- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 社会保障制度 >
- 医療保険制度 >
- “かくれメタボ”の生活習慣病リスク(1)~健診受診年のリスク
“かくれメタボ”の生活習慣病リスク(1)~健診受診年のリスク

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子
肥満でなくても、血液や血圧のうち複数項目が基準外である場合(いわゆる“かくれメタボ”)が問題となっている。“かくれメタボ”は、メタボと同様に心臓病を発症するリスクが高いが、現在の肥満を前提とする保健指導では、指導の対象外となっている。
そこで、健康診断結果データとレセプトデータを使って、標準的に使用されているメタボ判定を細分化した判定基準を作成し、細分化した判定結果ごとの生活習慣病リスクを確認した。まず、本稿「“かくれメタボ”の生活習慣病リスク(1)」では、メタボ判定の結果と、健診受診年の生活習慣病による入院との関係や医療費を分析した結果を報告する。続く次稿「“かくれメタボ”の生活習慣病リスク(2)」では、最初のメタボ判定の結果別に、5年後の判定結果や5年後の生活習慣病との関係を分析した結果を報告したい。
■目次
1――“かくれメタボ”が914万人~これまでのメタボ判定の課題
2――分析方法
1|分析対象者の概要
2|メタボ判定基準の概要
3――分析結果
1|メタボ判定結果
2|メタボ判定の結果と医療機関の受診状況
4――“かくれメタボ”や40歳未満の生活習慣病への対策強化とリスクの周知が必要
1――“かくれメタボ”が914万人~これまでのメタボ判定の課題
「メタボ」(正式には「メタボリックシンドローム」。以下「メタボ」とする。)とは、内臓脂肪が蓄積されることで代謝異常が重なり、心臓疾患や脳疾患、糖尿病などの生活習慣病の発症リスクが高い状態を言う。生活習慣病の予防や重症化防止のために、2008年度から40~74歳を対象に「特定健康診査」(以下「特定健診」とする。)が義務づけられ、メタボの判定が行われてきた。肥満であり、かつ、血液(血糖、脂質)や血圧の測定値が基準外の場合に「メタボ」や「メタボ予備群」と判定され2、保健指導が行われてきた。
ところが、肥満でなくても、血液や血圧のうち複数項目が基準外である場合(いわゆる“かくれメタボ”)は、「メタボ」と同様に心臓病を発症するリスクが高い。今回の厚生労働省研究班による研究は、そういったリスクを抱えた“かくれメタボ”が全国で推計914万人にのぼると推計するものだ。肥満を前提とする保健指導では、“かくれメタボ”は対象外となっている。
そこで、こういった研究をうけて「特定健康診査・特定保健指導の在り方に関する検討会」は、これまでの肥満を条件に指導対象者を選んできた制度を見直し、肥満でなくても血圧などの検査値が基準を超えれば、「非肥満保健指導」の対象とする方針が打ち出した。
このような背景のもと、健康診断結果データとレセプトデータを使って、“かくれメタボ”などの生活習慣病リスクを分析した。分析では、冒頭で紹介した研究における“かくれメタボ”を参考に、標準的に使用されているメタボ判定を細分化した判定基準を作成し、細分化した判定結果ごとの生活習慣病リスクを確認した。まず、本稿「“かくれメタボ”の生活習慣病リスク(1)」では、メタボ判定の結果と、健診受診年の生活習慣病による入院との関係や医療費を分析した結果を報告する。続く次稿「“かくれメタボ”の生活習慣病リスク(2)」では、最初のメタボ判定の結果別に、5年後の判定結果や5年後の生活習慣病との関係を分析した結果を報告したい。
1 2016年1月「厚生労働省科学研究 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究 平成27年度研究成果発表会抄録集」より。「非肥満者のメタボリックシンドローム(かくれメタボ)に関する大規模縦断研究」(研究代表者:名古屋芸術大学 下方浩史教授)によって行われた「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究」の参加者3,983人(観察開始時年齢40~79歳)の健診データを分析した研究。
2 血液(血糖、脂質)と血圧のうち、2つ以上基準外がある場合「メタボ」、1つのみ基準外がある場合「メタボ予備群」と判定される。詳細は図表3をご参照ください。
2――分析方法
(1) 使用したデータ
分析に使用したデータは、(株)日本医療データセンターによる健康診断結果データベースとレセプトデータベースである3。これらのデータベースは、個人を特定しうる情報を完全に削除した上で市販されており、各種研究で活用されている。健康保険組合のデータであるため、60歳以上のデータが少ないほか、2008年度以降は後期高齢者医療制度が施行されたため75歳以上のデータを含まない。
3 データの一部を2012年度財団法人かんぽ財団の研究助成で購入した。本稿の発行にあたっては、(株)日本医療データセンター倫理委員会(IRB)にて内容の確認を行っている。本稿は、(株)日本医療データセンターの提供したデータに依存しており、筆者はその質についてチェックしていない。
4 40歳以上が受ける特定健診を含む。
5 本稿では、2時点の健診のうち1回目の結果のみを使用する。続く「“かくれメタボ”の生活習慣病リスク(2)」で5年後の結果を使用する。
6 肥満の基準は、CT撮影で腹部の断面を撮影した場合に「内臓脂肪の面積が100cm²以上」に相当する水準で決まっている。健診においては、CT撮影を行うより簡易に測定できる腹囲やBMIによる基準を使うことが多い。腹囲とBMIの関係については最終ページの(参考)をご参照ください。
7 図表3の条件より、腹囲、血液(血糖、脂質)、血圧の測定値のうち1つでも基準外の項目があれば、「判定不能(未受診項目あり)」以外に分類される。そのため、「判定不能(未受診項目あり)」には、メタボ判定に必要な項目をすべては測定していないものの、測定した項目については基準内だったサンプルが分類されている。
3――分析結果

