2025年03月17日

男女別にみたシニア(50代後半~60代前半)の転職状況~厚生労働省「雇用動向調査」(2023年)より~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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1――はじめに

筆者のこれまでのレポートでは1、人手不足の影響で近年、転職市場が活発化し、中高年の転職者割合が増えたり、転職後に賃金アップする割合が増えたりと、中高年労働者にとっても転職のハードルが下がってきたことを説明した。本稿以降のレポートでは、実際に中高年労働者がどのような産業や職業に就いているか、どういった転職をすると、賃金アップ率が高いかなど、具体的な状況について、政府統計の分析結果を報告する。本稿ではまず、シニア(50歳代後半から60歳代前半)の状況についてまとめる。

2――シニアの就業状況

2――シニアの就業状況

2-1│職業別の就業者数ランキング
シニアの転職状況について分析する前に、現状でのシニアの就業状況を確認する。まず、総務省の「労働力調査」(2024年)より、「55~59歳」と「60~64歳」の就業者数を職業別にランキング(「55~59歳」の就業者数による順位付け)したものが図表1である。なお、「就業者」には、自営業者や企業の役員なども含まれる。

まず男性について見ると、「55~59歳」では就業者386万人のうち、最大の77万人が「事務従事者」であり、全体の2割を占める。2位の「専門的・技術的職業従事者」(開発・設計など)、3位の「生産工程従事者」(生産工程で行われる仕事)を合わせて、全体の過半数を占めており、シニア男性の三大職業と言える。因みに、図表には無いが、全ての年齢階級を合わせた男性就業者全体で順位を見ると、首位が「専門的・技術的職業従事」、2位は「生産工程従事者」、3位が「事務従事者」となっているが、シニアになると「専門的・技術的職業従事」と「生産工程従事者」の就業者が大きく減少するため、順位が逆転している。

「60~64歳」でも、職業別の順位は「55~59歳」とほぼ変わりない。それぞれ数は減るが、「事務従事者」、「専門的・技術的職業従事」、「生産工程従事者」がやはり三大職業であり、全体のほぼ半数を占める。ただし「55~59歳」の時と比べると、三大職業では就業者数が2~3割減っており、5位以下の職業に比べて減少幅が大きい。三大職業では、シニアになっても活躍し続ける男性がいる一方で、定年による処遇等の変化が大きく、相対的に離職者が多いという可能性も考えられる。逆に、「55~59歳」のときよりも「60~64歳」で就業者数が増えるのが、順位は下位だが、「農林漁業従事者」と「保安職業従事者」(警備員など)である。その他、タクシー運転手などを含む「輸送・機械運転従事者」も、減少幅は比較的、小さい。

次に女性について見ると、「55~59歳」では就業者318万人のうち、最大の100万人が「事務従事者」であり、全体の3割を超える。図表には記していないが、事務は、25歳から60歳未満のすべての年齢階級で3割前後を占めており、女性にとって最大の職業である。2位は男性と同じ「専門的・技術的職業従事者」だが、内訳を見ると実態は大きく異なる。男性の場合は、「専門的・技術的職業従事者」のうち半数を「技術者」が占めるが、女性の場合は、「専門的・技術的職業従事者」のうち4割強が「保健医療従事者」(看護師など)、4割弱が「その他の専門的・技術的職業従事者」(保育士など)である。

女性の「60~64歳」でも、数は減るが、やはり「事務従業者」がトップで就業者全体の4分の1を占める。ただし、「55~59歳」のときからの減少幅は4割弱に上る。やはり定年の影響が大きいと考えられる。定年で離職したり、担当が現場に移ったりした可能性がある。2位は「55~59歳」の時と順位が逆転して「サービス職業従事者」である。介護職員や調理人などがこれに含まれる。女性では、「60~64歳」になると、「55~59歳」の時よりも多くの職業で就業者数が減るが、唯一、増加するのが「農林漁業従事者」である。
 
図表1 男女別にみたシニアの職業別就業者数ランキング
2-2│産業別の雇用者数ランキング
次に、就業者から自営業者などを除いた「雇用者」(役員を含む)の人数について、産業別に順位付けしたものが図表2である。

まず男性は、「55~59歳」では雇用者386万人のうち「製造業」が4分の1を占める。これに「卸売業,小売業」と「建設業」が続いている。「60~64歳」でも上位の順位は変わらない。「55~59歳」から「60~64歳」への雇用者数の減少幅を見ると、「情報通信業」が最も大きい4割である。「製造業」も約3割と大きい。減少幅が1割未満と小さいのは「医療、福祉」である。逆に、「教育、学習支援業」や「農林業」では、雇用者数が1万人ずつ増加している。

