との関係強化だ。25年1月以降の動向をみると、習主席が4月に歴訪したベトナムやマレーシア、カンボジアのほか、スリランカやモルディブ、キルギス、パキスタン、タイ、ブルネイ、モンゴル、バングラデシュなど多数の国と首脳会談を実施している11。
今後、対米交渉における優位性を得る観点からも米国以外との関係強化の動きは続くことが見込まれるが、必ずしも一筋縄ではいかないかもしれない。例えば、中国の対米輸出悪化に伴い中国の供給過剰が一段と強まり、米国以外に安価な中国製品がなだれ込むことで貿易摩擦が争点になり、米国以外からアンチダンピング関税が課せられる可能性はある。また、米国が各国との通商交渉において、中国からの迂回輸出の阻止を交渉のテーブルに乗せることを検討中との報道もある12。真偽のほどや実効性は不明だが、仮に本格的に持ち出されれば、他国は米中の間で板挟みとなり、中国の外交にとっては阻害要因となるだろう。
それでも、長期的にみれば今回のショックを経て、新興国を中心に中国のプレゼンスが高まる可能性は十分にある。過去を振り返ると、2008年以降の世界金融危機の際には、中国も経済的な打撃を受けたものの、これを4兆元の景気対策で乗り切ると同時に、世界における米国一強体制の終焉という変化の兆しを嗅ぎ取り、この頃に外交が積極姿勢へと変わった13。その後、習政権のもとで「中国製造2025」などによる産業高度化や「一帯一路」構想のもとでの新興国を主とした関係強化が進んだ。また、20年のコロナショックでは、再び自国の経済も悪影響を受ける一方で、ワクチン外交などを通じて影響力の強化を試みた。これに対して今回のショックでは、全世界に対する関税の壁の設置や、対外援助機関である国際開発局(USAID)の解体など、自国第一主義のもと、米国が自ら国際社会との関わりを減らそうとしている。中国がこの好機を見逃すことはないだろう。目下は、関税をはじめとするトランプ政権の政策を受け、日々目まぐるしく変化する情勢にキャッチアップしていくことで精一杯ではあるが、今後一段と進むであろう中国の影響力拡大や米中間のデカップリングに対し、日本は外交や産業の面でどのように対応していくか、検討を深める必要がある。
11 このほか、4月10日には、約10年ぶりに周辺国向けの外交方針を議論する中央周辺工作会議を開催し、中国の外交において周辺国が最も重要な位置づけにあることを再確認している。<
12 Dlouhy, Jennifer A., Nancy Cook, and Eric Martin. 2025年4月17日.「狙いは中国包囲網、トランプ政権は貿易相手国に関税妥協の見返り要求」. Bloomberg. https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-04-16/SUTRMRDWRGG000
13 例えば、増田雅之.「第四章 胡錦濤政権期の中国外交 ―『韜光養晦、有所作為』をめぐる議論の再燃―」.『政権交代期の中国:胡錦濤時代の総括と習近平時代の展望』、日本国際問題研究所、2013年3月. https://www2.jiia.or.jp/pdf/resarch/H24_China/04_masuda.pdf
(2025年04月23日「研究員の眼」)

03-3512-1787
- 【職歴】
・2006年:みずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)入社
・2009年:同 アジア調査部中国室
(2010~2011年:北京語言大学留学、2016~2018年:みずほ銀行(中国)有限公司出向)
・2020年:同 人事部
・2023年:ニッセイ基礎研究所入社
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
三浦 祐介のレポート
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