コラム
2024年11月05日

サイコロを3回振るギャンブル-平均的に収支トントンのギャンブルはどのように設定できるか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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確率を使ったパズルには、ギャンブルの要素を取り込んだものがたくさんある。そうしたパズルのギャンブルでは、ツールとして、コインやトランプとともにサイコロもよく用いられる。
 
サイコロは、通常、1回振ると1~6までのどれかの目が出るシンプルなものだが、確率パズルとして、さまざまな展開が考えられる。
 
今回は、そうした中から1つ見ていこう。

◇ サイコロを3回振るギャンブル

まず、確率パズルを紹介しよう。
 

(サイコロを3回振るギャンブル)
立方体で1~6のどの面が出る確率も等しい公正なサイコロ(つまり普通のサイコロ)を1つ用意します。
このサイコロを使って、金銭をやり取りするギャンブルがあります。
ギャンブルのプレーヤー(参加者)は、あらかじめ1から6のなかから賭ける数字を1つ表明します。
そのうえで、胴元は3回サイコロを振ります。
表明した数字が1回だけ出れば、プレーヤーは1コインを受け取ることができます。
表明した数字が2回出た場合は、プレーヤーは2コインを受け取ることができます。
表明した数字が3回とも出たら、プレーヤーは3コインを受け取ることができます。
ただし、表明した数字が1回も出なかったら、プレーヤーは1コインを支払わなくてはなりません。
あなたはプレーヤーとして、このギャンブルに参加すべきでしょうか? 暗算で考えてみてください。

まず、最初に言っておくべきこととして、日本では、刑法により賭博は禁じられており、処罰の対象とされている(賭博罪)。競馬、競艇、競輪、オートレースといった公営ギャンブルは、特別に法律で認められているため賭博罪の対象とはならないが、国内で勝手にギャンブルを行えば犯罪となる。この話は、パズルのための架空のもの、とご理解いただきたい。
 
さて、このパズルのギャンブルに参加すべきかどうかを検討するわけだが、通常は、平均的にいくら受け取るもしくは支払うことになるか、を考える必要がある。
 
「まあ、プレーヤーの受取額が平均的にプラスとなるギャンブルなんて世の中にはないだろう。ごちゃごちゃ検討するまでもなく、このギャンブルには参加すべきでない。」と考えた方は、ごもっともだ。ただし、それだと、今回の話はここで終わってしまう。
 
一応、平均的な受取額もしくは支払額を考えてみよう。

◇ 胴元の立場で考えてみる

ここで、このパズルには1つゆるい制約が置かれていることに注意しよう。最後の「暗算で考えてみてください」の一文だ。
 
プレーヤーの立場からまともに平均値を計算しようとすると、表明した数字が1回出る確率、2回出る確率、3回出る確率、1回も出ない確率を計算して、それを1、2、3、-1にそれぞれ掛け算して、最後にその合計を求めることになる。
 
「気合いを入れれば暗算でできるかもしれないが、ちょっと大変だろう。わざわざこの一文の制約を置いているからには、何かもっと簡単な計算の仕方があるはずだ。」と考えた方は、かなりスルドイ。
 
このギャンブルでは、プレーヤーが受け取った分は、胴元が支払っている。反対に、プレーヤーが支払った分は、胴元が受け取っている。つまり、全てのプレーヤーと胴元の収受額の合計がゼロの、“ゼロサムゲーム”となっている。
 
この点を踏まえると、プレーヤーではなく、胴元の立場から見てみたらどうか、という考えに行き着く。
 
胴元の立場からは、たくさんのプレーヤーを相手にすることとなる。各プレーヤーはさまざまな数字を表明するだろうが、プレーヤー全体では、どの数字も均等に(同じ人数ずつ)表明されるものと考えてよいだろう。
 
そこで、話を簡単にするために、プレーヤーが6人いて、1~6までそれぞれ異なる数字を表明するものと仮定する。どの数字も均等に表明されるという点からは、このように仮定しても特に問題はないはずだ。その上で、次のように考えていく。
 
3回振ったサイコロの目がいずれも異なった場合、6人のプレーヤーのうち、3人は表明した数字が1回だけ出て、残りの3人は表明した数字が1回も出なかったことになる。胴元としては、3-3=0で収支ゼロ。
 
3回振ったサイコロの目の2つが同じでもう1つはそれと異なった場合、6人のプレーヤーのうち、表明した数字が2回出たのが1人、1回だけ出たのが1人、残りの4人は表明した数字が1回も出なかったことになる。胴元としては、4-(2+1)=1で収支はプラス1。
 
3回振ったサイコロの目が3つとも同じだった場合、6人のプレーヤーのうち、表明した数字が3回出たのが1人、残りの5人は表明した数字が1回も出なかったことになる。胴元としては、5-3=2で収支はプラス2。
 
このように、これら3つのどのケースでも、胴元の収支はゼロかプラスであり、マイナスにはならない。これは裏を返せば、どのケースでもプレーヤーは、平均的には収支がゼロかマイナスであり、プラスにはならないことを意味する。したがって、このギャンブルに参加すべきではない、という結果が得られる。

◇ 平均的に収支トントンになるには…

このように胴元の立場で考えることで、確率を計算せずに確率パズルを解くことができた。この解法では、プレーヤーが表明した数字が2回出た場合や、3回とも出た場合に、プレーヤーが受け取るコインをどのくらいまで増やすと、胴元とプレーヤーの平均的な収支がトントンになるかが、副産物的にわかる。
 
