コラム
2023年01月24日

Z世代を1000文字くらいで語りたい(5)-JC・JK流行語大賞からみるコロナ禍以降の消費者意識

生活研究部 研究員 廣瀨 涼

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1――例年と傾向が違ったJC・JK流行語大賞

JC・JK流行語大賞は、女子中高生の間で流行したものをランキング化したモノで、「ヒト・モノ・バショ・コトバ」の4つの部門に分けて発表されている。筆者は毎年、本ランキングに関して考察しているのだが、2020年度、2021年度と比較して本年度はランクインしているモノの傾向が少し違った印象を受けた。
表1 JC・JK流行語大賞2022
それこそ、コトバ部門においては、「てぇてぇ」1「片思いハート」2「粘土加工」3など若者世代以外全く耳なじみのないモノがランクインしているのだが、一方で他の部門をみると、ヒト部門にはSnowmanの目黒蓮、モノ部門には「ちいかわ」やディズニーキャラクターの「リーナベル」が、バショ部門にも昨年オープンした「ジブリパーク」や「ミヤシタパーク」など若者以外の世代も消費しているコンテンツや場所が並んでいる。

2021年度においてはコトバ部門に関しては言うまでもないと思うが、モノ部門においても「Girls planet 999」「骨格診断」「渡韓ごっこ」など若者以外の世代が想像もつかないワードが並んでいた。「ぴえん」や「きゅん」などJC・JK流行語大賞が発表されることで、若者世代以外がメディアを通して未知の言葉に出会う事も多かったと思うが、ここ数年は特にコロナ禍の影響により人々の行動が制限されていたこともあり、特定の場所で特定の何かが流行るというよりも、SNSやネットミーム4を起点に流行が生まれていた印象を受ける。だからこそ以前にも増して彼女たちの流行のサイクルは早く、その流行がマスメディアを通して広く世間に知られることはなく(他の世代に知られる)、彼女たちの文化に対して、上の世代が大きなギャップを受けることが多かったように思われる。
表2 JC・JK流行語大賞2021
また、移動が制限されるが故にトキ消費やコト消費といった体験や人との交流を要する消費ができないため、自宅で粛々と行える推し活をはじめとしたヒト消費が消費の潮流となっており、前回は推し活関連のコトバが数多くランクインしていた5。しかし、2022年に入るとコロナ禍での制限も少しずつ緩和されていき、実際に人々が集いたくなる流行の場所が生まれたり、ヒトが外に出ているからこそ実際に売れているモノや流行っているモノが視覚化され、それがメディアに取り上げられることも多くなり、若者に限らずその流行が消費、もしくは認知されるようになったのではないかと筆者は考える。このような背景が直接関係しているかはわからないが、調査においても昨年度まで存在していた「アプリ部門」が無くなり、本年度から「バショ部門」が新しくつくられた。
 
1 尊いという意味。感動して言葉にできない感情や素晴らしい作品に出合った時に「尊い」という言葉がある意味ネットスラングとして使用されてきた。その過程の中でドラゴンボールの孫悟空に「尊い」と発言させようとするが、悟空の訛りにより「尊い」が「てぇてぇ」と発音されているTwitterの二次創作絵がバズったことで、「てぇてぇ」という言葉が広く普及した。
2 1人が片手でハート、もう1人が片手でいいねをするポーズ。
3 写真の高画質加工を繰り返し、余計な線を消し、境目をフラットにすることで写真をのっぺりとなめらかにさせること。
4 インターネット上で、人が人の真似をして「特定のモノやコト」が広がっていく様子や「それ自体の事」を(インター)ネットミームと呼ぶ。ネット上で生まれた言葉やコンテンツの流行と考えたらわかりやすいかもしれない。
5 廣瀨涼(2021)https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=69662?site=nli 
「2021年JC・JK流行語大賞を総括する-「第4次韓流ブーム」と「推し活」という2つのキーワード」基礎研レポート2021/12/15

2――証明写真機がなぜランクインしているのか

「バショ部門」のランキングをみると1位は昨年愛知県にオープンした「ジブリパーク」、2位はバンダイナムコアミューズメントが運営するカプセルトイの専門店「ガシャポンのデパート」が、3位にはモノ部門で1位だったイラストレーター・ナガノによる漫画「ちいかわ」のオフィシャルグッズショップの「ちいかわランド」が、4位には映える写真やTikTokが撮れることで若い層から支持を受けている渋谷の「ミヤシタパーク」がランクインしている。いずれも若者世代以外でも訪れたことがあったり、ワイドショーなどでも紹介されている比較的幅広い層で認知されているスポットであるのだが、5位にはそれらとは毛色が異なる「証明写真機」がランクインしている。なぜ「証明写真機」が流行したバショなのだろうか。現在、若者の中には証明写真機をプリクラ代わりに利用しているモノも多いようだ。写真館に行く機会が少ない10代にとっては、ストロボでの撮影体験も目新しい体験となる。また、自動で盛れる機能がついているプリクラや加工が可能な写真撮影アプリに対し、証明写真機では、フレームや落書き機能などデコレーションする手段がなく、補正と言っても美肌補正機能くらいしかなく、自分たちで小道具を持ち込み、ポーズなどを工夫して撮影することが楽しいようだ。ここ数年、平成レトロの流れからインスタントカメラがあえて使用されるような消費文化も散見されたが、デジタルに浸っているからこそ、アナログなモノに新規性を見出す若者も多いのだ。

3――JC・JK流行語大賞からみるコロナ禍以降の消費者意識

筆者自身、若者に限らず流行やトレンドに関する助言を様々なメディアで行っているのだが、2021年は「いかにステイホームを充実させるか」、2022年は「日常が戻りつつある中での心身のリカバリー」がキーワードだったと考えている。その流れを踏まえ2023年は「Re消費」がキーワードになると筆者は考える。Reとは再びという意味を表し、要するにコロナ以前の消費行動に少しずつ戻っていこうという意識が、企業発信のみならず、消費者の意識においても生まれていくと考えるのだ。若者に関してもそれは同じで、長らく中止されていた東京ディズニーリゾートのキャンパスデーパスポートと呼ばれる学生限定の優待チケットが2022年の1月から再販され、多くの学生が学生時代の思い出を作るために足を運んでいる。また、卒業旅行で海外旅行を選ぶ若者も少しずつだが、増えており、移動が増えることでファッションやフードにおいても特定の場所発で、特定のモノが流行していくような消費文化が再燃するのではないかと筆者は考える。「JC・JK流行語大賞2022」は、そのような兆しが見え始めたと実感できる結果であった。

我々では意味が想像つかない流行語や、既存のサービスや商品から新規性を見出し新たな価値観を創造するなど、若者は独自の文化を生み出しているように思えるが、言うまでもなく、彼らも一生活者に過ぎず、情勢や市場の変化、気候の変化など、我々と同じように影響を受ける。しかし、我々と同じ生活者ではあるものの、そのような同じ環境下で他の世代とは異なる文化や特色を生み出しているという事そのものが、若者文化の魅力なのかもしれない。
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生活研究部   研究員

廣瀨 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

(2023年01月24日「研究員の眼」)

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