次に女性は、「55~59歳」では雇用者318万人のうち「医療、福祉」が4分の1を占める。これに「卸売業,小売業」と「製造業」が続いている。女性の場合も、「60~64歳」でも上位の順位はほぼ変わらない。雇用者数が「0」の「鉱業,採石業,砂利採取業」を除けば、すべての産業で、「55~59歳」から「60~64歳」になると、雇用者数が1割以上、減少している。
図表2 男女別にみたシニアの産業別雇用者数ランキング

3――シニアの転職状況

3――シニアの転職状況

3-1│転職者数の職業別ランキング
ここからは、厚生労働省の「雇用動向調査」より、シニアの転職状況についてみていきたい。先にお断りしておくと、同調査では、60歳などで定年を迎えていったん退職し、同じ会社から再雇用された人も「転職者」に含めて集計している。従って、「60~64歳」のデータについては、純粋な転職市場の状況を表しているとは言えないため、参考程度で数値を紹介する。

始めに、シニアでは、どんな職業の人が、転職が多いのかについて分析する。同調査より、常用労働者2のうちパートタイムを除く「一般労働者」について、転職者数の職業を、男女別に順位付けしたものが、図表3である。まず「55~59歳男性」では、全体の転職者15万7,000人のうち、「管理的職業従事者」が最大の約3万人である。図表1で見たように、母数となる55~59歳男性の「管理的職業従事者」は約17万人しかいないが、転職を果たした職業のトップを走る。シニアになっても、高い能力や豊富な経験があれば、求人があると言うことができるだろう。働く人の側から見ると、特に大企業では、50歳代後半で役職定年を設ける企業も多いため、役職を降りて、処遇や役割が低下した人が、より良い条件を求めて、中小企業やベンチャーなどに管理職として移るケースがあると考えられる。このことは4-1でも説明する。

次に多いのが「事務従事者」と「専門的・技術的職業従事者」である。雇用動向調査では、転職した「事務従事者」のより詳しい内訳までは分からないが、事務の中でも、高度な職務経験のあるシニアが転職を果たしている可能性がある。ここで、参考に、厚生労働省の「令和2年転職者実態調査」より、「事務的な仕事」の転職者を採用した事業所が「採用した理由」の回答を見ると、「離職者の補充のため」(58.5%)に次いで、「経験を活かし即戦力になるから」(42.0%)が多かった。この集計は、すべての年齢階級を対象としたものだが、単なる不足分の穴埋めであれば、より若い層を優先的に採用すると考えられるため、シニアに関しては、後者の「即戦力になる」が当てはまるケースが多いのではないだろうか。

次に、「55~59歳女性」を見ると、最大は「事務従事者」の1万9,000人である。女性に関しては、「事務従事者」の母数が圧倒的に多いこともあるが、前述したように、事務の中でも、例えば経営管理や人事、財務、法務など、いわゆる「コーポレート職種」と呼ばれるような分野で専門スキルや実績がある女性が、転職を果たしている可能性がある。2位の「サービス職業従事者」には、「介護サービス職業従事者」や、「飲食物調理従事者」、「接客・給仕職業従事者」などが含まれる。医療・介護や飲食サービス業では人手不足感が強いため3、転職しやすいと考えられる。3位は「専門的・技術的職業従事者」である。なお、4位の「管理的職業従事者」は、母数が少ない割に、転職者数の順位が高い。筆者の前稿「女性管理職転職市場の活発化~『働きやすさ』を求めて流動化し始めたハイキャリア女性たち~」(基礎研レポート)でも紹介したように、女性活躍政策などの影響で、特に50代後半で上位管理職に就くような女性人材が、企業間で奪い合いになっている可能性がある。

「60~64歳」についても、参考として記載した。「60~64歳男性」は、上述したように、定年後再雇用の影響で、転職者数自体が21万4,000人と、「55~59歳男性」よりも多い。ただし上位の職業をみると、2-1で紹介した「シニア男性三大職業」の中に「管理的職業従事者」が割り込み、2位となった。管理職に関しては、定年後の再雇用者は少ないと考えられるため、純粋に転職市場の中で、中小企業やベンチャーなどのニーズが大きいと考えられる。「60~64歳女性」では「専門的・技術的職業従事者」、「事務従事者」、「サービス職業従事者」が多かった。
図表3 男女別にみたシニアの職業別転職者数ランキング
 
2 期間を定めずに雇われている人や、1カ月以上の期間を定めて雇われている人。
3 厚生労働省「労働経済動向調査」(令和6年11月)

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年03月17日「基礎研レポート」)

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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性のライフデザイン、高齢者の交通サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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