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- 家計債務の拡大と老後に向けた資産形成への影響
2025年04月03日
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49歳以下で純金融資産額のマイナス幅が広がっている理由として、貯蓄額は増えているものの、それ以上に負債(主に住宅ローン)が拡大していることが挙げられる。世帯収入がほとんど増えていない中で不動産価格が上昇し、世帯当たりの住宅ローン借入額が大きくなっているためである。一方で、50~59歳の世代の純金融資産額は従来と同様、横ばいで推移している。したがって、49歳までの世代で見られる長期的な債務の拡大傾向が、現時点では50歳以降の純金融資産額の形成に大きな影響を与えていないものと解釈できる。
この背景には、長期にわたる低金利下での金融機関同士のローン獲得競争により、従来よりも低い金利で住宅ローンを借り入れできるようになった結果、元本返済のスピードが速まっているという点が挙げられるだろう。ただし、2020年代に入ってからは、主に返済比率(年収に占める年間の返済額)を軽減することを目的に最長借入期間を従来の35年から40~50年へと長期化する住宅ローンの提供が一般化しつつある。それに応じて、借入期間の長期化に伴う元本返済のスピード低下が、老後資産の形成にどう影響していくのか、引き続き注視が必要である。
また、50歳以降で純金融資産額が横ばい、もしくは増加傾向にある背景としては、金融資産や不動産価格の上昇が長く続いた結果、資産承継の規模が拡大していることも指摘できる。例えば、2024年12月に公表された「令和5年分 相続税の申告事績の概要」(国税庁)によれば、2014年から2023年にかけて、相続税の課税価格は11.5兆円から21.6兆円へ(税額は1.4兆円から3.0兆円へ)増加している。この相続における規模の拡大は、49歳以下で生じている家計債務の拡大の状況から老後資金を確保していくうえで、見過ごせないサポート要因となっていると考えられる。
以上を踏まえると、マクロの視点では、49歳以下の世代における家計債務の拡大は、現段階では老後の資産形成に大きな支障をきたしてはいないと考えられる。しかし先述のとおり、借入期間の長期化に加え、祖父母や父母からの資産承継が期待できない世帯も存在するであろうことを念頭に置けば、今後、純金融資産の格差拡大の可能性に留意する必要があるだろう。
さらに、この格差問題への懸念は世帯収入の高さで単純に解消されるわけではない。図表2は、2002年の世帯収入階級別の純金融資産額の水準をそれぞれ100とした場合の増減の推移を示したものである。収入が相対的に低いカテゴリ(第1階級:紫色、第2階級:橙色)では純金融資産額が増えているものの、世帯収入が相対的に高いカテゴリ(第4階級:黄色、第5階級:青色)では減っていることが分かる。金融資産や不動産の価格が上昇してきた環境下において、世帯収入の高さは、貯蓄の増加以上に負債の増加に結びついているのである。
この背景には、長期にわたる低金利下での金融機関同士のローン獲得競争により、従来よりも低い金利で住宅ローンを借り入れできるようになった結果、元本返済のスピードが速まっているという点が挙げられるだろう。ただし、2020年代に入ってからは、主に返済比率(年収に占める年間の返済額)を軽減することを目的に最長借入期間を従来の35年から40~50年へと長期化する住宅ローンの提供が一般化しつつある。それに応じて、借入期間の長期化に伴う元本返済のスピード低下が、老後資産の形成にどう影響していくのか、引き続き注視が必要である。
また、50歳以降で純金融資産額が横ばい、もしくは増加傾向にある背景としては、金融資産や不動産価格の上昇が長く続いた結果、資産承継の規模が拡大していることも指摘できる。例えば、2024年12月に公表された「令和5年分 相続税の申告事績の概要」(国税庁)によれば、2014年から2023年にかけて、相続税の課税価格は11.5兆円から21.6兆円へ(税額は1.4兆円から3.0兆円へ)増加している。この相続における規模の拡大は、49歳以下で生じている家計債務の拡大の状況から老後資金を確保していくうえで、見過ごせないサポート要因となっていると考えられる。
以上を踏まえると、マクロの視点では、49歳以下の世代における家計債務の拡大は、現段階では老後の資産形成に大きな支障をきたしてはいないと考えられる。しかし先述のとおり、借入期間の長期化に加え、祖父母や父母からの資産承継が期待できない世帯も存在するであろうことを念頭に置けば、今後、純金融資産の格差拡大の可能性に留意する必要があるだろう。
さらに、この格差問題への懸念は世帯収入の高さで単純に解消されるわけではない。図表2は、2002年の世帯収入階級別の純金融資産額の水準をそれぞれ100とした場合の増減の推移を示したものである。収入が相対的に低いカテゴリ(第1階級:紫色、第2階級:橙色)では純金融資産額が増えているものの、世帯収入が相対的に高いカテゴリ(第4階級:黄色、第5階級:青色)では減っていることが分かる。金融資産や不動産の価格が上昇してきた環境下において、世帯収入の高さは、貯蓄の増加以上に負債の増加に結びついているのである。
老後に向けて「(家計調査が示す)資産形成の平均的な姿」を実現するには、少なくとも50代には純金融資産額をプラスに持っていけるような貯蓄・負債管理が求められることになる。特に、金利上昇局面では変動金利型で住宅ローンを借り入れていると返済負担が増すことになる。そのため、金利上昇時であっても安定的に貯蓄額を確保できる短中期の金融商品(預貯金や個人向け国債など)を活用しながら必要に応じて繰り上げ返済で負債を減らしつつ、さらにNISAやiDeCoなどの活用からリスク資産も含めた運用で長期的に貯蓄を増やしていくことが、これまで以上に重要になるだろう。
このように家計の貯蓄と負債の状況をチェックすることは、長期的なライフプランを考える上で有用である。理想を言えば、家計調査の対象になっていない将来収入(賃金、年金収入など)や住宅価値を貯蓄に加えて資産の見積額とし、将来費用(生活費)も負債に含めて総合的に家計のバランスシートを確認し、負債よりも資産の方が大きい状態を安定的に維持していくことが望ましい。
このように家計の貯蓄と負債の状況をチェックすることは、長期的なライフプランを考える上で有用である。理想を言えば、家計調査の対象になっていない将来収入(賃金、年金収入など)や住宅価値を貯蓄に加えて資産の見積額とし、将来費用(生活費)も負債に含めて総合的に家計のバランスシートを確認し、負債よりも資産の方が大きい状態を安定的に維持していくことが望ましい。
(2025年04月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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経歴
- 【職歴】
2005年4月 住友信託銀行株式会社(現 三井住友信託銀行株式会社)入社
2014年9月 株式会社ニッセイ基礎研究所 入社
2021年7月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・経済産業省「キャッシュレスの普及加速に向けた基盤強化事業」における検討会委員(2022年)
・経済産業省 割賦販売小委員会委員(産業構造審議会臨時委員)(2023年)
【著書】
成城大学経済研究所 研究報告No.88
『日本のキャッシュレス化の進展状況と金融リテラシーの影響』
著者:ニッセイ基礎研究所 福本勇樹
出版社:成城大学経済研究所
発行年月:2020年02月
福本 勇樹のレポート
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