2024年12月09日

アンケート調査から読み解く企業の物流戦略の現状と課題(1)~「物流2024年問題」への対策は着手するも、まだ十分でないと認識。トラックドライバーおよび倉庫内作業人員の確保が課題に~

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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3.物流業務における課題

「物流業務における主な課題」について荷主企業に質問したところ、「コスト削減のための在庫圧縮」(49%)が最も多く、次いで「トラックドライバーの確保」(41%)、「輸送・配送時間の短縮」(40%)の順に多かった(図表―6)。
図表-6 物流業務における課題
荷主企業においては、物流の恒久的な課題であるコスト削減を目的した在庫圧縮に次いで、トラックドライバーの確保が喫緊の課題となっている。トラック運送業界の労働需給を示す「労働力の不足感の判断指標」をみると、2024年第3四半期は「+79.4」とコロナ禍前の水準に戻っており、トラックドライバーの労働需給は逼迫した状況が続いている(図表―7)。

また、物流企業では、「トラックドライバーの確保」(57%)、「倉庫内作業(包装・仕分け)人員の確保」(57%)、「働き方改革の推進」(57%)が上位を占めた。

2017年に実施されたアンケート調査3によれば、物流企業の33%、荷主企業の26%が「倉庫内作業人員の確保」を物流業務の課題にあげていた。トラックドライバーや倉庫内作業人員の不足が加速するなか4、労働環境の改善など「働き方改革」を推進したいと考える企業が増えている模様だ。
図表-7 トラック運送業界の雇用状況(労働力の過不足)
また、「物流施設の自動化への対応」(荷主企業32%・物流企業38%)との回答も上位にあがっている(図表―6)。前述の通り、人手不足が深刻化する中、物流施設の自動化・機械化を推進し、施設内作業の省力化や現場作業の負担軽減を図る取組みが進められている。国土交通省「物流総合施策大綱(2021年度~2025年度)」では、「物流業務の自動化・機械化、デジタル化により、従来のオペレーションの改善や働き方改革などの効果を定量的に得ている事業者」の割合を2025年度までに70%に高める目標を掲げている。また、2024年6月に経済産業省が公募を始めた「中小企業省力化投資補助金」は、国土交通省が所管する物流業界にも適用され、物流施設の自動化もその対象となった5

「環境配慮の取組」(荷主企業28%・物流企業26%)との回答も一定数あがった。2021 年4月の気候変動サミットで、2030 年度に温室効果ガス排出量を46%削減(2013 年度比)する目標が示されて以降、物流分野においても環境配慮の取り組みが一層求められている。

こうしたなか、脱炭素社会の実現に向けて、トラックから鉄道や海運などに輸送手段を変更する「モーダルシフト」への期待が高まっている。「物流総合施策大綱(2021年度~2025年度)」では、「モーダルシフト」に関して、鉄道による貨物輸送量を184 億トンキロ(2019年度)から209億トンキロ(2025年度)に、海運による貨物輸送量を358 億トンキロ(2019 年度)から389億トンキロ(2025 年度)に増やす目標を掲げている。本調査でも、物流企業において、「モーダルシフトの推進」(21%)との回答が一定数あがっている。
 
3 吉田資『これからの物流不動産に求められる機能・役割~「物流不動産の活用戦略に関するアンケート調査」に基づく考察~』三井住友トラスト基礎研究所Report、2017 年4 月21 日
4 日本経済新聞電子版「物流施設、人手不足強く 11月派遣時給「軽作業」最高に」(2021 年12月15 日)
5 東京新聞 「35%の荷物が運べなくなる?「物流2024年問題」 規制強化に人手不足…荷主側企業の対応は」(2023 年4月18日)

4.「物流2024年問題」について

4.「物流2024年問題」について

本章では、働き方改革関連法の改正により、2024年4月から自動車運転業務に対して、時間外労働時間の上限規制(年間960時間)が適用されたことに伴う諸問題(「物流2024年問題」)の影響について、概観したい。
(1)「物流2024年問題」の影響およびその対策状況
「物流2024年問題」の影響について質問したところ、荷主企業、物流企業ともに「輸送コストの高騰」(荷主企業92%・物流企業71%)との回答が最も多く、次いで「集荷時間などの輸送スケジュール」(荷主企業50%・物流企業60%)が多かった(図表―8)。

「物流2024年問題」は当初、荷物が運べなくなることが懸念されていた6。「荷物が運べない、配送遅延」(荷主企業47%・物流企業33%)との回答は一定数みられたものの、足元では、人手不足等に伴う輸送コストの上昇が課題として強く意識されているようだ。

「特に影響はない」との回答は、荷主企業では5%、物流企業では8%にとどまっており、「物流2024年問題」が、各企業の物流業務に広く影響を及ぼしていることがうかがえる。
図表-8 「物流2024年問題」の影響
また、「物流2024年問題」への対策状況について、「対策は実施しているが、まだ十分でない」(荷主企業68%・物流企業63%)との回答が最も多く、次いで「すでに対策を実施済み」(荷主企業15%・物流企業25%)が多かった(図表―9)。

CBREが時間外労働時間の上限規制適用前(2024年2~3月)に行った調査によれば、「2024年問題対応の実施状況」は、「対策は実施しているが、まだ十分でない」との回答が、荷主企業では48%、物流企業では58%、「すでに対策を実施済み」との回答が荷主企業では4%、物流企業では14%であった。

2024年4月の時間外労働時間の上限規制適用を経て、対策が進められているものの、その対応状況は十分でないとの認識を持つ企業が多いと言える。

また、公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会「時間外労働960時間規制に対するトラックドライバーの意識調査アンケート結果」(調査:2024年3月末)によれば、「時間外労働時間の上限年間960時間」について、22%のドライバーが認識していないと回答した。また、27%のトライバーが80時間以上の時間外労働7を行っていると回答している。時間外労働時間の上限規制は、輸送の担い手であるドライバーにおいても、十分には浸透していない模様だ。

以上を鑑みると、荷主企業、物流企業ともに、引き続き「物流2024年問題」への対策が求められているといえよう。
図表-9 「物流2024年問題」への対策状況
 
6 日本経済新聞 「建設・物流の省力化後押し 2024年問題受け支援策首相指示へ、投資補助金の対象に 3年で5000億円」(2024年5月30日)
7 時間外労働時間の上限年間960時間を12か月で割ると1月あたりの上限は80時間。

(2024年12月09日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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