2025年01月31日

2期目のトランプ政権が発足-政策公約実現に向けてロケットスタート。注目される関税政策の行方

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.はじめに

1月20日に第47代大統領として2期目のトランプ政権が発足した。1期務めた後に落選を挟んで大統領に返り咲くのは1892年のクリーブランド大統領以来132年ぶりとなる。トランプ大統領は与野党の議席数差が上院で6議席、下院で僅か3議席と僅差となっているものの、上下院で与党共和党が過半数を占める安定政権として政権運営を行なう。

トランプ政権は就任初日に発表した米国第1主義政策の優先課題として「安全保障」、「経済とエネルギー自立」、「政府改革」、「伝統的価値観の復興」の4分野を掲げた。また同日に1937年以降の歴代大統領で最多となる26件の行政命令を含む42件の大統領令に署名して政権公約の実現に向けてロケットスタートを切った。

本稿では2期目のトランプ大統領支持率や同大統領が引き継いだ経済状況が歴代大統領と比較してどのような状況か概観した後、トランプ政権の優先政策課題、20日に同大統領が署名した経済政策に関連する大統領令の概要について解説した。また、同大統領が指名した主要な経済閣僚の経歴と同大統領が推進する関税政策に対する姿勢をまとめた。主要な経済閣僚は大幅な関税の引上げを支持しており、米国経済や世界経済の影響が大きいことから、今後の関税政策の動向が注目される。

2.2期目のトランプ政権が発足

2.2期目のトランプ政権が発足

(支持率):1期目より支持率は上昇も近年の歴代大統領に比べて低い水準
ギャラップ社の調査によるトランプ大統領2期目の就任当初の支持率は47%となった(図表2)。これは、同大統領1期目の就任時の45%を上回っており、政権運営に向けて1期目よりも期待が高まっていることを反映している。

もっとも、同社は2期目の当初の支持率は1953年以降に選出された他のどの大統領よりも低いとしている。実際に89年1月就任のブッシュ(親)大統領以降の歴代大統領の就任当初の支持率は50%を上回っており、トランプ氏の支持率の低さが目立つ。
(図表2)就任当初の支持率
(就任時の経済状況比較):歴代政権に比べて良好な経済状況を継承
歴代大統領の就任直前(選挙前年の10-12月期)の主要な経済状況を比較した(図表3)。2期目のトランプ大統領就任直前の実質GDP成長率(前年同期比)は+2.5%である。これは、88年以降の平均に一致しており、ブッシュ(親)大統領(+3.8%)やクリントン大統領(+4.4%)に比べると低くなっているものの、金融危機やコロナ禍でマイナス成長からのスタートとなったオバマ大統領(▲2.5%)、バイデン大統領(▲1.0%)とは対照的に高成長を受け継ぐ形でのスタートなる。
(図表3)政権を引き継いだ際の経済状況
また、雇用増加率、失業率、消費者物価(CPI)上昇率、実質ベースの株価上昇率はいずれも88年10-12月期~24年10-12月期)の平均に比べて良好な経済状況を示唆している。とくに、実質ベースの株価上昇率(前年同期比)は+28.7%と、期間平均(+7.2%)を大幅に上回っている。

一方、CPI(前年同期比)は+2.7%と平均(+2.8%)は小幅に下回っているものの、コロナ禍でのインフレ高進の影響が残り、オバマ政権以降では最も高い水準でのスタートとなる。トランプ大統領が実現を目指す減税、関税引き上げ、移民の強制送還などの経済政策はインフレを押し上げるとみられており、インフレ高進リスクが懸念される。

(優先政策):米国第1主義の優先政策として」4分野を提示

トランプ大統領は就任初日に米国第1主義の優先政策を発表した。これには「安全保障強化」、「経済とエネルギー自立」、「政府改革」、「伝統的価値観の復興」の4分野が掲げられ、概ね20日に署名された大統領令を網羅する内容となっている(図表4)。
(図表4)トランプ政権の米国第1主義の優先政策
このうち、「安全保障強化」では国境警備の強化、不法移民の排除などが示されている。

「経済とエネルギー自立」では規制緩和でエネルギー産業を活性化するほかことに加え、パリ協定からの離脱などの方針が示された。

「政府改革」では官僚機構の効率化、規制見直し、政治的中立性の確保を目指すことを示し、具体的には必要不可欠な部分を除いて官僚の採用を凍結するするほか、バイデン前大統領が発表した、まだ施行されていない負担の大きい規制を一時停止する方針が示された。また、同日に発表された大統領令と併せて連邦政府のDEI(多様性、公平性、包摂性)プログラムを終了させることも示された。

