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高額療養費制度を社会保険と呼べるのか-財源確保に向け社会保険の「ろ過」を提言-

保険研究部 主任研究員・気候変動リサーチセンター兼任 磯部 広貴
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わが国の健康保険は高額療養費制度の存在を論拠として、「最強の医療保険」と賞賛され、民間保険会社による医療保険の活用は不要とまで主張されることもある。
健康保険は社会保険の1つであるが、法令による明確な社会保険の定義は存在しない。教科書的定義では「保険料を財源に保険の技術を用いて給付を行う仕組み」とした上で、保険料の応能負担(負担能力の高い者が多くの保険料を拠出)と租税(公費)の投入を認めている。この2つの要素は保険の2大原則である給付反対給付均等の原則と収支相当の原則を減殺するため、それでも社会保険と呼ぶには保険料と給付の間で「緩やかな等価性」を充足することが必要であろう。
高額療養費制度は、医療機関などで支払う医療費が上限額を超えた場合、その超えた金額を加入者に支給するものである。現状、その上限額は多くの保険料を支払う高所得者で大きく(=給付が少なく)、少ない保険料を支払う低所得者で小さく(=給付が多く)なっているため「緩やかな等価性」は認められず、社会保険と呼ぶことは難しい。
社会保険と社会扶助が混同した制度では財源確保の際に単なる増税の印象を与えかねない。よって社会保険を「ろ過」し、加入者がいずれ自分に戻ってくると期待できる社会保険料の確保を優先してはどうだろうか。これから現役世代が減少する中でも「最強の医療保険」を維持したいのならば、その財源確保は一筋縄でいかないことを覚悟する必要がある。
■目次
1――はじめに
2――社会保険の教科書的定義
3――高額療養費制度の現状
4――おわりに(提言)
(2025年03月12日「基礎研レター」)

03-3512-1789
- 【職歴】
1990年 日本生命保険相互会社に入社。
通算して10年間、米国3都市(ニューヨーク、アトランタ、ロサンゼルス)に駐在し、現地の民間医療保険に従事。
日本生命では法人営業が長く、官公庁、IT企業、リース会社、電力会社、総合型年金基金など幅広く担当。
2015年から2年間、公益財団法人国際金融情報センターにて欧州部長兼アフリカ部長。
資産運用会社における機関投資家向け商品提案、生命保険の銀行窓版推進の経験も持つ。
【加入団体等】
日本FP協会(CFP)
生命保険経営学会
一般社団法人 アフリカ協会
一般社団法人 ジャパン・リスク・フォーラム
2006年 保険毎日新聞社より「アメリカの民間医療保険」を出版
磯部 広貴のレポート
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