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「早食いは太る」は本当か~食べる速さは、肥満リスクをどの程度予測できるか

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子
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しかし、特定健診の検査項目や問診内容を見直すときには、この質問が削除候補にあげられることがある。削除候補にあがる主な理由は、特定健診では、将来の生活習慣病リスクを事前に予測できることが重視されるからで、早食いが太るのか、太っている人が早食いなのかが注目される。また、自己申告による質問であるため、誰と比べて早いのかによっても回答は異なり得ること等も指摘されることがある。
そこで、本稿では、早食いは本当に太ることを就労者の健診結果から確認した後、生活習慣病リスクを予測する指標となり得るか議論したい。
1――「早食いは太る」についてわかっていること
また、早食いを改善したら痩せる効果があることを示す研究もある2。子どもの方が大人よりも影響が大きいといった研究もあり3、年齢によって影響が異なる可能性がある。
1 例えば、国立保健医療科学院 咀嚼支援のページFAQ「2. 早食いの人には肥満の人が多いと聞くが本当か?」「3. 早食いの人には肥満傾向にあるというが、早食い=大食いによるのではないか?」(https://www.niph.go.jp/soshiki/koku/kk/sosyaku/faq.html?utm_source、2025年3月7アクセス)
2 厚生労働省e-ヘルスネット「速食いと肥満の関係 -食べ物をよく「噛むこと」「噛めること」」(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/teeth/h-10-002.html、2025年3月7日アクセス)」
3 橋本泰央 他 厚生の指標「食べる速さとBMIに関するメタ分析」第68巻第7号(2021年7月)
2――分析内容
使用したデータは、日本生命保険相互会社が許可を得た健康保険組合から取得した健康診断結果のデータ4で、匿名加工が施されているため個人を特定する情報は含まない。
分析は2つのデータセットで行った。1つ目のデータセットは、2015年度、2016年度、2019年度の3年度とも健診を受けていてBMIのデータが取得できる、加入者資格が「本人」である男女を抽出した5。なお、2015~2019年の全レコードのBMIの分布を確認したうえで、BMIが男女それぞれ99%信頼区間外のレコードを外れ値とみなして除外した6。抽出されたのは、164,706人(男性131,027人、女性33,679人)で、それぞれの平均年齢は2015年度に男性47.2歳、女性46.5歳である。
肥満かどうかの判定には、BMI7を使って、18.5未満を「低体重(やせ)」、18.5以上25未満を「普通体重」、25以上を「肥満」とした8。
2つ目のデータセットは、2019年度に健康診断を受けており、「人と比較して食べる速度が速い(速い/ふつう/遅い)」に回答している男女を抽出した。加入者資格は「本人」と「家族9」とした。抽出されたのは、829,686人(男性516,958人、女性312,728人)で、それぞれの平均年齢は46.4歳、女性46.2歳である。
4 39歳以下も対象とする労働安全衛生法に基づく法定健診と、40歳以上を対象とする高齢者の医療の確保に関する法律に基づく特定健診(特定健康診査、いわゆる「メタボ健診」)の結果。
5 男性は、ほとんどが「本人」だったことと、「本人」以外は、必ずしも職場に健康診断結果を届け出ているとは限らないことから健診結果以外のバイアスも考えられるため、ここでは、男女とも「本人」についてのみ分析を行った。
6 99%信頼区間は、男性[14.5-33.6]、女性[11.7-32.5]
7 BMI=体重(kg)/{身長(m)}2 で計算
8 WHO(世界保健機構)基準では、25以上30未満を「Preobese(過体重)」、30以上を「Obese(肥満)」としているが、日本は欧米と比べてBMIが低くても肥満に起因する合併症の有病率や発症率が高いことが知られており、(一社)日本肥満学会では25以上を「肥満」としている。(小川歩、宮崎滋「肥満と肥満症の診断基準」総合健診42巻2号(2051年))
9 本稿で使用するデータは、健康保険組合から取得しているため、「本人」の健診データはおおむね取得できているが、「家族」については健康保険組合に届け出られたものだけである。「家族」の健診結果を健康保険組合に届け出る理由としては、家族の健康診断へ補助を出している企業があるからだと考えられ、そのほとんどが配偶者への補助だと思われる。そのため、ここで取得できる「家族」のほとんどは「配偶者」であり、何等かの理由で家族の健診結果を健康保険組合に届け出ているケースだと考えられる。
3――分析結果
続いて、2015年度と2019年度のデータを使って、2015年度の食べる速さ別に2019年度の肥満の割合を図表3に示す。図表2と比べると、男女とも就労年代においては、年齢が高い方がBMIが高くなる傾向があるため、男女とも、食べる速さにかかわらず4年後の方が、肥満である割合は高くなっている。
そこで、2015年度に、BMI が「普通体重」であり、かつ、血糖、血圧、コレステロールの服薬がなかった人に限定して、2015年(1年目)の食べる速さ別に、2019年(4年後)の肥満である割合をみると、早食いだった人は、やはり肥満である割合が高い(図表4)。すなわち、問診を回答した時点で肥満でもなく服薬をしていない人であっても、早食いの人は4年後には肥満となっている可能性が高いと考えられる。
(2025年03月27日「基礎研レポート」)

03-3512-1783
- 【職歴】
2003年 ニッセイ基礎研究所入社
村松 容子のレポート
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