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- 個人投資家の長期資産形成における金融リテラシー向上の重要性
2019年04月03日
つみたてNISAやiDeCoなどの各種投資促進のための制度が整備され、個人投資家は様々な金融サービスにアクセスすることが可能になり、各自のリスク・リターン目標や制約条件に合わせて、将来の人生設計に向けて資産形成を行えるようになっている。法律や規制の役割も重要だが、個人投資家自身も主体的に金融や経済の知識を得ながら、適切な金融商品を選択していくことも必要になるだろう。このような金融や経済に関する知識や判断力のことを一般的に「金融リテラシー」と呼ぶ。
2015年に行われた金融リテラシーの水準に関する調査結果1によると、日本の成人において金融リテラシーのある人の割合は43%であったことが紹介されている。この調査では、金融や経済に対する知識事項(ポートフォリオの分散効果、インフレーション、金利、複利効果)について4問中3問以上正答すると「金融リテラシー」があると判断している。デンマーク(71%)、ノルウェー(71%)やスウェーデン(71%)といった北欧諸国において金融リテラシーのある成人の割合が最も高く、次にカナダ(68%)、イスラエル(68%)、英国(67%)、ドイツ(66%)やオランダ(66%)といった国々が続く。米国は57%であるなど、先進国における金融リテラシーの水準は相対的に高い結果となっている。この調査結果から、日本国内における金融リテラシーの水準は、残念ながら、他の先進国と比較して決して高いとは言えない状況にある。
この調査結果では、金融リテラシーの水準と一人あたり名目GDPとの関係について言及されている。そこで、各国の「(この調査結果における)金融リテラシーのある成人の割合(2015年)」と「一人当たり名目GDP(2017年)」を並べてみたのが図表1である。一人あたり名目GDPが2万米ドル(約220万円)以上の国・地域に着目すると、金融リテラシーのある成人の割合が高くなると、一人あたりの名目GDPも大きくなる傾向があることが分かる。この理由の一つとして、労働所得だけではなく、資産運用による資本所得の効果も加わるためと推察できるだろう。さらに、一人あたり名目GDPが一定程度の水準になければ、金融リテラシーがあったとしても、所得を増やして生活水準を高めていくことが難しいことも示唆している。
また、この調査結果では数学リテラシーとの関係についても指摘がある。各国の「金融リテラシーのある成人の割合(2015年)」と「15歳の数学リテラシーの水準(2015年)」を並べると、金融リテラシーのある成人の割合について、一定水準(40%中盤)を境に数学リテラシーとの関係性に変化があることが分かる(図表2)。金融リテラシーを身に付けていくには、数学の基礎的な内容に対する理解が必要条件となる可能性がある。この調査では、ポートフォリオの分散効果、インフレーション、金利、複利効果への知識が問われており、特に「割合の計算」への理解が結果に影響したものと考えられる。
1 Financial Literacy around the World,” Standard & Poor’s Ratings Services Global Financial Literacy Survey(2015年)
2015年に行われた金融リテラシーの水準に関する調査結果1によると、日本の成人において金融リテラシーのある人の割合は43%であったことが紹介されている。この調査では、金融や経済に対する知識事項(ポートフォリオの分散効果、インフレーション、金利、複利効果)について4問中3問以上正答すると「金融リテラシー」があると判断している。デンマーク(71%)、ノルウェー(71%)やスウェーデン(71%)といった北欧諸国において金融リテラシーのある成人の割合が最も高く、次にカナダ(68%)、イスラエル(68%)、英国(67%)、ドイツ(66%)やオランダ(66%)といった国々が続く。米国は57%であるなど、先進国における金融リテラシーの水準は相対的に高い結果となっている。この調査結果から、日本国内における金融リテラシーの水準は、残念ながら、他の先進国と比較して決して高いとは言えない状況にある。
この調査結果では、金融リテラシーの水準と一人あたり名目GDPとの関係について言及されている。そこで、各国の「(この調査結果における)金融リテラシーのある成人の割合(2015年)」と「一人当たり名目GDP(2017年)」を並べてみたのが図表1である。一人あたり名目GDPが2万米ドル(約220万円)以上の国・地域に着目すると、金融リテラシーのある成人の割合が高くなると、一人あたりの名目GDPも大きくなる傾向があることが分かる。この理由の一つとして、労働所得だけではなく、資産運用による資本所得の効果も加わるためと推察できるだろう。さらに、一人あたり名目GDPが一定程度の水準になければ、金融リテラシーがあったとしても、所得を増やして生活水準を高めていくことが難しいことも示唆している。
また、この調査結果では数学リテラシーとの関係についても指摘がある。各国の「金融リテラシーのある成人の割合(2015年)」と「15歳の数学リテラシーの水準(2015年)」を並べると、金融リテラシーのある成人の割合について、一定水準(40%中盤)を境に数学リテラシーとの関係性に変化があることが分かる(図表2)。金融リテラシーを身に付けていくには、数学の基礎的な内容に対する理解が必要条件となる可能性がある。この調査では、ポートフォリオの分散効果、インフレーション、金利、複利効果への知識が問われており、特に「割合の計算」への理解が結果に影響したものと考えられる。
1 Financial Literacy around the World,” Standard & Poor’s Ratings Services Global Financial Literacy Survey(2015年)
他に、行動経済学の見地から、金融に対して肯定的か否定的か、金融に対する恐怖感の有無など、投資家の心理や態度も金融リテラシーの高低に影響するという日本国内の調査結果2もある。バブル崩壊後に株安が継続し、低金利環境も長期化するなど、日本では長らく資産運用において成功体験を得るのが難しい中にあったことで、個人投資家に非合理なバイアス(偏見や先入観)を生んでおり、金融リテラシーが低位に留まる一因になっている可能性がある。
これらの調査結果から、金融リテラシーの水準は、その国における経済や教育の水準、投資家のバイアスと密接に関連するとみられる。日本の場合、数学リテラシーは相対的に高いとみられることから、バイアスの抑制が効果的ではないかと思われる。バイアスの抑制には、金融教育が有効とされており、金融リテラシーの向上に寄与するものと考えられる。
2 「行動経済学の金融経済教育への応用-行動バイアスからマインドセット・バイアスへ」(金融庁金融研究センター ディスカッションペーパー、2016年1月)
これらの調査結果から、金融リテラシーの水準は、その国における経済や教育の水準、投資家のバイアスと密接に関連するとみられる。日本の場合、数学リテラシーは相対的に高いとみられることから、バイアスの抑制が効果的ではないかと思われる。バイアスの抑制には、金融教育が有効とされており、金融リテラシーの向上に寄与するものと考えられる。
2 「行動経済学の金融経済教育への応用-行動バイアスからマインドセット・バイアスへ」(金融庁金融研究センター ディスカッションペーパー、2016年1月)
(2019年04月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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経歴
- 【職歴】
2005年4月 住友信託銀行株式会社(現 三井住友信託銀行株式会社)入社
2014年9月 株式会社ニッセイ基礎研究所 入社
2021年7月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
・経済産業省「キャッシュレスの普及加速に向けた基盤強化事業」における検討会委員(2022年)
・経済産業省 割賦販売小委員会委員(産業構造審議会臨時委員)(2023年)
【著書】
成城大学経済研究所 研究報告No.88
『日本のキャッシュレス化の進展状況と金融リテラシーの影響』
著者:ニッセイ基礎研究所 福本勇樹
出版社:成城大学経済研究所
発行年月:2020年02月
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