2025年01月21日

ベトナム生命保険市場(2023年版)

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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1――はじめに

ベトナム社会主義共和国(以下、ベトナム)は東南アジアに位置する人口1億30万人(2023年)1の新興国である。その面積は33万1346km2であり、日本の約88%である。

2023年の名目GDP総額は4300億米ドル(以下、単にドルと表記)となっている。また一人当たり名目GDPは4282ドルで、同じ東南アジアのタイ(7332ドル)の6割弱である。

実質GDP成長率の伸びについてだが、新型コロナ回復期であった2022年の対前年比8.02%増から、2023年は5.05%増と伸び率は減少した。平均6-7%増を維持していた新型コロナ以前の成長率よりも緩やかな伸びにとどまった。

ベトナム経済は近年、農林水産業中心から工業およびサービス業へと徐々に重心を移してきた。2023年度は各産業とも伸びてきているが、特にサービス業の伸びが顕著である。各業態のGDP増加率であるが、農林水産業は対前年比3.83%の増加であり、工業・建設業は対前年比3.74%増加である。一方、サービス業は対前年比6.82%増となった。輸出入は世界総需要の減少と戦争など輸出入市場の不確定要因の中で困難に直面した。輸出額は3547億ドルで前年比4.6%減となり、輸入額は3264億ドルで、同じく9.3%減となった結果、輸出入額の合計は6.9%減の6811億ドルとなった。

2023年の失業率は2.28%で2022年と比較して0.06%低下した。消費者物価上昇率について2022年は対前年比3.15%増に対し、2023年は対前年比3.25%増となったが、ベトナム議会の設定した範囲内には収まった。

以下ではベトナム財務省保険監督部が発行した2023ベトナム保険市場年次レポート2のデータを元にベトナム生命保険市場について解説を行う。以降の数字、図表は同レポートよりの引用である。
 
1 各種数値はベトナム統計総局の数値を引用。https://www.gso.gov.vn/wp-content/uploads/2023/06/Sach-Nien-giam-TK-2022-update-21.7_file-nen-Water.pdf なお、一部データがない項目があり、その場合外務省HP、ジェトロのデータを利用した。
2 「The Annual Report of Vietnam Insurance Market 2023」ベトナム財務省HP https://www.mof.gov.vn/webcenter/portal/cqlgsbh/pages_r/l/chi-tiet-tin-cuc-quan-ly-giam-sat-bao-hiem?dDocName=MOFUCM286227 参照。

2――保険市場の概況

2――保険市場の概況

1976年の南北ベトナム統一時、南ベトナムにあった既存生保は消滅した。以降、1964年に当時の北ベトナムで設立された国営保険会社であるベトナム保険会社(現在のBao Viet Holdings)のみが、伝統的損害保険商品に限定して販売するという一社独占体制が長らく続いた。政府は現在も共産党一党独裁制が続いているが、1986年に開放政策であるドイモイ政策が打ち出された後、保険市場の開放が進むこととなった。

保険市場の改革により、1994年に民間保険会社の設立が許容され、1995年には生命保険の販売が再開された。また、1996年には外資系保険会社とベトナム国内社の合弁会社の設立が、1999年には外資系保険会社の100%子会社設立が認められるようになった。これを受け、1999年にPrudentialとManulifeが参入し、以降、外資の参入の本格化が進んだ。2023年末の生命保険会社数は19社である。

市場規模としては、収入生命保険料が年間156兆9890億ドン(9234億円(2023年12月の円ドン為替レートの概算である1円=170ドンで計算、以下同じ))である。ベトナムにおける生命保険の市場浸透率(Insurance Penetration、対GDP保険料収入)はGDPが上昇する一方で、保険料収入が減少したため、2023年は1.54%(2022年1.87%)と対前年比で減少した。

3――新契約の状況

3――新契約の状況

2023年におけるベトナムにおける生命保険の新契約は大きく減少した。2023 年の生命保険新契約件数は1,913,546件で対前年比43.44%減となった。うち、個人保険が1,913,178件、団体保険が368件(加入者は102,009人)である。なお、新契約減少の原因については後述する。

新契約個人保険の収入保険料は24兆2650億ドン(1437億円)で対前年比46.17%減となった。団体保険も含む付保保険金額は1010兆3750億ドン(5兆9433億円)で対前年比39.43%減となった(特約含みでは36.80%減)。個人保険の主契約平均付保保険金額は5億1400万ドン(302万円)となっている。新契約件数が対前年比で大幅減少したが、一契約当りの平均付保保険金額は10.21%増加している。

団体保険の平均付保保険金額は一団体当たり751億ドン(4億4176万円)で、加入者一人当たりに直すと2億7100万ドン(159万円)となっている。

新契約の会社別マーケットシェア(新契約収入保険料ベース)であるが、収入保険料ベースで順に、Prudential(17.99%)、Dai-ichi(第一生命ベトナム、13.71%)、Bao Viet Life(12.92%)、Manulife (12.19%)、Sunlife (7.12%)、FWD(6.96%)、AIA(6.62%)、MB Ageas(4.58%)、となった(次頁図表1)。

収入保険料ベースの新契約シェア状況の推移を見ると、2022年に首位に躍り出たPrudentialが引き続きトップを維持したほかは、順位が大きく変動した。昨年度2位であったManulifeが対前年比5.4%減とシェアを大きく減らして4位まで順位を落とした。そして、Dai-ichiが0.39%増加して2位に上昇した。さらに2022年に4位だったBao Viet Lifeは1.9%近くシェアを増やして3位に順位をあげた。
【図表1】会社別新契約シェア
新契約の商品状況を見ると、これまでは収入保険料ベースでは貯蓄・投資性の商品がほとんどであり、特に投資連動型保険の販売に集中していた。2023年もやはり投資連動型保険が最も売れた商品であるが、ほぼ半減している。これは、ベトナム株式指数(VN)3が2022年時点で1500台程度あったものが、2022年末に900台まで下落し、2023年は高くとも1200程度であったことが影響しているものと思われる。

これを新契約収入保険料ベースでみると、投資連動型保険(investment-linked products)は2022年に43兆4970億ドン(2558億円)あったものは、2023年は22兆3560億ドン(1315億円)へと48.43%も大幅減少している。なお、ベトナムの統計上、ユニットリンク保険とユニバーサル保険とをまとめて投資連動型保険として分類している。

他方、少額ではあるが、定期保険(Term life)が8000億ドン(47億円)で対前年比37.45%増、養老保険(Endowment)が8760億ドン(51億円)で対前年比82%増となっている(図表2)。
【図表2】商品別新契約シェア(新契約収入保険料ベース)
付保保険金ベースで見ると、投資連動型保険が59.08%となっている。そのほか、養老保険0.05%、定期保険が3.43%となっている。

定期保険は新規販売件数が551,313件、平均的な保険金額は9520万ドン(56万円)程度であり、小口契約が多い。
 
3 2000年7月28日を 基準日とし、その日の時価総額を100として算出される。

(2025年01月21日「保険・年金フォーカス」)

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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

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【ベトナム生命保険市場(2023年版)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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