2020年04月03日

家計債務からマイナス金利政策について考える

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任   福本 勇樹

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2020年1月8日にスウェーデン中央銀行(リクスバンク)が、政策金利(レポ金利)をマイナス0.25%から0%に引き上げる決定をした。5年間にわたるマイナス金利政策の解除に際して重視された点の一つに、民間債務の膨張による副作用を懸念したことが挙げられる。本稿では、スウェーデンの事例を参考に、家計債務に着目して日本のマイナス金利政策による家計への影響について考えてみたい。

2012年以降、スウェーデンは金融緩和政策下にあった。この期間におけるGDPに対する家計債務の比率の推移を見ると、77%から88%に上昇している(図表1)。このことは、低金利環境の下で、スウェーデンの家計が住宅ローンを借り入れるなどして債務を積み上げた結果、所得の増加率よりも家計債務の増加率が高かったことを意味している。一方で、可処分所得に対する元利返済額の割合を表す債務返済率の推移を見ると、2015年のマイナス金利政策導入前は低下傾向にあったものの、導入後に上昇に転じている。つまり、所得よりも債務が増えていく状況下でマイナス金利政策が導入されたことで、家計において所得増よりも債務の元利返済による負担増の影響の方が徐々に大きくなっていったものと解釈することができる。
図表1:スウェーデンの家計債務と債務返済率の推移
次に、日本のGDPに対する家計債務の比率の推移(図表2)を見ると、2016年1月にマイナス金利政策の導入前まで低下傾向にあったものの(59%→57%)、導入後に上昇傾向に転じたことが分かる(57%→59%)。債務返済率も同様に、マイナス金利政策導入以降より上昇に転じたものとみられる(6.6%→6.9%)。スウェーデンよりも日本の債務返済率の水準の方が低い点を考慮に入れるべきだが、日本の家計においても同様に、マイナス金利政策下において所得よりも債務が増加しており、債務の元利返済額の負担も徐々に大きくなっている。
図表2:日本の家計債務と債務返済率の推移
国際決済銀行(BIS)のデータによると、量的・質的金融緩和が導入された2013年4月以降、日本の家計債務は約31兆円増加している(293兆円→324兆円)。その家計債務の増分の約8割を住宅ローン債務の増加で説明できる。住宅金融支援機構の「民間住宅ローン貸出動向調査」によると、2018年度の金融機関による住宅ローンの新規貸出額の7割が変動金利型であった。また、金融機関による住宅ローンの貸出残高を見ると、2007年度の変動金利型の割合は34%であったが、2018年度は64%にまで上昇している。つまり、低金利環境が長期化している中で、変動金利型住宅ローンが長期的に選好されており、家計が保有する金利リスクは次第に大きくなっている。

金利が上昇するとどの程度の負担増になるのか簡易的な分析を行ったところ 1、現状の債務水準で1~2%程度の金利が上昇した場合、元利返済額の増加は民間最終消費支出(家計の消費)の1%にも満たない程度であった。この理由として、住宅ローン債務者は約定時に平均27年で住宅ローンを借り入れているものの平均16年で完済していることが挙げられる。日本の住宅ローンの債務者は積極的に繰り上げ返済を行うことで金利リスクの削減に努めているため、家計全体で見ると、金利上昇が与える影響は軽微な状況にあるとみられる。

ただし、家計債務の金利上昇リスクが住宅ローン債務を抱える層に集中している点について、考慮すべきである。特に年代が若くなればなるほど、住宅ローンの残存年限が長くなり、保有している金利リスクも大きくなると想定できる。つまり、仮にマイナス金利政策を解除した場合、住宅ローン債務者の所得で十分にカバーできる状況になければ、年代が若い住宅ローン債務者ほど金利上昇による家計債務の支払いの負担増による影響が無視できなくなるだろう。

新型コロナウイルスによるグローバル経済の下押し懸念などもあって、2%の物価安定の目標の実現は依然厳しい情勢にある。そのため、しばらくマイナス金利政策が継続されることが予想される。しかしながら、将来にマイナス金利政策を解除する際には、このような金利上昇による家計の所得と債務への影響も含めて判断する必要があり、難しいかじ取りになると思われる。
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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任

福本 勇樹 (ふくもと ゆうき)

研究・専門分野
リスク管理・価格評価

(2020年04月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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