1回目の健診でのメタボ判定の結果を年齢別にみると、図表4のとおりとなった。
まず、特定健診の対象である40歳以上についてみると、「メタボなし」は年齢が高いほど減り、60歳以上では13.8%にとどまった。「メタボ」は40歳代以降で概ね7%程度と年齢による大きな差はなかったが、今回注目している「腹囲基準内メタボ(かくれメタボ)」は、年齢が高いほど多く、60歳以上では7.6%にのぼった。
続いて40歳未満についてみると、20歳代の70.5%、30歳代の36.5%が「判定不能(未受診項目あり)」だった。この年齢は特定健診の対象外であるため、受診者によってはメタボ判定に必要な健診項目のすべては測定していなかったことによる8。40歳以上とは違って、血液や血圧で基準外が複数ある「メタボ」や「腹囲基準内メタボ(かくれメタボ)」は少なかったが、基準外が1つある「予備群」の割合を合計すると、20歳代で25%程度、30歳代で35%程度であり、40歳代以降の4割程度と大きな差はない。40歳未満でも特定健診項目を受診し、早めにリスクを認識する必要があるだろう。
「服薬中」についてみると、年齢が高いほど多く、60歳以上では約3分の1にのぼった。
8 20歳代と比べて30歳代では「判定不能(未受診項目あり)」が大幅に減っているのは、年齢を前倒して特定健診と同じ健診項目を受診させている企業があるからだと考えられる。
(2016年05月17日「基礎研レポート」)

03-3512-1783
- 【職歴】
2003年 ニッセイ基礎研究所入社
村松 容子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/01/28 | 保障ニーズを知ることの意義:生命保険 能動的加入者の視点から | 村松 容子 | 保険・年金フォーカス |
2024/12/20 | がんに関する知識とがん検診受診率・がんに関する備え | 村松 容子 | 基礎研レポート |
2024/12/03 | 働くうえで性別による不利益や得を経験したことがあるか~男性は若年ほど「不利益」を経験。中高年以上女性の「不利益」は解消されないままか | 村松 容子 | 基礎研レポート |
2024/11/26 | ニッセイ景況アンケート調査結果-全国調査結果 2024年度調査(2024年9月) | 村松 容子 | ニッセイ景況アンケート |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2025年02月06日
2025年度の社会保障予算を分析する-薬価改定と高額療養費見直しで費用抑制、医師偏在是正や認知症施策などで新規事業 -
2025年02月06日
バレンタインジャンボ2025の検討-狙いは一攫千金? 超高額当せん? それともポートフォリオを作る? -
2025年02月06日
PRA(英国)やACPR(フランス)が2025年の監督・政策上の優先事項や作業プログラムを公表 -
2025年02月06日
インバウンド消費の動向(2024年10-12月期)-2024年の消費額は8.1兆円、訪日客数は3,687万人で過去最高 -
2025年02月05日
インドネシア経済:24年10-12月期の成長率は前年同期比+5.02%~消費が持ち直して再び5%成長に
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【“かくれメタボ”の生活習慣病リスク(1)~健診受診年のリスク】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
“かくれメタボ”の生活習慣病リスク(1)~健診受診年のリスクのレポート Topへ