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なぜ「ひとり焼肉」と言うのに、「ひとりコンビニ」とは言わないのだろうか-「おひとりさま」消費に関する一考察

生活研究部 研究員 廣瀬 涼
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5――なぜ「ひとり焼肉」と言うのに、「ひとりコンビニ」とは言わないのだろうか
「ひとり○○」で最もハードルが高いと言われるディズニーリゾート。参考値ではあるが、Z世代に特化したマーケティングを行う株式会社MERYの「MERYユーザーアンケート(2023年11月実施)」では、東京ディズニーリゾートへは誰と行くことが多いのか聞いているが、「1人」は1.3%と超少数派であったという9。しかし、筆者のようなディズニーオタクの中には、むしろ一人で行くことの方がスタンダードと考える者も少なくないだろう。また、年間パスポートがあった時代、近隣住民はいわゆるオタクでなくともそれを所持し、散歩がてらにふらっとパークを散策していたという。その時そこは彼らにとっては社会一般にいう観光地としての家族旅行やデートとしての「場」=コンテクストではなく、「近所の公園のようなもの」という違う文脈で消費されていたのだ。「ひとりコンビニ」や「ひとり市役所」と何ら変わりはない。
また、たまたま出張で地方に赴き、商談後に帰宅までの空いた時間で観光地を訪れても、誰もそれを「ひとり旅行」と認識しないのではないだろうか。なぜなら出張は一人で行くことが普通だからだ。旅行は一人だと特別なモノとみなされるのに、出張のついでの観光は特異なモノとしてみなされない(みなさない)のは、その消費行動の内容や本質ではなく、ただ旅行か出張かという、形態やモチベーションのみで線引きされているだけなのである。
併せて筆者のようなオタクと呼ばれる消費者や、それを消費するコトを生業にしている人々(フードライターなど)からしたら、それをひとりで消費するコト自体が日常的であり、消費に対するハードルは低いだろう。環境、消費機会、消費頻度、消費対象の多様化など、消費する消費者そのものに多様性がある(=画一化していない)のだから、消費する人数そのものにわざわざ意味を見出す必要があるのかと思う。
8 改めて、身体的・精神的に困難、年齢的に難しいなどの理由で、1人で行動することが難しい消費者がいることを留意しておく。
9 Mery「ディズニーは友人と行くのが定番!Z世代選ぶ人気キャラクター、フード、乗り物、お土産とは?」2023/12/14 https://mery.jp/2472302
6――「ひとり」は属性から概念へ
哲学者三木清の『人生論ノート(新潮社)』には、
「孤独は山になく、街にある。一人の人間にあるのでなく、大勢の人間の『間』にあるのである」
とある。集団の中の孤独という言葉にあるように、我々は、物理的に同じ空間に人がいることよりも、むしろその状況を「いっしょ」と考えるか否かという主観で判断している。飲み会で誰とも話していない時間がある時、集団で歩いている時に自分だけ隣に誰もいない時、カラオケで自分が歌っている時に皆がドリンクバーのために席を立った時、その場は一人でないにもかかわらず孤独感をおぼえる。このように人がまわりにいたとしても、「今はひとりがいい」あるいは「今は人と一緒がいい」と、意識的に選択できると思えば、「ひとり」という状態は見かけではなく、概念や感覚へと変化しているのではないだろうか。
「今は一人がいい」「これは一人で楽しみたい」という判断を消費者が自由に選択でき、外形的なことが意味をなさないからこそ、一人でいることを避けるのではなく、一人で消費する事を積極的に選択することが肯定されるべきである。このような「ひとり」に対する新しい価値観や「ひとり」の消費が持つ社会活性化の可能性に対して、博報堂生活研究所は、「ひとりマグマ」と名付けている。同所が行った「ひとりマグマ」に関する講演には「「個」の時代の新・幸福論」という副題がつけられており、「ひとり」の消費は多様化する社会における新しい幸福の形なのかもしれない。
冒頭で紹介した同所の「ひとり意識・行動調査」を見ると、「趣味・遊びは、みんなよりひとりでやる方が好きだ」は44.2%(93年:31.9%)、「海外旅行に、ひとりで行ったことがある」は14.8%(93年:9.3%)、「1泊以上の国内旅行に、ひとりで行ったことがある」は34.6%(93年:29.4%)と、一人で趣味や旅行することへの抵抗感が下がっていることがわかる。
