2025年02月12日

景気ウォッチャー調査2025年1月~物価高の影響で消費者の財布のひもは固い~

経済研究部 研究員 佐藤 雅之

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1.景気の現状判断DI(季節調整値)は前月差0.4ポイント低下の48.6

内閣府が2月10日に公表した景気ウォッチャー調査によると、25年1月の景気の現状判断DI(季節調整値)は前月差0.4ポイント低下の48.6となり、3か月ぶりの低下となった。

地域別では、全国12地域中6地域で上昇、6地域で低下であった。最も上昇幅が大きかったのは甲信越(前月差4.0ポイント上昇)で、最も低下幅が大きかったのは中国(同3.3ポイント低下)であった。

現状判断DI(季節調整値)の内訳をみると、家計動向関連が前月差▲0.6ポイント、企業動向関連が同0.3ポイント、雇用関連が同▲0.7ポイントであった。今回の調査結果をふまえて内閣府は判断を「景気は、緩やかな回復基調が続いている。先行きについては、価格上昇の影響等を懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている。」から「景気は、緩やかな回復基調が続いている。先行きについては、緩やかな回復が続くとみているものの、価格上昇の影響等に対する懸念がみられる。」へと修正した。
景気の現状判断DI(季節調整値)/現状判断DI(季節調整値)の変動要因

2.物価高による影響で消費者の財布のひもは固くなっている

家計動向関連では、サービス関連(前月差0.5ポイント)は改善したものの、飲食関連(同▲3.2ポイント)や住宅関連(同▲2.0ポイント)は大幅に悪化した。コメントをみると、「初売りや新生活準備のため、来客数が増加するとともに、ついで買い等も多かった」(四国・家電量販店)と、初売りの好調さがうかがえる。その一方で、「インフルエンザが流行している。また、ガソリンや米等、諸物価が上昇しているため節約傾向にあることから、車に乗るのを控えている様子がうかがえる」(甲信越・タクシー運転手)と、物価高による影響で消費者の財布のひもが固くなっているコメントもみられた。

企業動向関連では、非製造業(前月差▲0.1ポイント)は小幅に悪化したが、製造業(同1.5ポイント)は改善した。コメントをみると、「企業の様子をみると、原材料価格や仕入価格の上昇が続いているとしながらも、販売価格の見直しに向けて、商品の改良や品質の改善、商品パッケージの変更、新商品開発など、前向きな取組を進めようとする動きがみられるようになってきた」(北海道・金融)など、企業は原材料価格上昇に伴うコスト増を価格転嫁する動きがみられる。

雇用関連では、「特に、県内の中小企業では、中途及び新卒とも採用に苦戦している状況が続いている。新卒の不足を中途で、中途の不足を新卒でと相互に補完してきたが、現在はいずれも苦戦している」(四国・求人情報誌)など、採用に苦戦している企業がみられる。

下図は、景気ウォッチャー調査の「景気判断理由集(現状)」のコメントをもとに計量テキスト分析1を行い、共起ネットワーク2を作成したものである。景況感が改善したと判断した回答者のコメントには、インバウンド、需要、好調、初売り、年末年始といった単語が多く含まれていることが読み取れる。一方、景況感が悪化したと判断した回答者のコメントには、販売量、値上げ、物価高といった単語が多く含まれていた。
景気判断理由集(現状)のコメントをもとにした計量テキスト分析
 
1 分析にはKH Coder 3(樋口2020)を使用した
2 共起ネットワークとは、よく一緒に使われる語同士を、線で結んだネットワークのことである

3.景気の先行き判断DI(季節調整値)は、前月差1.4ポイント低下の48.0

2~3か月先の景気の先行きに対する判断DIは、前月差1.4ポイント低下の48.0となった。先行き判断DIの内訳をみると、家計動向関連(前月差▲1.4ポイント)、企業動向関連(同▲1.6ポイント)、雇用関連(同▲0.3ポイント)のすべてのDIが低下した。
景気の先行き判断DI(季節調整値)/先行き判断DI(季節調整値)の変動要因
家計動向関連では、「米、野菜を中心に商品単価の大幅な上昇が続くなか、足元の客の購買動向をみると、買上点数がじわじわと減っている。また、周辺店舗との価格競争も前年秋口から激しさを増している。このため、今後、食品に対する客の買物の仕方がますますシビアになる」(北海道・スーパー)や「消費者には節約志向が依然として根付いており、値上げの影響で売上は伸びているものの、販売量については前年割れが続いているため、物価と所得の上昇バランスが見合ってくるまでは同様の状態がしばらく続く」(南関東・スーパー)など、値上げの影響で消費者は購入数量を減らしているとのコメントがみられる。

企業動向関連では、「米国新政権の経済対策において、追加関税等による対外競争力の低下を心配する声も多く、特に製造業においてはその動向を注視している」(南関東・金融業)や「米国向けの製品を多く輸出しており、大統領交代により関税の問題が起きることが予測されていることから、出荷量への影響を懸念している」(中国・一般機械器具製造業)など、トランプ米大統領による関税引き上げなどの通商政策に関心が集まっている。

雇用関連では、「求人の動きに変わりがなく、求職者数も頭打ち状況で、中小企業における人手不足が継続している」(北陸・民間職業紹介機関)など、中小企業の人手不足は引き続き継続しているようだ。

景気ウォッチャー調査の「景気判断理由集(先行き)」のコメントをもとに計量テキスト分析を行い、共起ネットワークを作成すると、景況感が悪化していくと判断した回答者のコメントには、ガソリン、金利、米国、賃金といった単語が多く含まれていた。金利に関しては、「今のペースで金利が上昇していくと、中小企業が利払いに耐えられなくなり、倒産企業が増える」(南関東・金融業)や「インフレの状況に加えて金利上昇によって住宅ローンの支払も増えることが予想され、消費者が高額商品の購入に慎重になっている」(東海・乗用車販売店)といったコメントがみられる。賃金については、「物価が上昇するなかで賃金は上がっていないという声が多く、当分は今の状態が続く」(東海・美容室)と、賃金の上昇が物価高に追いついていないとのコメントがみられる。
景気判断理由集(先行き)のコメントをもとにした計量テキスト分析
2025年1月調査の結果は、物価高による影響で、現状の景況感は悪化していることを示すものであった。帝国データバンクの「食品主要195社 価格改定動向調査-2025年2月」によると、2月の食品値上げは1656品目と2か月連続で前年を上回っていることから、値上げの勢いは強まっており、消費者の節約志向の高まりは継続するだろう。
 
 

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(2025年02月12日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   研究員

佐藤 雅之 (さとう まさゆき)

研究・専門分野
日本経済

経歴
  • 【職歴】
     2020年4月 株式会社横浜銀行
     2024年9月 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

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【景気ウォッチャー調査2025年1月~物価高の影響で消費者の財布のひもは固い~】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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