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- 欧州委員会によるTemuの調査-デジタルサービス法違反被疑事案
コラム
2024年11月19日
2024年10月31日、欧州委員会はTemuに対して、デジタルサービス法(Digital Services Act、以下DSA)に違反した可能性があるかどうか正式に調査に着手したと公表した1。
Temuとは中国発のショッピングモール型通販サイトであり、日本にも進出している。筆者がネットを閲覧していると、あり得ないくらいの安価の商品広告が掲出されることがあり、びっくりすることがある。ネットでは様々な情報が出ているが、真偽不明なのでここでは取り上げない。
さて、TemuはDSA上の非常に大きなオンラインプラットフォーム(Very large online platform)に指定されており、一般のオンラインプラットフォームよりも多くのDSA上の規定が適用されることとなっている。
欧州委員会の公表資料によると具体的に調査される項目は以下の通りである。
(1) Temuが、EU規則に不適合な製品の販売を行わないために導入しているシステムに関する調査。このシステムのうち、特に、以前に不適合製品を販売していたことで停止された不正な販売者が販売を再開することを制限するシステム、ならびに不適合商品そのものの販売再開を制限するシステムに関して調査を行う。
(2) 中毒性のあるサービスの設計に関連するリスクについての調査。この調査には人の身体的および精神的健康に悪影響を与える可能性があるゲームのような報酬プログラム、およびそのような中毒性のある設計から生じるリスクを軽減するためにTemuが導入しているシステムを含む。
(3) Temuがユーザーにコンテンツや製品を推奨する方法に関連するDSA上の義務の遵守。DSA上の義務としては、Temuの推奨システムで使用される主要なパラメータを開示すること、およびプロファイリングに基づかない、簡単にアクセスできるオプションを少なくとも1つユーザーに提供することが含まれている。
(4) 研究者がTemuの公開アクセス可能なデータにアクセスできるようにするというDSA上の義務の遵守。
公表資料によると該当するDSAの条文は以下の通りである。
27条:推奨システムに使用する主要なパラメータの開示
34条:一年に最低一回重要なシステミックリスクの特定、分析、評価を実施すること
35条:システミックリスクを抑制するために、オンラインインターフェイスなどのデザイン、特徴、機能を適応させることなどをはじめとした、合理的で比例的、かつ効果的な措置を取ること
38条、推奨システムの透明性確保
40条:調整担当官(Digital Service Coordinator、各加盟国に設置されるDSAを執行する当局)および欧州委員会によるデータアクセス確保
ここでのポイントは、案件がデジタル市場法(Digital Markets Act、以下DMA)ではなく、DSAでの調査開始決定であることだ。DMAは競争可能性(Contestability)を確保するための規則で、競争に関連する事件を取り扱う。他方、DSAはillegal contentを規制する規則で、ウェブ上での人の安全や権利を守るために立法されている2。つまりTemuの商慣行が、正当な商慣習として適正なものかどうかが調査されるということである。
なお、Temuについては、2024年11月8日、EUや欧州加盟各国より消費者保護法に基づく指示が出ている。これについては次回の研究員の眼で解説したい。
1 https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_24_5622 参照。
2 基礎研レポート「EUのデジタルサービス法施行」
https://www.nli-research.co.jp/files/topics/74016_ext_18_0.pdf?site=nli 参照。
Temuとは中国発のショッピングモール型通販サイトであり、日本にも進出している。筆者がネットを閲覧していると、あり得ないくらいの安価の商品広告が掲出されることがあり、びっくりすることがある。ネットでは様々な情報が出ているが、真偽不明なのでここでは取り上げない。
さて、TemuはDSA上の非常に大きなオンラインプラットフォーム(Very large online platform)に指定されており、一般のオンラインプラットフォームよりも多くのDSA上の規定が適用されることとなっている。
欧州委員会の公表資料によると具体的に調査される項目は以下の通りである。
(1) Temuが、EU規則に不適合な製品の販売を行わないために導入しているシステムに関する調査。このシステムのうち、特に、以前に不適合製品を販売していたことで停止された不正な販売者が販売を再開することを制限するシステム、ならびに不適合商品そのものの販売再開を制限するシステムに関して調査を行う。
(2) 中毒性のあるサービスの設計に関連するリスクについての調査。この調査には人の身体的および精神的健康に悪影響を与える可能性があるゲームのような報酬プログラム、およびそのような中毒性のある設計から生じるリスクを軽減するためにTemuが導入しているシステムを含む。
(3) Temuがユーザーにコンテンツや製品を推奨する方法に関連するDSA上の義務の遵守。DSA上の義務としては、Temuの推奨システムで使用される主要なパラメータを開示すること、およびプロファイリングに基づかない、簡単にアクセスできるオプションを少なくとも1つユーザーに提供することが含まれている。
(4) 研究者がTemuの公開アクセス可能なデータにアクセスできるようにするというDSA上の義務の遵守。
公表資料によると該当するDSAの条文は以下の通りである。
27条:推奨システムに使用する主要なパラメータの開示
34条:一年に最低一回重要なシステミックリスクの特定、分析、評価を実施すること
35条:システミックリスクを抑制するために、オンラインインターフェイスなどのデザイン、特徴、機能を適応させることなどをはじめとした、合理的で比例的、かつ効果的な措置を取ること
38条、推奨システムの透明性確保
40条:調整担当官(Digital Service Coordinator、各加盟国に設置されるDSAを執行する当局)および欧州委員会によるデータアクセス確保
ここでのポイントは、案件がデジタル市場法(Digital Markets Act、以下DMA)ではなく、DSAでの調査開始決定であることだ。DMAは競争可能性(Contestability)を確保するための規則で、競争に関連する事件を取り扱う。他方、DSAはillegal contentを規制する規則で、ウェブ上での人の安全や権利を守るために立法されている2。つまりTemuの商慣行が、正当な商慣習として適正なものかどうかが調査されるということである。
なお、Temuについては、2024年11月8日、EUや欧州加盟各国より消費者保護法に基づく指示が出ている。これについては次回の研究員の眼で解説したい。
1 https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_24_5622 参照。
2 基礎研レポート「EUのデジタルサービス法施行」
https://www.nli-research.co.jp/files/topics/74016_ext_18_0.pdf?site=nli 参照。
(2024年11月19日「研究員の眼」)
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経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
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