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政策形成の「L」と「R」で高額療養費の見直しを再考する-意思決定過程を検証し、問題の真の原因を探る
基礎研REPORT(冊子版)4月号[vol.337]

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳
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1―はじめに
しかし、患者団体から反発が相次ぎ、3回も方針が変更された挙句、事実上の撤回に追い込まれました。
こうした混乱について、筆者は雑な政策形成過程が原因と見ています。そこで、今回は高額療養費の見直し過程に関する問題点を探ります。見出しで用いている「L」「R」とは正統性(legitimacy)と「正当性」(Rightness)の頭文字であり、この2つで議論を整理します。
2―高額療養費の見直し論議
これに対し、がんなどの患者団体が猛反発しました。特に、直近12カ月の間に3回以上対象になった場合、4回目以降の負担を抑える「多数回該当」に関連し、がんの再発を防ぐ高額な薬などを繰り返し使う長期療養の患者にとって、打撃になる点が問題視されました。
さらに、国会内でも与野党を問わず、反対意見が強まり、政府の方針は二転三転。一度は2025年8月の引き上げだけに止め、その後は凍結することで、予算が衆院を通過しました。
ただ、参院でも反発が収まらず、政府は事実上の撤回に追い込まれました。2024年10月の総選挙で与党が衆院で過半数を失った点や、夏に都議選と参院選を控えている点が考慮された形です。
3―高額療養費見直しの過程
この過程での資料を見ると、医療の高度化などで高額療養費の総額が増えているとして、保険料負担を抑える必要性などが指摘されています。
ただ、実際には「少子化対策の財源確保」というホンネも隠されています。岸田文雄内閣で「次元の異なる少子化対策」が決まった際、約3.6兆円に及ぶ歳出の費用については、主に歳出削減で賄う考えが示されました。
さらに、歳出抑制の方向性を定めるため、政府は2023年12月に「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」(以下、改革工程)を作りました。ここに高額療養費の見直しが盛り込まれていました。
4―「L」「R」で考えると…
つまり、「R」の「正しさ」は1つではなく、審議会などの機会で議論を重ね、できるだけ多くの人が納得できる合意形成プロセスが欠かせないことになります。
ただ、今回の議論は著しく「L」に傾斜しました。その証左として、見直しが浮上した2024年11月の審議会資料では、「改革工程」という「L」が見直し理由の最初に掲げられていました。
改革工程も、検討過程は雑であり、与党や関係団体との調整が実施されていません。つまり、「首相の意向」という「L」だけで作られました。その結果、いずれの段階でも「R」を紡ぐ努力は講じられておらず、「L」が優先され、粗っぽい議論が続きました。これが混乱の真の原因と考えています。
5―おわりに
* 本稿は2025年2月17日拙稿を大幅に改変した。
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=81141?site=nli
(2025年04月08日「基礎研マンスリー」)
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03-3512-1798
- プロフィール
【職歴】
1995年4月~ 時事通信社
2011年4月~ 東京財団研究員
2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
2023年7月から現職
【加入団体等】
・社会政策学会
・日本財政学会
・日本地方財政学会
・自治体学会
・日本ケアマネジメント学会
【講演等】
・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)
【主な著書・寄稿など】
・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数
三原 岳のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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