3回振ったサイコロの目の2つが同じでもう1つはそれと異なった場合、胴元の収支はプラス1だった。そこで、表明した数字が2回出たプレーヤーの受取額を1増やして3コインとすると、この場合の収支はゼロになる。
 
3回振ったサイコロの目が3つとも同じだった場合、胴元の収支はプラス2だった。そこで、表明した数字が3回出たプレーヤーの受取額を2増やして5コインとすると、この場合の収支はゼロになる。
 
このように、表明した数字が1回、2回、3回出たプレーヤーの受取額を1、3、5コインとして、1回も出なかったプレーヤーの支払額を1コインとすることで、平均的な収支がトントンになる。

◇ 表明した数字が3回とも出たプレーヤーの受取額をどこまで引き上げるか

平均的に収支がゼロになる受取額の設定はこれだけではない。(1) 3回振ったサイコロの目がいずれも異なった場合、(2) 3回振ったサイコロの目の2つが同じでもう1つはそれと異なった場合、(3) 3回振ったサイコロの目が3つとも同じだった場合、の3つの場合で、収支が相殺し合いような状況を考えれば、平均的に収支トントンの設定は無数に考えられるだろう。
 
ここで、「暗算で考えてみてください」の一文を無視して、各場合の確率を計算してみよう。
 
(1)  3回振ったサイコロの目がいずれも異なる確率は、1回目のサイコロの出る目が6通り、2回目が5通り、3回目が4通りだから、それらを掛け算して、6 × 5 × 4 ÷ 63 = 20/36 となる。
 
(2) 3回振ったサイコロの目の2つが同じでもう1つはそれと異なる確率は、2回出る目の選び方が6通り、1回出る目の選び方が5通り、それらが出る順番について3通りが考えられるので、それらを掛け算して、6 × 5 × 3 ÷ 63 = 15/36 となる。
 
(3) 3回振ったサイコロの目が3つとも同じとなる確率は、その3回出る目の選び方が6通り考えられるので、6 ÷ 63 = 1/36 となる。
 
表明した数字が1回、2回、3回出たプレーヤーの受取額を1コイン、xコイン、yコインとして、1回も出なかったプレーヤーの支払額を1コインとすると、胴元の平均的な収支は、

(3-3)×20/36 + (4-(x+1))×15/36 + (5-y)×1/36 = (50-15x-y)/36

となる。
 
平均的に収支トントンとなるのは、xとyの関係が 50-15x-y=0 を満たすとき、ということになる。
 
ここで、x=2と置いてみよう。このとき、この式を満たすyの値は、y=20。
 
つまり、もともとのパズルの設定から、表明した数字が3回とも出たプレーヤーの受取額を徐々に引き上げていくとすると、このプレーヤーが20コインを受け取るところまで引き上げたときに、ようやく平均的に収支トントンとなる。それまでは、平均的には胴元の収支がプラスとなっている。
 
これらの結果をもとに、もともとのパズルの設定を少し変更して、次のようにアレンジしてみよう。

(サイコロを3回振るギャンブル (アレンジ版))
立方体で1~6のどの面が出る確率も等しい公正なサイコロ(つまり普通のサイコロ)を1つ用意します。
このサイコロを使って、金銭をやり取りするギャンブルがあります。1コインを支払うと、ギャンブルに参加できます。
プレーヤー(参加者)は、あらかじめ1から6のなかから賭ける数字を1つ表明します。
そのうえで、胴元は3回サイコロを振ります。
表明した数字が1回だけ出れば、プレーヤーは支払額の2倍の2コインを受け取ることができます。
表明した数字が2回出た場合は、プレーヤーは支払額の3倍の3コインを受け取ることができます。
表明した数字が3回とも出たら、プレーヤーは支払額の20倍の20コインを受け取ることができます。
ただし、表明した数字が1回も出なかったら、プレーヤーの支払額は返ってきません。
あなたはプレーヤーとして、このギャンブルに参加すべきでしょうか?

表明した数字が1回だけ出たプレーヤーや、表明した数字が2回出たプレーヤーの実質的な受取額は、もともとのパズルと同じだ。
 
表明した数字が3回とも出たプレーヤーは20コインを受け取ることができるが、ギャンブルに参加するために1コインを支払っているので、差し引き19コインの受け取りとなる。
 
これだと、先ほどの20コインの受け取りには達しない。したがって、このアレンジ版でも、まだ、胴元の平均的な収支はプラス。プレーヤーの平均的な収支はマイナスとなる。こう考えていくと、このギャンブルに参加すべきではないという結果が得られる。
 
やはり、「プレーヤーの受取額が平均的にプラスとなるギャンブルなんて世の中にはない」ということになるわけだ。
 
日本では、今後、特定複合観光施設区域に設けられるカジノ施設で、合法的なカジノが行われる見通しだ。たとえギャンブルに参加するにしても、遊びの範囲にとどめるべきと思われるが、いかがだろうか。

(参考文献)
 
“Mathematical Puzzles” Peter Winkler (CRC Press, 2021)
 
「特定複合観光施設(IR)」(国土交通省 観光庁ホームページ, 最終更新日2024年9月10日)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/seisaku_seido/kihonkeikaku/inbound_kaifuku/ir/tokuteifukugokanko.html

(2024年11月05日「研究員の眼」)

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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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