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- 家計消費の動向(二人以上世帯:~2025年2月)-物価高の中で模索される生活防衛と暮らしの充足
2025年04月22日
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1――はじめに~1年前より改善しているが足踏み状態、実質賃金の伸びに不足感
2025年2月の個人消費は1年前と比べれば改善しているが足踏み状態が続いている(図表1)。この背景には、実質賃金の上昇に不足感があることがあげられる。賃金は、昨年秋頃まで改善傾向を示してきた。しかし、政府の物価高対策の縮小を受け、消費者物価が再び上昇へと反転したことで、実質賃金は減少している(2025年2月の現金給与総額は前年同月比▲1.2%:速報値)。今年の春闘は、高水準であった昨年を更に上回る結果であったが1、相対的に賃上げ率の低い中小零細企業勤務者や、従来から正規雇用者と比べて賃金水準の低い非正規雇用者など、先行き不安の強い労働者は多いだろう。
このような中で、本稿では、総務省「家計調査」を基に、コロナ禍以降2025年2月までの二人以上世帯(世帯の過半数)の消費動向について分析する。なお、世帯の約4割を占める単身世帯の動向については別のレポートにて分析する予定である。
このような中で、本稿では、総務省「家計調査」を基に、コロナ禍以降2025年2月までの二人以上世帯(世帯の過半数)の消費動向について分析する。なお、世帯の約4割を占める単身世帯の動向については別のレポートにて分析する予定である。
1 日本労働組合総連合会「2025年春闘 第3回回答集計(2025年4月1日集計・4月3日公表)」によると全産業平均で+5.42%(2024年同時期は+5.24%)。
2――二人以上世帯の消費支出の概観~生活必需品を抑え、娯楽は維持するメリハリ消費
まず、二人以上世帯の消費支出、および内訳で大分類として示される費目の状況を捉える。
二人以上世帯の世帯消費動向指数2(2020年の二人以上世帯の消費支出=100とした指数)を見ると、世帯あたりの消費支出は2023年頃までは減少傾向を示していたが、2024年前半は緩やかな改善傾向へと反転した後、足元にかけては横ばいで推移している(図表3(a))。
図表1に示す総消費動向指数と比べて、図表3(a)の二人以上世帯の世帯消費動向指数(消費支出)では特に足元にかけての減少傾向が強いが、これは、前者は二人以上世帯に単身世帯なども含めた総世帯の消費支出総額(GDP統計の家計最終消費支出に相当)であり、単身世帯数の影響も受けているためである。
なお、国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集(2024)」によると、総世帯数は単身世帯の増加に伴い、増加傾向にある。つまり、図表1と図表3(a)をあわせて考えると、物価高が続く中で、二人以上世帯の(世帯当たりの)消費は単身世帯を含めた全体と比べて抑制傾向にあると言える。
二人以上世帯の世帯消費動向指数2(2020年の二人以上世帯の消費支出=100とした指数)を見ると、世帯あたりの消費支出は2023年頃までは減少傾向を示していたが、2024年前半は緩やかな改善傾向へと反転した後、足元にかけては横ばいで推移している(図表3(a))。
図表1に示す総消費動向指数と比べて、図表3(a)の二人以上世帯の世帯消費動向指数(消費支出)では特に足元にかけての減少傾向が強いが、これは、前者は二人以上世帯に単身世帯なども含めた総世帯の消費支出総額(GDP統計の家計最終消費支出に相当)であり、単身世帯数の影響も受けているためである。
なお、国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集(2024)」によると、総世帯数は単身世帯の増加に伴い、増加傾向にある。つまり、図表1と図表3(a)をあわせて考えると、物価高が続く中で、二人以上世帯の(世帯当たりの)消費は単身世帯を含めた全体と比べて抑制傾向にあると言える。
二人以上世帯の消費支出の内訳を見ると、2020年以降で減少傾向にあるのは「食料」であり、「家具・家事用品」や「住居」もやや減少傾向にある。一方、「交通・通信」は増加傾向が続き、「教養娯楽」についてもやや増加傾向にある。
これらの動きは、コロナ禍の収束により消費行動が平常化する一方で、物価高が継続する中、実質的に目減りしている可処分所得の使途に消費者の選択が現れていることを示している。つまり、食料や日用品などの日常的な消費を抑制しながら、旅行やレジャーなどの娯楽的な支出や、それに関連する項目には一定の支出を維持する傾向がうかがえる。このように、二人以上世帯の消費においては、生活必需品を抑え、娯楽をやや優先する「メリハリ消費」の傾向が引き続き見て取れる。
次節では、これらの大まかな分類では見えにくい変化を捉えるため、景気や消費動向に比較的影響を受けやすい主な個別費目に注目して見ていく。
2 「家計調査」「家計消費状況調査」「家計消費単身モニター調査」を合成して得られた消費支出を元に、基準年(2020年)を100とする指数。2020年1月以降の値が公表されている。