これは、コロナ禍における「3つの密(密閉空間、密集場所、密接場面)」によって人との接触を回避し、一人で行動する事が推奨されたという事も影響しているのかもしれない。株式会社エアトリが行った「お一人様に関する調査」によれば、コロナ禍で人数の制限がされたことにより「お一人様」で行動ができるようになったことが「ある」人は21.2%と、2割が新しい生活様式によって「ひとり」で行動する事への抵抗感が軽減したことがわかっている11。同調査では、今後やってみたい未経験の「一人〇〇」についても聞いているが、「一人旅(海外旅行)」や「一人焼肉」など、一人でやることに対して敬遠されてきたコトが上位に挙がっている。
10 ITmedia「「おひとりさまツアー」は割高なのに、なぜ利用者が増えているのか “自己紹介なし”の理由」
2025/01/30 https://broom.itmedia.co.jp/business/articles/2501/30/news068.html
11 https://newscast.jp/news/2625831
7――「ひとり」を阻む4つのハードル
博報堂生活総合研究所の「日常生活に関する意識調査(第3回)」によればこのような心理的な要因を含め、「ひとり」行動をしたくてもハードルがある、と68.7%が回答している。また、そのハードルは「資源」「環境」「自意識」「対応力」の4つに分類される。
まず、「資源」は一人だと割り勘できない、高くつく、自分のためだけにお金を使いたくない、など費用12がネックとなっている。「ひとり」行動をしたくてもハードルがあると回答した内44.7%に該当していた。
「環境」は育児や家事などを代われない、家族の負担や干渉を考えると行動しづらい、など自分の都合以外が絡む複雑な環境がネックになっている。回答者の内29.2%に該当していた。
「自意識」は子育てをしないで遊んでると思われる、家族を置いていく後ろめたさがある、変わっていると思われたくない、といった周囲の目がネガティブな感情を生む要因となっている。本記事で筆者が記してきた「おひとりさま」という言葉が生み出す偏見がこれに該当するだろう。回答者の内27.1%に該当していた。
そして「対応力」は言語の問題、事故などの対応、安全面への不安など、自由がある分、責任も自分で全て持つ必要があるというリスクがハードルになっている。回答者の内19.7%に該当していた。
12 余暇を取りづらいなどの、時間の問題もここに含まれる。
8――「ひとり」消費が加速する
また、高速バス事業を運営するWILLER EXPRESS 株式会社が行った「2024年ゴールデンウィーク期間 高速バス「WILLER EXPRESS」の予約動向」13調査によれば、ゴールデンウィーク期間中の利用者数の50.6%が「ライブ・イベント」などの推し活目的で利用すると回答しており、半数を超えている。ホテルの宿泊費用が高騰していることで宿泊費を抑えられるというメリットや、早朝に着くから早くグッズ販売に並べる、そもそも観光が目的ではないから費用を抑えたいという理由からだ。
一方で、女性は夜間に一人でバスに乗るという事に抵抗があるかもしれないが、WILLER EXPRESSのように女性専用車両や女性専用シートの提供、女性客の隣席が女性となるように配置するサービスがある夜行バスも増えており、女性の「ひとり」行動のハードルを下げることに繋がっている。
一人で行動すること自体がネガティブな事として捉えられがちだが、「ひとり」という事が合理的な選択として、より世の中に浸透すること、そして「ひとり」で消費することのハードルが下がることで、「おひとりさま」や「ぼっち」と呼ばれる状態(レッテル)がむしろ普通になっていき、そのような言葉を使う必要がない社会に進化していけばいいと切に願っている。
13 WILLER EXPRESS 株式会社「高速バス「WILLER EXPRESS」、ゴールデンウィークの予約動向速報 「推し活」での
利用が半数超え、長距離路線を中心に空席少なく 連休中日が予約の穴場!」2024/04/19 https://www.willer.co.jp/news/press/2024/0419_5831
(2025年03月24日「基礎研レポート」)

03-3512-1776
- 【経歴】
2019年 大学院博士課程を経て、
ニッセイ基礎研究所入社
・公益社団法人日本マーケティング協会 第17回マーケティング大賞 選考委員
・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員
【加入団体等】
・経済社会学会
・コンテンツ文化史学会
・余暇ツーリズム学会
・コンテンツ教育学会
・総合観光学会
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