2025年01月14日

価値ある空き家を掘り起こす-空き家活用事例の調査より-

社会研究部 研究員 島田 壮一郎

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3.NIPPONIA
● 事業概要
「NIPPONIAiii」は、全国の歴史的建築物や古民家をリノベーションし、分散型宿泊施設として活用する株式会社NOTEが行っている事業である。地域の伝統的な建物を再生し、地域住民と観光客を繋ぐ場を提供することを目的としている。エリア全体を一つのホテルとして運営し、宿泊施設だけでなく、飲食店や文化体験施設も提供することで、地域全体のブランディングを図っている。特にインバウンド観光を意識した高価格帯のサービスを展開し、持続可能な地域経済の発展に寄与している。地域ごとの歴史や文化を最大限に活かし、地域に根付いた新たな価値を創出するモデルとして注目されている。
図-4 篠山城下町ホテル(筆者撮影)
● 空き家の掘り起こしへの視点
「NIPPONIA」では、地域住民や自治体と協力し、古民家の歴史的価値を再発見して掘り起こしているところに特徴がある。その地域でまちづくり開発会社を設置することで地域に根差した組織による事業を行うことが出来る。地域住民とのワークショップなどを行うことで、空き家活用の機運を高めることを可能としている。
4.巻組
● 事業概要
「株式会社巻組iv」では、宮城県石巻市を拠点に、空き家を活用した種々のプロジェクトを行っている。巻組は、空き家をリノベーションし、シェアハウスや民泊として再生する活動を行っている。このプロジェクトでは、空き家を単なる居住空間として活用するだけでなく、イノベーティブな人材の呼び込みとコミュニティ形成を目的とした場を提供することによって、地域文化の継承や新しい住民との交流を促進する場として機能している。また、地元企業や行政との連携を通じて、持続可能な地域活性化のモデルを作り上げている。
図-5 Roopt神楽坂(巻組HPより)
 
iv 株式会社巻組HP https://makigumi.org/
● 空き家の掘り起こしへの視点
「巻組」では、土地が接道要件を満たさない再建築不可物件など、条件が厳しい「絶望的条件の空き家」を中心に取り扱っている。こうした事例で成功を積み重ねたことで、巻組に物件情報を持ち込む所有者が増加している。また、死因贈与契約を活用し、所有者が生前に土地・建物の活用計画を立て、死亡後に巻組が物件を取得して活用できる仕組みを構築している。
5.HAGISO
● 事業概要
「株式会社HAGISOv」は、東京都台東区谷中地域において、空き家を活用した分散型ホテル「hanare」の運営を行っている。ホテルのレセプションと寝室が別の建物に存在し、お風呂や食事などは地域の銭湯や飲食店を使ってもらうことで、地域の活性化にも繋がっている。その他にもHAGISOでは飲食店やアイスクリーム屋さんなど複数の事業を谷中地域で展開している。
図-6 HAGISO外観(筆者撮影)
 
v 株式会社HAGISO HP https://hagiso.com/
● 空き家の掘り起こしへの視点
HAGISOでは、地域の歴史的価値がある古い建物や使われていない建物に注目し、それらをリノベーションして文化施設やカフェとして活用している。地主とのコミュニケーションを取り、仲良くなるところから始め、地域内で価値のある物件を掘り起こし、その魅力を再発見することで、物件の活用を進めている。
6.神山町
● 事業概要
徳島県神山町viは、過疎化が進む中、地方創生の成功事例として広く知られている。神山町では、IT企業やクリエイティブな職業に従事する人々を積極的に誘致し、空き家をオフィスや住居に改修して提供する取り組みを行っている。後述する様々なプロジェクトを通じて空き家が有効に活用される仕組みが整備されており、空き家が移住者や企業のサテライトオフィスとして利用されるなど、町の経済活性化に大きく貢献している。地域の空き家を有効活用することで、神山町は新しい産業を誘致し、地域の魅力を高めている。また、こうした取り組みを通じて、外部からの移住者が増加し、町全体の人口減少が緩やかに改善されつつある。神山町の取り組みは、空き家の再利用と地域の新たな価値創造を同時に実現している。
 
vi 神山町役場HP https://www.town.kamiyama.lg.jp/
● 空き家の掘り起こしへの視点
神山町では、空き家の掘り起こしと有効活用を進めるために、多面的な取り組みが行われている。まず、「民家改修プロジェクト」においては、町内に点在する空き家を適切に改修し、伝統的な民家を再生することを目指している。地域の職人と協力し、100年以上使える社会資本としての価値を持たせる取り組みである。また、「お家長生きプロジェクト」では、空き家になる前の段階で所有者に登録してもらう仕組みを整えており、将来的に空き家となった場合には移住交流支援センターが入居者探しをサポートすることで、空き家の発生を未然に防いでいる。

さらに、NPO法人グリーンバレーが運営する移住交流支援センターを通じて、空き家や空き地の情報提供や、移住希望者へのサポートを行っており、空き家の情報収集や活用が円滑に進められる体制を整えている。こうした取り組みを通じ、神山町では地域資源である空き家を効果的に掘り起こし、地域の活性化に貢献している。
7.暇と梅爺
● 事業概要
「暇と梅爺株式会社vii」は、東京都墨田区京島エリアで古い空き長屋をサブリース方式で活用する取り組みを行っている。空き長屋をリノベーションし、これを活用したい人々をマッチングする仕組みを構築しており、地域の文化と歴史を活かしながら新しい価値を生み出している。代表の後藤氏が個人的に物件を探し、所有者と交渉してリノベーションを行い、地域コミュニティの再生に貢献している。
図-7 空き家を活用したシェアカフェ(筆者撮影)
● 空き家の掘り起こしへの視点
物件は、後藤氏が自ら物件所有者と交渉を行うことや、墨田区の空き室対策室から活用を期待して依頼が来るようになっている。また、地域を歩き、空き家となっている長屋を見つけて交渉を行っている。

(2025年01月14日「基礎研レポート」)

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社会研究部   研究員

島田 壮一郎 (しまだ そういちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、住民参加、コミュニケーション、合意形成

経歴
  • 【職歴】
     2022年 名古屋工業大学大学院 工学研究科 博士(工学)
     2022年 ニッセイ基礎研究所 入社
    【加入団体等】
     ・土木学会
     ・日本都市計画学会
     ・日本計画行政学会

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