2025年01月30日

東証は開示企業一覧表を見直し~「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の開示状況~

金融研究部 研究員 森下 千鶴

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1――はじめに

東京証券取引所は、2025年1月15日公表分から「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示企業一覧(2024年12月末時点)」の開示内容を見直した。

本稿では、まず「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関するこれまでの開示の進捗状況を整理する。その後、今回の見直しによる変更点とその結果について確認する。

2――プライム上場企業の84%が開示済

2――プライム上場企業の84%が開示済

東京証券取引所は、上場企業が中長期的に企業価値を向上させる自律的な取組みを促す枠組みの一つとして、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請し、23年12月末から月次で開示状況を公表している。図表1は公表を開始した23年12月末時点および24年12月末時点の開示状況を示したものである。
図表1 プライム市場の開示済企業は84%まで進捗
24年12月末時点の開示済企業の割合は、プライム市場で84%(検討中を含むと90%)、スタンダード市場で36%(検討中を含むと49%)だった。公表開始時点(23年12月末)と比較すると、プライム市場では開示済企業の割合が40%から84%へと44%増加し、特に顕著な進展が見られる。スタンダード市場でも24%増(12%→36%)と、一定の進捗が確認できた。

3――PBRが低位で時価総額が大きい企業ほど開示率が高い傾向

3――PBRが低位で時価総額が大きい企業ほど開示率が高い傾向

図表2は、プライム市場上場企業の開示状況をPBRと時価総額別に比較したものであり、23年12月末から24年12月末にかけての進捗を示している。
図表2 プライム市場の開示率は着実に進捗
全体では、24年12月末時点でPBR1倍未満の企業は時価総額の規模に関係なく開示率が80%を超えており、特に開示への意識が高いことが確認できる。一方、PBR1倍以上の企業では開示率が相対的に低いものの、時価総額が大きい企業ほど開示率が高い傾向が見られる。今回新たに開示済になったPBR1倍以上かつ時価総額が1,000億円以上の企業には、ファーストリテイリング、良品計画、神戸物産、サイバーエージェント、サイゼリヤなどが含まれる。これらの企業は、東証要請に関係なく企業価値向上に取り組んできたと考えられるが、上場企業として着実に対応を行ってきたと言えよう。
 
24年12月末時点では、PBR1倍未満かつ時価総額1,000億円以上の企業の開示率は98%に達し、ほとんどの企業が対応済みとなった。一方で、PBR1倍以上かつ時価総額250億円未満の企業の開示率は60%にとどまっており、依然として他のグループと比較して低い状況にある。

4――PBR1倍以上かつ時価総額が小さい企業

4――PBR1倍以上かつ時価総額が小さい企業の株価は「開示済」が「記載なし」を上回った

PBR1倍以上かつ時価総額1,000億円未満の企業はプライム市場全体と比較して相対的に開示率が低かった。図表3は、この条件を満たす企業について開示状況別に2024年の株価推移をまとめたものである。具体的には24年12月末時点の公表データをもとに、PBR1倍以上かつ時価総額1,000億円未満の企業を「①開示済」「②検討中」「③記載なし」の3つに分類し、それぞれの株価収益率を単純平均している。その結果、2024年の株価収益率は、「①開示済」が14.6%上昇、「②検討中」が5.7%上昇、「③記載なし」が2.7%上昇した。「①開示済」の株価収益率は「③記載なし」を約11%上回った。
図表3 「開示済」が「検討中」や「記載なし」をアウトパフォーム
図表4は、今回集計を行った1月20日時点のデータをもとに、各企業の直近本決算の業績関連指標について開示状況別に平均値と中央値をまとめたものである。
図表4 開示状況別の業績関連指標
総還元性向については平均値および中央値でも「①開示済」が「③記載なし」を上回る傾向が見られた。2024年の自社株買い設定額(TOPIX構成銘柄)が17兆円に達した背景からも、開示済企業は、業績だけではなく株主還元に積極的であることが株価収益率の高さに影響している可能性がある。一方で、総還元性向以外の指標において「③記載なし」が「①開示済」と比べて劣後している傾向は明確ではなかった。また、従業員数や外国人株式所有比率についても確認したが、開示状況別に顕著な違いは見られなかった。
 
もちろん個別要因の影響も大きいが、この結果から、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を行っていない企業は、投資家から十分な注目を集めにくい可能性があると考えられる。多くの競合企業が存在するなか情報開示は重要であり、これらが欠けることで結果として株価の上昇を妨げる要因となる可能性があるのだろう。

(2025年01月30日「基礎研レポート」)

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金融研究部   研究員

森下 千鶴 (もりした ちづる)

研究・専門分野
株式市場・資産運用

経歴
  • 【職歴】
     2006年 資産運用会社にトレーダーとして入社
     2015年 ニッセイ基礎研究所入社
     2020年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)

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