これらの動きは、コロナ禍の収束により消費行動が平常化する一方で、物価高が継続する中、実質的に目減りしている可処分所得の使途に消費者の選択が現れていることを示している。つまり、食料や日用品などの日常的な消費を抑制しながら、旅行やレジャーなどの娯楽的な支出や、それに関連する項目には一定の支出を維持する傾向がうかがえる。このように、二人以上世帯の消費においては、生活必需品を抑え、娯楽をやや優先する「メリハリ消費」の傾向が引き続き見て取れる。
次節では、これらの大まかな分類では見えにくい変化を捉えるため、景気や消費動向に比較的影響を受けやすい主な個別費目に注目して見ていく。
2 「家計調査」「家計消費状況調査」「家計消費単身モニター調査」を合成して得られた消費支出を元に、基準年(2020年)を100とする指数。2020年1月以降の値が公表されている。
3――主な個別費目の状況~物価高で使途(メリハリ消費)の工夫、利便性重視やデジタル娯楽は定着化
総務省「消費動向指数」では個別費目の指数は存在しないため、ここからは「家計調査」における二人以上世帯の各支出額の対前年同月実質増減率を見ていく3。
3 昨年度まではコロナ禍前との対比として対2019年実質増減率を見ていたが、コロナ禍の収束による消費行動の平常化や、最近の物価や賃金などの状況の影響を考慮し、新年度から2019年ではなく対前年実質増減率へと変更している。
3 昨年度まではコロナ禍前との対比として対2019年実質増減率を見ていたが、コロナ禍の収束による消費行動の平常化や、最近の物価や賃金などの状況の影響を考慮し、新年度から2019年ではなく対前年実質増減率へと変更している。
1|旅行・レジャー~暖冬で屋内より屋外の娯楽、物価高で費用を抑えやすい国内旅行やレジャーが選好
二人以上世帯の「宿泊料」や「パック旅行費」は、2024年以降、おおむね横ばいで推移している(図表4(a))。ただし、「宿泊料」は前年(2023年)を上回る月が多いのに対し、「パック旅行費」はおおむね前年を下回っている。「パック旅行費」は、交通費を含み海外旅行の動向に左右されやすいため、2023年夏以降に進行した円安の影響で、需要はあっても割高感が消費の抑制要因となっていると考えられる。
レジャー関連支出も2024年以降は横ばい傾向にあり、各月の増減率の平均はプラスである(図表4(b))。なお、2025年1月には「遊園地入場・乗物代」が大幅に増加した一方で、「映画・演劇等入場料」は減少が目立った。これは、年末年始のカレンダーの並びがよく、連続休暇が取りやすかったことに加え、暖冬かつ晴天の日が多かったため4、消費者が屋外の娯楽を選好した結果と考えられる。
前述の通り、二人以上世帯の「消費支出」全体が減少傾向にある中でも、「教養娯楽」はやや増加傾向を示している。この点を踏まえて旅行やレジャーの動向を合わせてみると、物価上昇により可処分所得が制約される中で、娯楽関連の消費においても優先度の違いや割高感の有無が影響し、支出に温度差が生じている様子が見て取れる。つまり、相対的に費用を抑えやすい国内旅行や遊園地などは選ばれやすい一方で、円安の影響もあり割高感の強い海外旅行は控えられる傾向があると言える。
二人以上世帯の「宿泊料」や「パック旅行費」は、2024年以降、おおむね横ばいで推移している(図表4(a))。ただし、「宿泊料」は前年(2023年)を上回る月が多いのに対し、「パック旅行費」はおおむね前年を下回っている。「パック旅行費」は、交通費を含み海外旅行の動向に左右されやすいため、2023年夏以降に進行した円安の影響で、需要はあっても割高感が消費の抑制要因となっていると考えられる。
レジャー関連支出も2024年以降は横ばい傾向にあり、各月の増減率の平均はプラスである(図表4(b))。なお、2025年1月には「遊園地入場・乗物代」が大幅に増加した一方で、「映画・演劇等入場料」は減少が目立った。これは、年末年始のカレンダーの並びがよく、連続休暇が取りやすかったことに加え、暖冬かつ晴天の日が多かったため4、消費者が屋外の娯楽を選好した結果と考えられる。
前述の通り、二人以上世帯の「消費支出」全体が減少傾向にある中でも、「教養娯楽」はやや増加傾向を示している。この点を踏まえて旅行やレジャーの動向を合わせてみると、物価上昇により可処分所得が制約される中で、娯楽関連の消費においても優先度の違いや割高感の有無が影響し、支出に温度差が生じている様子が見て取れる。つまり、相対的に費用を抑えやすい国内旅行や遊園地などは選ばれやすい一方で、円安の影響もあり割高感の強い海外旅行は控えられる傾向があると言える。
4 気象庁「2025年1月の天候」
(2025年04月22日「基礎研レポート」)
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経歴
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/22 | 家計消費の動向(二人以上世帯:~2025年2月)-物価高の中で模索される生活防衛と暮らしの充足 | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
2025/04/14 | 「トキ消費」の広がりとこれから-体験が進化、共有が自然な消費スタイル、10年後は? | 久我 尚子 | 研究員の眼 |
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