2024年10月31日

なぜ「今」BeRealを撮影する必要があるのだろうか-BeRealに関する私論的考察

生活研究部 研究員 廣瀬 涼

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本コラムのポイント

1――はじめに

1――はじめに

1日1回ランダムな時間に「BeRealの時間です」という通知がされ、その通知が来てから2分以内に自身の自撮りを撮影し投稿しなくてはならないというゲーム性や、撮影するために準備ができないため「盛る」事が出来ないという点が、若者から支持を受け「BeReal」はZ総研の「2024年上半期トレンドランキング」の「流行ったコト・モノ」で1位となった。一方で、通知が来てから撮影までに時間制限があるため、授業中や仕事の最中、脱衣所や更衣室など時間や場所をわきまえないで撮影する者も現れ、社会問題となっている。本稿では、まずBeRealの概要と実態に触れ、ネット社会における交友関係の特徴、自己を開示する事で生まれる効果、なぜBeRealなのか、なぜそのような強迫観念もつのか、という流れで若者が熱心にBeRealを使用する背景を考察した。

2――BeRealとは

2――BeRealとは

Z世代に特化した調査を行うZ総研の「2024年上半期トレンドランキング」1によると、Z世代の間で「流行ったコト・モノ」の1位に、また「流行った言葉」の2位に「BeReal.(ビーリアル/ビーリル)がランクインしている。BeRealは、2020年に公開されたフランスのSNSアプリだ。特徴は、1日1回ランダムな時間に、「BeRealの時間です」という通知がされ、その通知が来てから2分以内に、自分とその周囲の写真を撮影し、友達に共有しなくてはいけないという点にある。写真はインカメラとアウトカメラで同時に撮影され、また事前に撮影したモノをアップロードできないため、原則写真を加工して投稿することが不可能である。

2017年に新語・流行語大賞に「インスタ映え」が選ばれている通り、写真を媒介にしたコミュニケーションが主であるSNSおいては、そこに投稿される写真は、映えていたり(見栄えがいい)、盛れている(実物より美しく、可愛く見せることができる)ことが好まれてきたが、BeRealは、そのような流れから逆行して加工できない=ありのままの自身を他人に晒す必要がある。また、制限時間内2に撮影が完了しないと、遅れた時刻が投稿に表示されてしまったり、自分が投稿しないと他人の投稿が閲覧できないと言った制限もあり、その制限がゲーミフィケーションの要素を生み出し、若者から支持を受けているといった見解もある3。実際、利用者全体に占める14~27歳の割合は97%。圧倒的な若年層特化型SNSになっている4

また、ITジャーナリストの高橋暁子が大学生を対象に行った「BeRealについての調査」によると、「現在利用している」が55.1%、「過去に利用していたことがある」が9.3%と、利用率は6割強に及んでいる5
図1 大学生のBeRealの利用率
 
1 株式会社N.D.Promotion Z総研「『Z世代が選ぶ2024年上半期トレンドランキング』をZ総研が発表!」2024/06/03 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000093.000020799.html
2 制限時間の2分以内に撮影できた場合、その日はさらに2回、好きなタイミングで投稿できる。
3 高橋暁子 利用率6割、「BeReal」が大学生に大人気の理由--実際の使われ方は? 授業やバイトの中断も CNET Japan 2024/06/15  https://japan.cnet.com/article/35220182/#:~:text=BeReal%E3%81%AE%E5%88%A9%E7%94%A8%E7%8E%87%E3%82%92,%E8%A8%80%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%84%E3%81%A0%E3%82%8D%E3%81%86%E3%80%82
4 【インサイド】BeReal躍進の裏にリサーチあり トップが語る、Z世代トレンド1位の理由 2024/10/02 00:00  日経クロストレンド 
5 高橋暁子 SNSに強制されないと「素の自分」を出せない…授業中もバイト中も「BeReal」で撮影するZ世代の切実なホンネ PRESIDENT Online 2024/07/06 https://president.jp/articles/-/83367

3――「BeReal“が”撮影しろっていうから」という大義名分

3――「BeReal“が”撮影しろっていうから」という大義名分

「インスタ映え」という言葉や「盛る」という言葉が体現するように、SNSに投稿される写真は、実態をよりよく加工することが多く、各々の思惑によって取り繕われた「日常」がSNSのタイムラインには並んでいる。ある意味そのような「虚構と見栄の他人の日常」に消費者がお腹いっぱいになったことで、本来見せる事がないであろう寝起きやすっぴん、部屋着の自分など、良い部分だけが切り取られることのない偶然性(突発性)=見栄えが追求されない事によって生まれる「リアル」さにコンテンツとしての価値が見出されていると言えるだろう。

