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- 中国、高齢者の暮らし調査-暮らし方・介護
2024年12月09日
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1――高齢者の独居は農村の方が深刻
高齢化、長寿化が進む中国では、老後保障が大きな課題となっている。政府は年金など現金による給付を確保するとともに、生活サポートや介護サービスなどサービス給付の整備も進めている。
政府は高齢者(60歳以上)の生活状況について5年毎に調査(「中国都市・農村高齢者生活状況サンプル調査」、以下、調査)をしており、今般、2021年に実施した調査結果を発表した1。調査によると、高齢者の暮らし方として、独居(高齢者の一人暮らし)の世帯が全体の14.2%、高齢者夫婦のみの世帯が45.5%であった。子女と同居が33.5%と3割を超えてはいるものの、中国ではこれまでも子どもが成長したことで、一人暮らしや夫婦のみの高齢者(「空巣老人」)が増加している点が社会的な課題とされてきた。今回の調査で全体のおよそ6割がそのような状態にあることになる。更に、都市と農村に分けてその調査結果をみた場合、都市より農村の方が高齢者の一人暮らしが多く、子女との同居が少ないことも分かった(図表1)。
一方、高齢者自身が自立した生活をできているかについても調査している。それによると、全体の88.4%は自立した生活ができているとしている。自立した生活が部分的に困難は7.1%、自立した生活が全面的に困難は4.5%となった(図表2)。年齢別で自立した生活が困難(部分的/全く困難の合計)は60代で6.9%、70代では12.6%、80代以上では29.2%となった。都市および農村の地域別では都市が9.6%、農村が13.9%となり、農村の方が多い。この点からも高齢者の生活サポートは公的・私的・相互扶助(近所や共同体の助け合いなど)の面においても農村でより必要とされていることが分かる。
政府は高齢者(60歳以上)の生活状況について5年毎に調査(「中国都市・農村高齢者生活状況サンプル調査」、以下、調査)をしており、今般、2021年に実施した調査結果を発表した1。調査によると、高齢者の暮らし方として、独居(高齢者の一人暮らし)の世帯が全体の14.2%、高齢者夫婦のみの世帯が45.5%であった。子女と同居が33.5%と3割を超えてはいるものの、中国ではこれまでも子どもが成長したことで、一人暮らしや夫婦のみの高齢者(「空巣老人」)が増加している点が社会的な課題とされてきた。今回の調査で全体のおよそ6割がそのような状態にあることになる。更に、都市と農村に分けてその調査結果をみた場合、都市より農村の方が高齢者の一人暮らしが多く、子女との同居が少ないことも分かった(図表1)。
一方、高齢者自身が自立した生活をできているかについても調査している。それによると、全体の88.4%は自立した生活ができているとしている。自立した生活が部分的に困難は7.1%、自立した生活が全面的に困難は4.5%となった(図表2)。年齢別で自立した生活が困難(部分的/全く困難の合計)は60代で6.9%、70代では12.6%、80代以上では29.2%となった。都市および農村の地域別では都市が9.6%、農村が13.9%となり、農村の方が多い。この点からも高齢者の生活サポートは公的・私的・相互扶助(近所や共同体の助け合いなど)の面においても農村でより必要とされていることが分かる。
1 「第5次中国城郷老年人生活状況抽様調査 基本数据公報」、実施は国家衛生健康委員会(全国老齢工作委員会弁公室)、民生部、財政部、中国老齢協会、中国計画生育協会が共同で実施。調査期間は2021年8月1日から1ヶ月、全国の60歳以上を対象とし、有効回答件数は12万7287万件。調査結果の発表は2024年10月。
2――介護の主な担い手は夫婦・子女で、介護施設への入居は負担面からも困難な状況
では、高齢者の生活サポートや介護は主にどこで、誰が担っているのであろうか。調査によると、在宅介護、デイサービス、施設介護のうち、在宅介護の利用が全体の87.3%と最も多く、次いで、デイサービスの利用が4.9%、施設入居は7.7%であった(図表3)。都市と農村の地域別でみると、農村は都市よりも在宅介護が8.1ポイント多く、デイサービスの利用は4.3ポイント低い。更に、施設介護となると3.8ポイント低くなる。これは都市を中心にデイサービスの拠点や介護施設が建設され、サービスの提供がされている点が挙げられる。農村においてはデイサービスの利用や介護施設への入居へのアクセスが都市よりも限られているからであろう。
一方、介護の主な担い手はどうであろうか。調査によると、日常生活において介護が必要と自身で判断した高齢者のうち、83.0%は何らかの生活・介護サポートを受けている。実際、サポートを受けている高齢者のうち、その担い手としては子女(息子、息子の配偶者、娘、娘の配偶者)が47.6%と最も多く、次いで配偶者が45.5%となった(図表4)。つまり、在宅介護を中心に、そのサポートの担い手はほぼ家族となっており、専門職(家政婦・医療施設の職員・介護施設の職員)は3.4%となった。また、都市・農村の地域別でみた場合、農村の方がより家族やその子女を主な担い手としている割合が高い。
