2024年12月02日

なぜ日本では「女性活躍」が進まないのか~“切り札”としての男性育休取得推進~

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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3――女性活躍を進めるために必要な「男性育休」

女性活躍を進めるために、男女役割分担の見直しが必要だとはいえ、もちろん、それだけで十分ということではない。前述した共同研究の成果や先行研究を基に、筆者なりに、女性活躍を進めるために必要な要素を図に表したものが、図表4である。「組織の態勢」、「人事制度」、「働き方」の3要素については、ダイバーシティ経営に共通して必要なものだと言えるが、女性活躍に関しては、オレンジ色の「家庭の協力」が必要不可欠な要素として加わる。

それぞれ説明すると、第一に必要なのが、水色の「組織の態勢」である。企業のトップ自ら、自社の競争力と生産性向上に資する目的で、組織として女性活躍(またはダイバーシティ経営)を推進していくことを宣言し、社員に方向を示すことである。それが実際に、各部署で進んでいくように、上司が女性社員とコミュニケーションを取って、アンコンシャスバイアスに捉われずにキャリア形成を促し、そのために必要なサポート体制を取っていくことが必要となる。例えば、子の体調不良で急に休まざるを得なくなった時に、他の社員に最低限の業務を代行してもらえるように、普段から仕事の情報をシェアしておくこと、そのためにも、業務の属人化や要員の配置を見直すことなどが、これに当たるだろう。

第二に、黄色の「人事制度」として、性別にかかわらずに、本人の能力と意欲本位で重要な職務に配置すること、ただし、中年以上の女性に関しては、キャリアが浅いケースが多いため、経験不足を補う研修などを行って補っていくこと、また管理職に対する心理的ハードルを下げる研修を行ったり、社内外のロールモデルとの交流機会を作ったりして、啓発していくことが考えられる。

第三に、グリーンの「働き方」としては、家庭と管理職の仕事を両立できるように、長時間労働を見直していくこと、在宅勤務や短時間勤務、時間単位の有給休暇などの柔軟な働き方ができるようにすること、そしてそれらが実践可能になるように、そもそも業務の在り方自体を効率化し、社内会議にオンライン出席できるようにしたり、社内決裁をオンラインで済ませられるようにしたりと、デジタル化やシステム化を進めることも必要だろう。

第四に、女性活躍に特定して必要となるのが、これまで述べてきた男女役割分業見直しを行う「家庭の協力」である。女性社員の家庭での家事育児負担を減らさなければ、職場で仕事の時間を増やすことが難しいからである。このカテゴリ―を推進する主体は家庭だが、企業には全く手出しできないかというと、そうではない。その代表的な手段が、男性有給取得推進である。

とは言え、一つの企業が、自社の男性社員の育休取得率を上げても、女性社員の夫の行動にまで波及する訳ではないが、産業界全体で取り組むことによって、社会全体で、男女役割分業の見直しに関する気運を高めていくことができる。前述した共同研究では、アンケートと並行して大企業へのインタビューも行ったが、その中でも、今後の女性活躍の課題として、自社の男性育休取得推進を挙げた企業が複数あった。
図表4 女性活躍推進に必要な要素

4――男性育休取得推進の課題

4――男性育休取得推進の課題

4-1│性・世代別にみた家事育児分担に関する意識
3までに、女性活躍を進めるために、男女役割分業の見直しが必要であること、その方法として、企業が男性育休取得を推進していくことが重要であることを説明してきた。ここからは、国内の男性の育休取得の現状と課題について整理する。

これまで、男女役割分業意識が日本社会には根付いてきたと強調してきたが、実は若年層に限れば、意識は変わり始めている。図表5は、夫婦間で家事育児をどのように分担したいかについて、内閣府の「令和4年版男女共同参画白書」をもとに、性・世代別に調査結果をまとめたものである。その結果、男性は「家事」と「育児」のいずれに関しても、若いほど夫婦で「半分ずつ分担」「外部サービスを利用、それ以外は半分ずつ分担」という希望割合が増え、「外部サービスを利用、それ以外は配偶者が多く分担」(妻が多く負担すること)の割合が減っていた。

例えば育児について数字を確認すると、「半分ずつ分担」または「外部サービスを利用、それ以外は半分ずつ分担」を希望する「50~59歳男性」は60.3%だが、「18~29歳男性」では74.4%に上り、10ポイント以上上昇した。逆に、「育児は配偶者が多く分担」(妻が多く負担すること)を希望するのは、「50~59歳男性」では19.6%であるが、「18~29歳男性」では9.4%と、半分以下となった。

女性の意識も概ね、「家事」と「育児」のいずれに関しても、若いほど「半分ずつ分担」「外部サービスを利用、それ以外は半分ずつ分担」という希望割合が増える傾向が見られた。
図表5 性・世代別にみた夫婦間の家事育児分担に関する希望
図表5 性・世代別にみた夫婦間の家事育児分担に関する希望〈続き〉

(2024年12月02日「基礎研レポート」)

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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性のライフデザイン、高齢者の交通サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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