- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 政策提言 >
- 規制・制度改革 >
- 求められる非上場株式の流通活性化
2024年12月04日
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
今年5月には、その一環として金融商品取引法の改正が行われ、非上場株の取引を促すことを目的として非上場有価証券の仲介業務の参入要件が緩和された。改正法では、私設取引システム(PTS)の運営業務について流動性の低い非上場有価証券のみを扱う場合、認可を要さず第一種金融商品取引業の登録により行うことができることとなった。
こうした非上場株式の流通の規制緩和を背景に、民間でも非上場株式の流通に向けた取組みが活発化している。スタートアップの資金調達業務と投資家の投資先管理を効率的に管理するプラットフォームサービスを提供するスマートラウンドは、非上場株式の売買を仲介するプラットフォームを提供すると発表した1。この他、数社が非上場株式の売買仲介事業に参入するとしている。
米国では、「ナスダック・プライベート・マーケット」など複数の非上場株式の流通市場があり、プラットフォーム上での非上場株式の取引が行われている。一方で、日本ではこうした非上場株式の流通市場は存在せず、非上場株式の取引は限られている。しかし、今回の規制緩和とこれを契機としたプラットフォームの提供により非上場株式の流通活性化が期待される。
また、こうした非上場株式の流通市場の整備は、日本でのスタートアップの成長を促すことも期待される。現状、日本ではスタートアップが事業成長が不十分で小規模な状態で上場する「スモールIPO」が多いことが課題の一つと言われている。これには複数の要因が背景にあるが、スタートアップに出資する投資家が投資資金を回収するにはIPOなどが必要となることがその一つとなっている。上場後は株式の売買は容易になるが、短期保有の株主が増え長期的な展望よりも短期での売上高や利益で評価される状況に陥る恐れがある。非上場株式の流通市場の整備によって投資家に資金の回収機会を得られることで、スタートアップは上場を急がずに非上場での長期的な成長を目指しやすくなると期待される(図表2)。
世界では、創業から上場までの期間は長期化する傾向があり、スケールの大きい事業成長を目指すスタートアップが増えている。人工衛星によるインターネット通信や宇宙船の打ち上げなど宇宙関連事業を行う米国のスペースⅩは2002年の創業から22年が経過しているが、超長期を見据え、さらなる成長を目指し現在も非上場を継続している。
また、非上場株式の取引が行いやすくなることはスタートアップの従業員にとっても恩恵がある。スタートアップでは従業員等に対して、あらかじめ定められた価格(権利行使価額)で自社株を取得できる権利であるストックオプションの付与が行われる場合があるが、現状では上場しない限り売却による現金化は難しい。このため、スタートアップの事業が成長し、ストックオプションの価値が高まっても従業員は必要な時に現金を得ることができない場合がある。流通市場が整備されることでストックオプションの現金化を行いやすくすることが期待される。これは従業員の生活資金などお金の不安を解消し、スタートアップで働きやすい環境を整備することにつながる。
非上場株式の取引市場の発展は、スタートアップの上場・非上場の形態や資金調達方法の選択肢を広げ柔軟な成長を促進すると考えられる。ただし、非上場株式には上場株式とは異なる性質やリスクもあり、適切な制度設計による投資家保護や取引基盤の整備が必要だろう。今後のスタートアップエコシステムの確立に向け、日本の非上場株式流通市場の発展に期待したい。
1 日本経済新聞、「未上場株流通、新興が参入 規制緩和でネット売買仲介」、2024年9月4日
(2024年12月04日「ニッセイ年金ストラテジー」)
このレポートの関連カテゴリ

03-3512-1860
経歴
- 【職歴】
2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)
【加入団体等】
・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
・修士(工学)
原田 哲志のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/08 | グローバル株式市場動向(2025年3月)-トランプ米大統領の関税政策によるアップダウンが続く | 原田 哲志 | 基礎研レター |
2025/03/10 | グローバル株式市場動向(2025年2月)-国・地域によりまちまちな展開 | 原田 哲志 | 基礎研レター |
2025/02/14 | グローバル株式市場動向(2025年1月)-DeepSeekショックにより半導体関連銘柄は下落 | 原田 哲志 | 基礎研レター |
2025/01/23 | グローバル株式市場動向(2024年12月)-米国金利上昇や欧州の政治的混乱により下落 | 原田 哲志 | 基礎研レター |
新着記事
-
2025年05月01日
ユーロ圏GDP(2025年1-3月期)-前期比0.4%に加速 -
2025年04月30日
2025年1-3月期の実質GDP~前期比▲0.2%(年率▲0.9%)を予測~ -
2025年04月30日
「スター・ウォーズ」ファン同士をつなぐ“SWAG”とは-今日もまたエンタメの話でも。(第5話) -
2025年04月30日
米中摩擦に対し、持久戦に備える中国-トランプ関税の打撃に耐えるため、多方面にわたり対策を強化 -
2025年04月30日
米国個人年金販売額は2024年も過去最高を更新-トランプ関税政策で今後の動向は不透明に-
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【求められる非上場株式の流通活性化】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
求められる非上場株式の流通活性化のレポート Topへ