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- 「未定」が広がるのか、それとも見通しを示すのか?~関税政策と企業の開示姿勢~
2025年04月18日
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過去の事例を確認すると、図表1の緑色で囲んだ2011年度(東日本大震災)および2020年度(新型コロナウイルス感染拡大)に、業績見通しを非開示とする企業の割合が大きく上昇した。いずれも突発的かつ先行き不透明な外部要因に直面したことで、業績見通しの前提条件を設定すること自体が困難となった年である。なお、図表中のオレンジの斜線部分は、非開示企業のうち前年度には業績見通しを開示していたにもかかわらず、当該年度では非開示に転じた企業の割合を示している。2011年度および2020年度は、急激な環境変化を受けて開示を見送った企業が非開示企業の大半を占めていた。
一方、図表1の赤色で囲んだ2008~2009年度のリーマン・ショック期においては、非開示率は相対的に低水準にとどまった。リーマン・ショックは市場発の金融危機であり、信用収縮によって企業活動は縮小したものの、一定の前提に基づいて「悪いなりに見通しを立てる」ことが可能だった企業が多かったと考えられる。
次に、企業の開示姿勢は業種によって変化するのか確認した。図表2は業種別の非開示企業の割合を年度別に集計したものである。
一方、図表1の赤色で囲んだ2008~2009年度のリーマン・ショック期においては、非開示率は相対的に低水準にとどまった。リーマン・ショックは市場発の金融危機であり、信用収縮によって企業活動は縮小したものの、一定の前提に基づいて「悪いなりに見通しを立てる」ことが可能だった企業が多かったと考えられる。
次に、企業の開示姿勢は業種によって変化するのか確認した。図表2は業種別の非開示企業の割合を年度別に集計したものである。
業種別にみると、「輸送用機器」「ゴム製品」「鉄鋼」などの業種で、2011年度および2020年度ともに前年度から非開示に転じた企業の割合が上昇していた。これらの業種は、外部要因の影響を受けやすく、見通しの策定が相対的に困難であろうと考えられる。
一方で「食料品」や「医薬品」などの業種は、非開示に転じた企業の割合に大きな変化は見られなかった。これらの業種は、需要の安定性や予測可能性が比較的高く外部環境の変化に対しても影響を受けにくいとして、開示した可能性があったと推察される。
一方で「食料品」や「医薬品」などの業種は、非開示に転じた企業の割合に大きな変化は見られなかった。これらの業種は、需要の安定性や予測可能性が比較的高く外部環境の変化に対しても影響を受けにくいとして、開示した可能性があったと推察される。
■関税政策を直接の理由とした業績見通しの非開示は現時点では確認されず
この時点で決算発表を行った企業のうち、業績見通しを非開示とした企業は5社あった。そのなかでも、前期には業績見通しを開示していたが今期は非開示に転じた企業は3社あった。ただし、いずれも経営統合や完全子会社化に伴う上場廃止予定といった個別要因によるものであり、非開示の直接的な理由が米国の関税政策によるものであるとは確認されなかった。その一方で、業績見通しを開示した企業のなかには、利益計画に米国の関税政策の影響を織り込めていない企業も散見された。特に2月本決算企業は内需型の企業が多いことや、米国による相互関税や自動車輸入に関する関税発表といった動きが顕在化したのが3月下旬以降であったことを踏まえると、景気悪化懸念や貿易摩擦リスクの一段の高まりを決算発表時点で業績見通しに反映させることは難しかったと考える。
今回も、コロナ禍と同様に企業にとって先行きが見通しにくい状況にある。ただし、コロナ禍が突発的かつ世界的な自然由来の事象であったのに対し、今回は米国の通商政策という政策変更に伴う先行き不透明感であり、かつその方針が二転三転することで、不確実性がより複雑化している点が異なる。
こうした状況下では、非開示率は例年よりやや高まる可能性もあるものの、開示する企業においても、関税政策をどの程度織り込むかについて判断が分かれることが予想される。政策の発動時期や対象品目、実効性が依然として流動的であるため、織り込みが不十分であれば保守的、逆に織り込み過ぎれば不確実性を前提とした過度な見積もりにもなりかねず、企業側は非常に難しい判断を迫られている。
とはいえ、不確実性を前提としつつも一定のシナリオを立てたうえで、上場企業としての判断や前提条件を示すことは、投資家との対話や市場の予見可能性の確保するうえで極めて重要である。そのうえで、見通しの開示有無にとどまらず、自社の地域別・商品セグメント別の状況などを踏まえて、関税政策の影響について市場と丁寧に対話していく姿勢が、今後ますます求められるだろう。
今回も、コロナ禍と同様に企業にとって先行きが見通しにくい状況にある。ただし、コロナ禍が突発的かつ世界的な自然由来の事象であったのに対し、今回は米国の通商政策という政策変更に伴う先行き不透明感であり、かつその方針が二転三転することで、不確実性がより複雑化している点が異なる。
こうした状況下では、非開示率は例年よりやや高まる可能性もあるものの、開示する企業においても、関税政策をどの程度織り込むかについて判断が分かれることが予想される。政策の発動時期や対象品目、実効性が依然として流動的であるため、織り込みが不十分であれば保守的、逆に織り込み過ぎれば不確実性を前提とした過度な見積もりにもなりかねず、企業側は非常に難しい判断を迫られている。
とはいえ、不確実性を前提としつつも一定のシナリオを立てたうえで、上場企業としての判断や前提条件を示すことは、投資家との対話や市場の予見可能性の確保するうえで極めて重要である。そのうえで、見通しの開示有無にとどまらず、自社の地域別・商品セグメント別の状況などを踏まえて、関税政策の影響について市場と丁寧に対話していく姿勢が、今後ますます求められるだろう。
(2025年04月18日「基礎研レター」)
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経歴
- 【職歴】
2006年 資産運用会社にトレーダーとして入社
2015年 ニッセイ基礎研究所入社
2020年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)
森下 千鶴のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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