一方、介護の主な担い手はどうであろうか。調査によると、日常生活において介護が必要と自身で判断した高齢者のうち、83.0%は何らかの生活・介護サポートを受けている。実際、サポートを受けている高齢者のうち、その担い手としては子女(息子、息子の配偶者、娘、娘の配偶者)が47.6%と最も多く、次いで配偶者が45.5%となった(図表4)。つまり、在宅介護を中心に、そのサポートの担い手はほぼ家族となっており、専門職(家政婦・医療施設の職員・介護施設の職員)は3.4%となった。また、都市・農村の地域別でみた場合、農村の方がより家族やその子女を主な担い手としている割合が高い。
中国では現在、公的介護保険制度が試行されているが、在宅介護を中心に、デイサービスや施設介護の利用は限定的で、従前の家族を中心とした生活・介護サポートが続いていることになる。
3――高額化する介護施設の入居費用、規制に乗り出す政府
こういった背景には、介護政策のあり方の影響が大きいであろう。例えば、北京市では「9064」として、在宅で家族による介護を全体の90%、地域住民で構成する社区での介護を6%、施設介護を4%とし、目安としている。また、上海においては「9073」として、在宅介護を90%、社区での介護を7%、施設介護を3%としている。介護政策として在宅介護を中心とし、社区でのデイサービスや施設利用、施設介護は1割ほどにとどめようとしているのだ。ただし、調査によると、施設介護については介護政策における3-4%の利用を上回る7.7%と需要がある点もうかがえる。
調査では、施設介護を利用するにあたり、負担可能な費用についても聞いている。それによると、毎月支払える費用としては1,000元未満(約20,000円)とする回答が46.1%と最も多かった(図表5)2。都市・農村の地域別でみると、都市部では毎月1,000元から3,000元以上まで分散しているが、農村については1,000元未満が全体の75.3%を占めており、最高額の毎月3,000元以上となると、わずか1.8%にとどまってしまう。なお、調査によると、高齢者の平均年収は32,027元(中央値は11,400元)で、地域別で都市の高齢者の平均年収は47,271元(中央値は28,800元)、農村の平均年収は14,105元(中央値は5,640元)と収入の格差は大きく、負担できる金額にも大きな格差が発生してしまう。
施設介護にどれくらいの入居費用が必要なのかについては、例えば「北京市介護施設業務発展報告」によると、北京市の介護施設の月額の平均入居費用は6,611元となっており、これにはベット、食事、介護に関する費用が含まれている3。北京市の月額平均入居費用を年換算すると、2023年の北京市の平均可処分所得(81,752元)4に相当する金額となる。要介護の度合いによっては必要となる費用が異なるが、1,000元未満では到底入居できる状況にはないであろう。
調査では、施設介護を利用するにあたり、負担可能な費用についても聞いている。それによると、毎月支払える費用としては1,000元未満(約20,000円)とする回答が46.1%と最も多かった(図表5)2。都市・農村の地域別でみると、都市部では毎月1,000元から3,000元以上まで分散しているが、農村については1,000元未満が全体の75.3%を占めており、最高額の毎月3,000元以上となると、わずか1.8%にとどまってしまう。なお、調査によると、高齢者の平均年収は32,027元(中央値は11,400元)で、地域別で都市の高齢者の平均年収は47,271元(中央値は28,800元)、農村の平均年収は14,105元(中央値は5,640元)と収入の格差は大きく、負担できる金額にも大きな格差が発生してしまう。
施設介護にどれくらいの入居費用が必要なのかについては、例えば「北京市介護施設業務発展報告」によると、北京市の介護施設の月額の平均入居費用は6,611元となっており、これにはベット、食事、介護に関する費用が含まれている3。北京市の月額平均入居費用を年換算すると、2023年の北京市の平均可処分所得(81,752元)4に相当する金額となる。要介護の度合いによっては必要となる費用が異なるが、1,000元未満では到底入居できる状況にはないであろう。
ただし、介護施設への入居に関する費用の高騰については、政府も規制に乗り出している。背景には、介護施設への入居にあたって、施設側が入居契約の年数に応じて事前に高額なデポジット(一時的な預り金、保証金)を求めたり、更に、入居後もデポジットを返還しないといった問題や、毎月高額な入居費用の請求をするなどの問題が散見されているからである。2024年5月、民生部など関係当局は、介護施設の入居前費用の監督管理の強化に関する指導意見を発出し、デポジットの金額に制限を設けること(月額のベット代の12倍まで)や必要に応じた返還に従うよう求めている5。
2 2021年の中国の1人あたりの平均可処分所得は35,128元。地域別では都市が47,412元、農村が18,931元。(出典)国家統計局「2021年居民収入和消費支出情況」、2022年1月17日。
