2025年02月10日

新設された5歳児健診とは?-法定健診から就学までの期間における発達障がいや虐待リスクに対応、その後のフォローアップ体制には課題も-

生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛

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■要旨

2023年12月に閣議決定された「子ども未来戦略」における、今後3年間の集中的な取り組みである「加速化プラン」の具体的な施策のひとつとして乳幼児健康診査(以下、乳幼児健診)の推進が掲げられた。その中で、切れ目のない乳幼児健診の実施体制を整備するため、2023年度補正予算により「1か月児」及び「5歳児」健康診査支援事業が創設され、2024年度現在では全国展開が進められている。本稿では、乳幼児健診に関する市町村の取組み状況や5歳児健診のポイント、課題について概説する。

乳幼児健診は、1歳6か月健診及び3歳児健診は母子保健法における法定健診として位置づけられており、全国の自治体において95%程の実施率であるのに対し、今回新設された5歳児健診は低い水準に留まっている。しかし、5歳児は、幼児の言語の理解能力や社会性が著しく高まる年齢であり、発達障がいが認知されやすい時期であることが指摘されている。また、5歳児健診は、就学に向けて生活習慣の確立やメディア視聴による生活への影響などを抑制するタイミングとして非常に重要な位置づけとなる。

5歳児健診の問診票を見ると、身体的な発育状況の確認に留まらず、「精神・神経発達」や「情緒・行動に関する設問」などでは、自閉症スペクトラム症候群のスクリーニング評価を実施しており、その他にもメディアリテラシーに関する評価、子どもへの養育態度から児童虐待のリスク評価まで幅広く対応をしていることが分かる。

しかし、5歳児健診後のフォローアップ体制には、専門家の心理相談の枠が日中の限られた時間のためにスケジュールが合わないことや、児童精神科への初診までに数か月から1年ほど要すること、療育施設が限られていること、教育機関の受入体制や連携体制に諸々の課題があることが指摘されている。この度の5歳児健診の新設を契機に、健診後のフォローアップ体制の強化も併せて検討する必要があるだろう。

■目次

1――はじめに
2――乳幼児健診の位置づけと取組み状況
  1|乳幼児健診の位置づけ
  2|自治体の取組み状況
3――5歳児健診のポイント
  1|目的と意義
  2|実施体制
  3|問診項目とその解釈
4――5歳児健診後の諸課題
  1|乳幼児健診後のフォローアップ体制
  2|児童精神科の初診までの期間と療育
  3|教育機関との連携体制

(2025年02月10日「基礎研レポート」)

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生活研究部   研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任

乾 愛 (いぬい めぐみ)

研究・専門分野
母子保健・不妊治療・月経随伴症状・プレコンセプションケア等

経歴
  • 【職歴】
    2012年 東大阪市入庁(保健師)
    2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了(看護学修士)
    2019年 ニッセイ基礎研究所 入社

    ・大阪市立大学(現:大阪公立大学)研究員(2019年~)
    ・東京医科歯科大学(現:東京科学大学)非常勤講師(2023年~)
    ・文京区子ども子育て会議委員(2024年~)

    【資格】
    看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者

    【加入団体等】
    日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会

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