2025年02月05日

男女別にみた転職市場の状況~中高年男女でも正規雇用の転職や転職による賃金アップが増加

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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1――はじめに

少子化によって人手不足が悪化する一方、働くシニアが増加していることから、企業はシニアの活用に向けて、役割や評価・賃金体系の見直しに取り組んでいる。しかし、シニアの規模が大きい大企業などでは、役職定年などの雇用慣行によって、活用の仕組みがなかなか整わず、シニア社員のやりがい停滞やモチベーション低下につながっているところもある。

女性に関しては、やりがい停滞問題は、より根が深い。多くの場合、男性に比べて若い頃の職務範囲が狭く、家事育児負担によって働ける時間が制約されてきたことなどから、いわゆる“出世コース”から外れ、能力を十分発揮する機会が与えられないまま、定年に近づいているケースも多いと考えられるからだ。企業人事からみても、シニア男性の活用が優先課題で、人数が少ないミドルシニア女性の活用については、まだノープラン、というところが多いのではないだろうか。

働くシニア男性やミドルシニア女性の立場に立てば、仮に現在の職場でなかなか働く環境が改善されなかったとしても、転職市場に出て、より自分に合った職場を見つけることができれば、よりやりがいを持ち、賃金をダウンさせず、あるいは賃金をアップさせて、働き続けることができるかもしれない。中高年にもなれば、お金よりも他の基準が大事という人も勿論いると思うが、日本では、女性の老後の貧困リスクが高いことは事実である。老後の年金水準を上げるためにも、現役のうちに、賃金水準を上げるチャレンジをすることには意義があるだろう。

本稿はこのような問題意識に立ち、政府統計を用いて、最新の転職市場について、特に中高年層の状況に着目して分析する。そして、シニア男性やミドルシニア女性が、よりより就業人生を送るために、「転職」が現実的な選択肢になり得るのかについて考えたい。

2――近年の転職市場の概況

2――近年の転職市場の概況

2-1│転職者数の推移
総務省の「労働力調査」より、転職者数の過去20年の推移を見ると、中期的な傾向は概ね男女共通である。2000年代半ばにかけていったん上昇し、リーマンショックが起きた2008年頃から減少傾向が続いた後、2010年代後半から上昇に転じ、2019年には男性165万人、女性187万人となってピークを迎えたが、コロナ禍によって再び減少。2022年からは再び上昇に転じ、経済社会活動が正常化した2023年には、男性151万人、女性177万人となって、ピーク時の水準に近づいている。コロナ禍という特殊事情で一時期停滞したものの、2010年代後半から上昇傾向になった要因としては、人手不足の悪化が大きいと考えられる。

男女別に見ると、おおむね女性が男性を上回っている。男性は女性に比べて、結婚・出産等を機とした離職経験が少なく、正社員・正規職員としての長期雇用が多いためだと考えられる。女性の場合は、結婚・出産等を機とした離職が多く、その後は、パートなどの非正規雇用で働く人が多い。非正規雇用に就くと、勤続年数が延びても昇給幅が小さいため、転職のハードルが低くなると考えられる。
図表1 男女別の転職者数の推移
2-2│転職者数に占める中高年層の割合
それでは、転職者のうち、中高年層はどれぐらいいるのだろうか。同じく労働力調査より、転職者数の性別・年代層別の構成割合の推移を示したものが図表2である。仮に、15歳から44歳を「若年層」、45歳以上を「中高年層」とすると、従来は、男女ともに若年層が大部分を占めていたが、近年、その差が縮小している。男性では、若年層と中高年層の比は、2013年には7対3だったが、直近の2023年には6対4となった。女性は、2013年の8対2から、2023年には6対4となっており、縮小幅は男性よりも大きい。

背景には、若年層と中高年層の就業者数自体のバランスが変化していることがある。男性の場合は、近年、少子化によって若年層の就業者数が大きく減少したのに対し、働くシニアが増えて、中高年層が厚くなった。労働力調査より、2013年から2023年までの就業者数の変化を見ると、若年層は200万人減少したが、中高年層は277万人増加しており、対照的である(図表略)。一方、女性の場合は、企業の両立支援が進んで結婚・出産・育児期にあたる20~30歳代の就業率が大幅に上昇したため、男性に比べれば、少子化による若年層の減少が緩和された。2013年から2023年までの変化をみると、若年層は11万人減少に収まり、減少幅は男性よりも小さい。一方、中高年層は同時期に357万人増加した。

求人側でも、このように急激な少子化によって人手不足が常態化しているため、従来に比べて中高年層を積極的に活用する企業が増えたと考えられる。
図表2 転職者に占める若年層と中高年層の構成割合の変化
2-3│転職希望者数の推移
次に、同調査より転職希望者数の過去10年間の推移を性別にみたものが図表3である。男女ともコロナ禍以降、増加のスピードが上がっている。転職希望者数は従来、男性が女性を上回っていたが、コロナ禍以降は女性が男性を上回ったことは、注目すべきだろう。コロナ禍の影響で、勤め先の経営環境や事業内容が変化して、男女いずれも、転職を希望する人が増えたと考えられるが、特に女性の増加幅が大きい要因としては、コロナ禍によって、在宅勤務がしやすい企業と、そうではない企業で差が開いていることから、より家事育児負担が大きく、両立へのニーズが大きい女性の方が、在宅勤務などの柔軟な働き方ができる職場を求めて、転職希望を強めている可能性がある。
図表3 男女別にみた転職希望者数の推移

3――近年の転職市場の質的変化

3――近年の転職市場の質的変化

3-1│正規雇用の転職者はどれぐらいいるのか
ここからは、転職市場の質的変化に注目する。まず、どのような転職が増えているかをみるために、労働力調査のデータから、男女別に、雇用形態の4種類の経過パターンごと(「正規→正規」、「非正規→正規」、「正規→非正規」、「非正規→非正規」)に転職者数の推移をみたものが、図表4である。

男性についてみると、従来から、正規雇用から正規雇用への転職者(グラフ一番下の水色)が最も多いが、2010年代後半からは、さらにこのパターンの増加が目立っている。2013年から2023年までの過去11年間のこのパターンの増加幅は15万人となり、4パターンのなかで最大だった。

女性の場合、もともと雇用者(役員を除く)のうち過半数を非正規雇用が占めてきたため(男性は非正規雇用が約2割)、転職についても、非正規雇用から非正規雇用というパターンが圧倒的に多い(グラフの一番上の濃い青色)。しかしよく見ると、正規雇用から正規雇用というパターンも2013年以降、着実に増え続け、過去11年で倍増した(15万人→33万人)。ただし、正規雇用から非正規雇用というパターンも、過去11年でやや増加した(18万人→24万人)。4パターンを、「正規雇用への転職」と「非正規雇用への転職」の二つにまとめると、その比は、2013には8対2だったが、2023年には7対3となっている。男性に比べれば、依然、件数は半分ほどに過ぎないが、女性でも「正規雇用への転職」が目立ってきている。
図表4 雇用形態別の転職パターンごとにみた転職者数の推移

(2025年02月05日「基礎研レポート」)

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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性のライフデザイン、高齢者の交通サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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