3 北京市人民政府「『北京市養老機構行業発展報告』発布住養老機構的九成為“老老人”」、2024年6月21日。
4 北京市人民政府「「北京市2023年国民経済和社会発展統計公報」発布全国人均地区生産総値達20万元」、2024年3月22日。
5 民生部、国家発展改革委、公安部、財政部、中国人民銀行、市場監管総局、金融監管総局「関于加強養老機構預収費監管的指導意見」、2024年5月。
2 2021年の中国の1人あたりの平均可処分所得は35,128元。地域別では都市が47,412元、農村が18,931元。(出典)国家統計局「2021年居民収入和消費支出情況」、2022年1月17日。
3 北京市人民政府「『北京市養老機構行業発展報告』発布住養老機構的九成為“老老人”」、2024年6月21日。
4 北京市人民政府「「北京市2023年国民経済和社会発展統計公報」発布全国人均地区生産総値達20万元」、2024年3月22日。
5 民生部、国家発展改革委、公安部、財政部、中国人民銀行、市場監管総局、金融監管総局「関于加強養老機構預収費監管的指導意見」、2024年5月。
4――介護の外部化の難しさ、ただし、今後は子女に多くを頼る介護は更に厳しい状況へ
中国では2016年に公的介護保険制度の試行が開始され、2025年の全国導入を目指している。政府が指定した試行対象都市は49都市まで拡大しており、2023年末時点で加入者数は1億8,331万人、受給者数は134万人となった6。
その一方で、介護給付の対象は要介護度が高いケースに限定される傾向にあり、その給付も限定的だ。たとえ介護保険制度があったとしても生活サポートや経済的な負担がその家族に大きくのしかかる状況(家族化)は変わっていない。制度の設計上、高齢者の生活サポートを含め、介護の全面的な外部化は難しい状況にある。
加えて、現時点で介護の家族化がある程度可能な背景には、多くの高齢者が一人っ子政策前に出産したことで、介護の主な担い手である子どもが複数人存在する点も大きい。調査によると、60歳以上の高齢者のうち、子どもがいる割合は98.0%で、平均人数は2.6人であった。都市の高齢者の場合は平均2.3人、農村は平均2.9人となっている。年代別でみると60代は平均2.1人、70代は平均2.9人、80代では平均3.9人であった。現時点では子どもが複数人いることで、家族による介護や生活サポートが何とか成り立っている状況であろう。しかし、今後は一人っ子政策の影響によって子女の数は減少するため、家族に頼る生活・介護サポートはより厳しい局面を迎えることになる。介護事業者の増加やサービス価格の適性化、介護専門職の就業強化などもあるが、長期的に考えると介護保険制度の給付のあり方そのものを見直していく必要もあろう。
6 国家医療保障局「2023年全国医療保障事業発展統計公報」。
その一方で、介護給付の対象は要介護度が高いケースに限定される傾向にあり、その給付も限定的だ。たとえ介護保険制度があったとしても生活サポートや経済的な負担がその家族に大きくのしかかる状況(家族化)は変わっていない。制度の設計上、高齢者の生活サポートを含め、介護の全面的な外部化は難しい状況にある。
加えて、現時点で介護の家族化がある程度可能な背景には、多くの高齢者が一人っ子政策前に出産したことで、介護の主な担い手である子どもが複数人存在する点も大きい。調査によると、60歳以上の高齢者のうち、子どもがいる割合は98.0%で、平均人数は2.6人であった。都市の高齢者の場合は平均2.3人、農村は平均2.9人となっている。年代別でみると60代は平均2.1人、70代は平均2.9人、80代では平均3.9人であった。現時点では子どもが複数人いることで、家族による介護や生活サポートが何とか成り立っている状況であろう。しかし、今後は一人っ子政策の影響によって子女の数は減少するため、家族に頼る生活・介護サポートはより厳しい局面を迎えることになる。介護事業者の増加やサービス価格の適性化、介護専門職の就業強化などもあるが、長期的に考えると介護保険制度の給付のあり方そのものを見直していく必要もあろう。
6 国家医療保障局「2023年全国医療保障事業発展統計公報」。
(2024年12月09日「基礎研レター」)
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経歴
- 【職歴】
2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
(2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
(2019~2020年度・2023年度~)
・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
・千葉大学客員教授(2024年度~)
・千葉大学客員准教授(2023年度) 【加入団体等】
日本保険学会、社会政策学会、他
博士(学術)
片山 ゆきのレポート
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