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ツーポイント・コンバージョンの選択-勝利の確率を高めるために、いま勝負に打って出るべきか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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ひと口にスポーツと言っても、陸上、水泳、体操、各種球技など多種多様だ。どのスポーツでも、勝負の場面では日頃の練習によるスキルの向上や精神面の鍛錬がものをいう。それだけではない。
競技会で好成績をおさめたり、試合に勝ったりするためには、体だけではなく頭をつかって戦略を練る必要もある。それでは、複数の戦略が考えられるなかでどれを選択するか? - そこで、確率を使って定量的に選択することが考えられる。
スポーツの戦略と確率はいろいろな形で関係している。確率のパズルのなかには、スポーツに関するものがある。今回は、アメリカンフットボールを題材としたパズルを見ていこう。
◇ 14点ビハインドの状態でタッチダウン - ポイント・アフター・タッチダウンはどうすべきか?
(ポイント・アフター・タッチダウンの選択の問題)
アメリカンフットボールのある試合(NFL公式戦)で、あなたのチームは14点差で負けています。試合終了まで時間はあまり残っていません。この状態で、あなたのチームはタッチダウンを成功させて8点差としました。試合に勝つためには、ポイント・アフター・タッチダウンとして、エキストラキックを選択すべきでしょうか、それともツーポイント・コンバージョンを選択すべきでしょうか? ただし、エキストラキックの成功確率は95%とし、ツーポイント・コンバージョンの成功確率は45%とします。また、オーバータイムに入った後に勝利する確率は50%とします。
まず、得点の種類について。アメリカンフットボールでは、大きく4つ得点の仕方がある。
1つ目に、相手チームのエンドゾーン(ゴールラインの後ろ10ヤード(約9.1メートル)までのゾーン)にボールを持ち込むとタッチダウンとなり6点を獲得。2つ目に、攻撃側のキックしたボールが相手チームのゴールの2本の柱の間のクロスバーの上を直接通過したらフィールドゴールとなり、3点をゲット。3つ目に、攻撃側が自陣のエンドゾーン内で守備側のチームにタックルされると、セイフティとして、守備側のチームに2点が与えられる。
そして4つ目が、コンバージョン。タッチダウンをすると、そのチームに、エキストラキックまたはツーポイント・コンバージョンの選択が与えられる。
エキストラキックを選択すると、ゴールライン15ヤード前の地点からキックをして、成功すれば1点を追加で獲得する。
ツーポイント・コンバージョンを選択すると、ゴールライン2ヤード前の地点から、もう1回の攻撃が与えられる。ランプレーかパスプレーで相手チームのエンドゾーンにボールを持ち込むと、ツーポイント・コンバージョン成功として、2点を追加で獲得する。
つぎに、1試合の時間構成について。試合は、1クォーター15分×4クォーターの計60分間で行われ、多くの点を獲得したチームの勝利となる。第4クォーターが終了しても同点の場合、オーバータイムとしてさらに15分間が追加される。どちらかのチームが最初に得点を入れた時点で試合は終了し、得点したチームの勝利となる。15分が経過しても得点が入らない場合は、基本的に決着がつくまで15分刻みのオーバータイムが適用されていく。(日本の場合は、日本アメリカンフットボール協会がこれとは別の超過節(オーバータイム)の公式規定を定めている。興味のある方は、同協会のホームページをご覧いただきたい。)
さて、パズルの問題に戻ろう。14点ビハインドの状態でタッチダウンにより6点獲得したため、8点差で負けている状態に変わった。このとき、成功確率の高いエキストラキックで1点追加を確保しにいくか、それとも、成功確率の低いツーポイント・コンバージョンで2点追加を狙いにいくか - どちらの選択が勝利の確率を高めるか、という問題である。
◇ 勝利の確率を計算すると…
この前提条件が成り立つとした上で、勝利の確率を計算してみよう。
[エキストラキックを選択した場合]
まず、エキストラキックを選択した場合。8点差の状態でけるキックが成功し(7点差となる)、その上で、もう1回タッチダウンを成功させて(6点を獲得)、今度もエキストラキックを選択して成功させる(1点を追加で獲得)と、同点となりオーバータイムに突入する。オーバータイムでの勝率は50%なので、この場合の勝利の確率は、0.95×0.95×0.5=0.45125となる。
8点差の状態でけるキックが失敗し(8点差のまま)、その上で、もう1回タッチダウンを成功させる(6点を獲得)と、同点に追いつくためにはツーポイント・コンバージョンを選択するしかない。これを成功させて(2点を追加で獲得)、オーバータイムに持ち込んで勝利する確率は、0.05×0.45×0.5=0.01125となる。
この2つを合計して、エキストラキックを選択した場合の勝利の確率は、0.45125+0.01125=0.4625となる。
ここで、8点差の状態でけるキックが成功した場合に、もう1回タッチダウンを成功させた後に、今度はツーポイント・コンバージョンを選択するということが考えられるかもしれない。しかし、その場合の勝利の確率は、0.95×0.45=0.4275となり、今度もエキストラキックを選択・成功させてオーバータイムで勝利する確率(0.45125)を下回るため、確率の面からは合理的な選択とは言えない。
[ツーポイント・コンバージョンを選択した場合]
つぎに、ツーポイント・コンバージョンを選択した場合。8点差の状態でのツーポイント・コンバージョンが成功し(6点差となる)、その上で、もう1回タッチダウンを成功させて(6点獲得)、今度はエキストラキックを選択して成功させる(1点を追加で獲得)と、逆転勝利となる。その確率を計算すると、0.45×0.95=0.4275となる。
この最後のエキストラキックが失敗に終わった場合、オーバータイムに突入する。この場合の勝利の確率は、0.45×0.05×0.5=0.01125となる。
8点差の状態でのツーポイント・コンバージョンが失敗し(8点差のまま)、その上で、もう1回タッチダウンを成功させて(6点を獲得)、今度もツーポイント・コンバージョンを選択してこれを成功させる(2点を追加で獲得)と、オーバータイムに持ち込むことができる。この場合に勝利する確率は、0.55×0.45×0.5=0.12375となる。
この3つを合計して、ツーポイント・コンバージョンを選択した場合の勝利の確率は、0.4275+0.01125+0.12375=0.5625となる。
なお、8点差の状態でのツーポイント・コンバージョンが成功した場合に、もう1回タッチダウンを成功させた後に、今度もツーポイント・コンバージョンを選択するということが考えられるかもしれない。しかし、その場合の勝利の確率は、0.45×0.45=0.2025となり、今度はエキストラキックを選択・成功させて勝利する確率(0.4275)を下回るため、確率の面からは合理的な選択とは言えない。そもそも1点とれば勝てる状態で、無理に2点をとりにいく選択は、(リーグ戦の順位に通算の得失点差が影響する場合などを除いて)通常は意味がない。
以上をまとめると、試合の残り時間に相手チームの攻撃をしのぎ、攻撃の機会にもう1回タッチダウンを成功させることを前提条件として、
8点差の状態でエキストラキックを選択した場合、勝利の確率は、0.4625
8点差の状態でツーポイント・コンバージョンを選択した場合、勝利の確率は、0.5625
となる。ツーポイント・コンバージョンを選択するほうが、エキストラキックを選択するよりも、0.1も勝利の確率が高くなる。
つまり、ツーポイント・コンバージョンを選択すべき、というのが、このパズルの答えとなる。
(2024年10月22日「研究員の眼」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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