批評家の大澤聡が分析する通り、SNSの「いつでもどこでも」という常時接続の自由さは、自分は他ならぬ今これを見てほしい、という意図を浮き彫りにする6。投稿内容も投稿する時間も自分が決めるために、そこに何かしらの意思がなければ投稿はされないのである。だからこそ、その投稿に対する綿密な計画性や打算的な思考すらも垣間見る事ができ、わざとらしさがつきまとうわけだ。一方、若者の多くが自身の自撮りなどを公開し、称賛を受ける事で自己肯定感の向上につなげている。これは、「今日も私かわいい」「今日の私盛れてる」といったように、ほめてもらいたいという意思を公にして投稿するのではなく、意味があるのかないのかわからない文章に脈略のない自撮りを添付したり、「かわいくない」「ブス」といった自虐的なコメントと共に投稿して、「そんなことないよ!」と肯定してもらうまでがひとつのパターンとなっている。ただ自撮りをアップするだけでは自身の自意識の高さや、ナルシシズムを露呈させることになるため、意図はある(ほめてもらいたい)のに、違う理由をつけて自撮りを投稿し、「ほめてもらうつもりなどないのになぜか知らないけど褒めてもらえた!」という偶然性を自ら演じ、「自撮りをほめてもらう」という目的を達成しているのである。裏を返すと、投稿を見ている側もそのコンテクストを読み取り、その作られた偶然性に乗っかってあげており、そこに相互作用の装いが伺える。

しかし、BeRealにおいては、「通知が来たから投稿」「内カメラが作動するから自撮り」という仕様による必然性によって、「自分は自撮りなんか上げるつもりなかったけどBeRealが撮影しろっていうから」という大義名分が生まれ、他からの作用によって「自撮りを投稿することを強いられた」という構図を生み出すことができる。BeRealによって使役させられたという訳だ。そもそも自撮りを投稿することが目的のアプリなので、自撮りを投稿することが嫌いなユーザーは多くはないだろうし、偶然性や受動性を装う事ができるこの仕様が若者の自意識に対するニーズを充足していると考えられる。

また、BeReal外では、原型が無くなるまで加工したり、自動的に盛ることができるプリクラを活用するなど、加工することが自己肯定感に繋がる一方で、実物との乖離がありすぎる肖像を使用することで例えばマッチングアプリなどで実物と顔が違うといった事はよく話題になったり、逆に虚構の自分(理想の自分)と本当の自分との差によって自己肯定感の低下につながることもあるようだ。しかし、BeRealに投稿される写真は加工ができないため、自撮りを褒めてもらえることは取り繕っていない自分への称賛でもあるため、純粋にうれしいと言った話もよく耳にする。
 
6 自意識に応える偶然性/日常の「リアル」に価値 2024/06/27 中部経済新聞 10ページ

4――インスタの必然性、BeRealの偶然性

4――インスタの必然性、BeRealの偶然性

2分以内に取らなくてはいけないといいながらも、その実態は当初のコンセプトからは乖離しつつある。どんな状況でも晒さなければいけないというルールを守りたいが、さらけ出すことが難しい場合は、天井や壁、カバンの中などを自身の自撮りの代わりに撮影して投稿し、他人の投稿を見ると言った「捨て写真」を駆使する利用者もいる。リアルが映しだされるとはいえ、「BeRealを撮るとき、盛れることを気にするか」という問いに対して64%が「気にする」と回答した調査7もあるように、BeRealにおいても、リアルであることが全てではなく、その意識は、例えばあまりにひどい写りようで、裏で誰かに陰口を言われたり、共有されてしまってネタにされたり、デジタルタトゥーになることへのリスク回避にも繋がると考えられる。

また、そこに映し出される写真がリアルである(準備することができない)からこそ、日々華やかな生活を送っているユーザーにおいては、投稿される写真(通知が来るタイミング)も人々が羨む様な情景や光景が映しだされるため、その他のSNSの様に準備して見栄えのいい写真が投稿されるよりも、(「リアル」=日常がそうであると可視化させることで)取り繕っていないことが逆に強調される。筆者は2024年の4月から半年かけて高校生・大学生を対象にBeRealに関するインタビューを行った8が、その中でも、他人のBeRealの投稿内容が魅力的であると、自身のリアル(日常)と比較して、格差を感じるという意見を多数耳にした。準備した魅力(必然性)が生みだすわざとらしさを理解しているからこそ、準備していない魅力(偶然性)の価値もわかるわけだ。
 
7 日本経済新聞「BeReal、ありのままのはずが……やっぱり「盛りある」」内Z世代向けメディア「Sucle(シュクレ)」データ引用 2024/05/06日
8 2024年4月から10月まで高校生・大学生を対象に実施。高校生30人、大学生80人の計110人。

(2024年10月31日「基礎研レター」)

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生活研究部   研究員

廣瀬 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化論、若者マーケティング、サブカルチャー

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・公益社団法人日本マーケティング協会 第17回マーケティング大賞 選考委員
    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

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