「伝統的価値観の復興」では連邦政府が男性と女性のみを性別として認めるほか、米国のランドマークの名称変更の方針が示された。地名変更に関しては大統領令でメキシコ湾やデナリ山の名称をアメリカ湾やマッキンリー山に変更することが提示された。
(経済関連の大統領令):政策公約実現に向けロケットスタート
トランプ大統領は就任初日に行政命令26件、覚書12件、布告4件の合計42件の大統領令に署名した。就任初日に署名した行政命令の件数は1937年以降の歴代大統領で最多となった。

同大統領が実現を目指す主要な経済政策は、25年末で期限切れとなる減税の期限延長を柱とする税制改革、不法移民を数百万単位で強制送還させる移民政策、全輸入品に対する10%~20%のユニバーサル関税、中国からの輸入品に対する60%関税を賦課する関税政策、バイデン政権が進めた気候変動対策から大幅に軌道修正し、規制緩和を通じて化石燃料等の増産を目指すエネルギー・規制緩和政策などである。

前述の42件の大統領令のうち、同大統領が実現を目指す税制改革、不法移民の強制送還、関税政策、エネルギー規制緩和などの主要な経済政策に関する項目を示した(図表5)。
(図表5)主要な経済政策に関連する大統領令(1月20日署名分)
このうち、税制改革では経済協力開発機構(OECD)加盟国などおよそ140ヵ国が批准した法人税の最低税率を15%とする国際課税ルールからの離脱を宣言した。

移民政策では、1期目に実施したメキシコ国境の壁建設や亡命を希望する不法移民が難民申請手続きを行う間、米国内ではなく治安が悪いメキシコに待機することを定めた「メキシコ待機プログラム」を復活させた。また、南部国境の非常事態を宣言し、南部国境の警備に軍隊を派遣するなど不法移民の流入を抑制するための政策を矢継早に打ち出した。また、不法移民の強制送還に関しては、バイデン政権時代の政策を転換し、移民税関捜査局(ICE)と国境警備局(CBP)の職員に強制送還するために必要な権限を与えることを指示した。

関税政策では、「米国第1の貿易政策」と題した覚書で関税を徴収するための組織として外国歳入庁(ERS)を設立することが盛り込まれた。また、商務省と財務省に年間貿易赤字の経済的および国家安全保障上の影響を調査および評価し、それらを是正するための世界的な追加関税などの勧告を行うよう指示し、ユニバーサル関税の布石を打った。一方、トランプ大統領は不法移民や違法薬物問題を背景にカナダとメキシコからの輸入品に25%、中国からの輸入品に10%の関税を就任初日に賦課することを示唆していたが、就任初日の賦課を見送り、商務長官と国土安全保障長官にメキシコ、カナダ、中国からの移民とフェンタニルの流入を評価する報告書を4月1日期限で提出することを指示した。もっとも、トランプ大統領はこれらの関税を2月1日から開始する決意を示していることからその動向が注目されている。

エネルギー・規制緩和政策では国家エネルギー緊急事態を宣言し、エネルギーコストを下げる必要を理由に、国内の石油・天然ガス生産を増強することを示し、アラスカの資源開発を推進するなど化石燃料の掘削を推進する姿勢を明確にした。一方、パリ協定から離脱したほか、バイデン政権による気候変動対策関連の行政措置(電気自動車(EV)の義務化等)を撤回するなど気候変動対策を大幅に後退させた。

その他の政策では、覚書に物価対策として行政部門と政府機関に対して、住宅、医療、食料、燃料費を下げ、労働者の雇用期間を創出することを目指す「緊急価格緩和策」を実施するよう指示した。建設規制の緩和による住宅価格の引下げや気候変動対策の見直しに伴う食料や燃料コストの押し下げを目指す。最後に、歳出削減を目指すために政府の効率性と生産性を最大化するための政府効率化省(DOGE)の設立も明示された。

一方、就任初日から大統領令を積極的に活用することは、自身のレガシーのために2期目の政権運営に向けた周到な準備と、スピード感を持って政策公約を実現するとの並々ならぬ決意の表れである。ただし、署名はされたものの、政策の実現可能性や実現時期については必ずしも担保されていない。実際に、一部の移民政策について複数の州から違憲提訴され裁判所から差し止め命令を受けた。また、予算措置を伴う政策は議会で予算を成立させる必要があり、与野党が僅差となっている議会では予算確保できるか予断を許さない。

(2025年01月31日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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