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テニスの勝利確率-バレーボール、卓球、バドミントンに比べて番狂わせが少ないわけ

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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球技には、大きく分けて2つのタイプがある。1つは、野球、サッカー、ラグビーのように、1プレイごとに対戦しているどちらかのチームに点が入るとは限らないもの。もう1つは、テニス、バレーボール、卓球、バドミントンのように、1プレイごとに必ず対戦しているプレーヤーやチームのどちらかに点が入るタイプだ。このタイプは「ラリーポイント制」と呼ばれ、ある点数に到達すると、セットやゲームを獲得する。そして、獲得したセットやゲームがある数に達すると、試合に勝利する。
少し細かい点だが、テニスの場合、ファーストサービスのフォルトは1プレイとみなさず、ダブルフォルトになったときに1プレイとみなす。また、テニスでは、ふつうは1点、2点、3点といわずに、15点、30点、40点というが、ややこしくなるので、ここでは1点、2点、3点と表すことにする。
テニスは、点数カウントの仕組みが複雑だ。先に4点を獲得したプレーヤーがゲームを取る。そして、先に6ゲームを獲得したプレーヤーが、セットを取る。ただし、ゲームカウントが5-5で並んだ場合は、ゲームを2つ立て続けにとって7-5にするか、もしくは、ゲームカウント6-6で並んでタイブレークという7点先取のゲームをとることで、そのセットを獲得できる。そして、3セットを先に獲得したプレーヤーが勝利する(5セットマッチの場合)。
ここで、デュースという点数カウントの仕組みがある。あるゲームで点数が3-3で並んだ場合は、2点差をつけて上回らないと、そのゲームを獲得できない。また、タイブレークにも、デュースがある。点数が6-6で並んだ場合は、2点差をつけて上回らないと、そのセットを獲得できない(※注)。デュースがあることで、試合の緊張感が高まり、1プレイごとに観客が大いに沸くこととなる。
(※注) 4大大会のシングルスの試合では、最終セットでゲームカウントが6-6で並んだ場合、決着のつけ方がそれぞれ異なる。全米大会は、通常のセットと同様、7点先取のタイブレーク。全豪大会は、10点先取のタイブレーク。全仏大会はタイブレークを行わずにどちらかが2ゲーム差をつけて相手を上回るまで試合が決着しない。全英大会は、以前は全仏大会と同じだったが、2019年から仕組みが変わった。2ゲーム差がつかないままゲームカウントが12-12で並んだ場合、7点先取のタイブレークで決着をつけることとなった。
なお、年間最終戦であるATPファイナルズ(男子)やWTAファイナルズ(女子)のシングルスは、3セットマッチで、最終セットは通常のセットと同様、7点先取のタイブレークで行われている。
実は、テニスの1ゲームのスコアは、確率的に計算できる。これは、1つのゲームを獲得するまでのプレイの回数が、「負の二項分布」と呼ばれる確率分布に従うためだ。これ以後、算式が出てきて、やや難解かもしれない。算式をとばして、後の【計算結果】まで進んでいただいても構わない。
たとえば、プレーヤーAとBが対戦するとしよう。1プレイでAが得点する確率を、pと置く。Aが得点できない確率(Bが得点する確率)は、(1-p)だ。それぞれのプレイでの得点は、過去のプレイの結果とは無関係に、独立に決まると想定する。
さて、Aが4-0のラヴゲームで、ゲームを獲得する確率はどれくらいか。これは、確率pが4回続けて起こるのだから、(pの4乗)となる。
Aが4-1のスコアでゲームを獲得する確率はどうか。Bが1点を取るのが、Aが0点、1点、2点、3点のときの4パターンある。したがって、4×(1-p)×(pの4乗)となる。
同様に、Aが4-2のスコアでゲームを獲得する確率は、10×{(1-p)の2乗}×(pの4乗)となる。ここで、10という数字は、Bが2点を取るパターンの数だ。
ややこしいのが、点数が3-3で並んで、デュースの末にAがゲームを獲得するケースだ。まず、点数が3-3になる確率は、先ほどまでと同じように、20×{(1-p)の3乗}×(pの3乗)となる。
これに、デュース後にAが2点差をつけてBを上回る確率をかける。
まず、Aが2点続けて取る確率は、(pの2乗)。デュース後の2つのプレイでAとBが1点ずつを取り合って、1回デュースに戻ってから、Aが2点続けて取る確率は、2p(1-p)×(pの2乗)となる。
2回デュースに戻ってから、Aが2点続けて取る確率は、[{2p(1-p)}の2乗]×(pの2乗)。
3回デュースに戻ってから、Aが2点続けて取る確率は、[{2p(1-p)}の3乗]×(pの2乗)……。
高校の数学で出てきた等比数列の和の計算法を使って、これらを足していく。初項は(pの2乗)、公比は2p(1-p)だ。その結果、デュース後にAが2点差をつけてBを上回る確率は、(pの2乗)÷{1-2p(1-p)}となる。
したがって、Aがデュースの末にゲームを獲得する確率は、以下のようになる。
20×{(1-p)の3乗}×(pの3乗)×(pの2乗)÷{1-2p(1-p)}
つまり、Aがゲームを取る確率は、4-0のラヴゲーム、4-1のスコア、4-2のスコア、デュースの末、のそれぞれでゲームを取る確率を、全部足し算して、
(pの4乗)+4×(1-p)×(pの4乗)+10×{(1-p)の2乗}×(pの4乗)+20×{(1-p)の3乗}×(pの5 乗)÷{1-2p(1-p)}
となる。かなりごちゃごちゃしているが、pが決まれば、なんとか計算できるわけだ。
そして、これを何ゲームも繰り返していって、6つのゲームを取るとセットが得られ、獲得したセットの数が3つになると、試合に勝利することになる(5セットマッチの場合)。
【計算結果】
1プレイの得点確率に対して、ゲームやセットを取る確率、試合に勝つ確率はどれくらいなのか。1プレイの得点確率を60%、55%、53%、51%の4通りにおいた計算結果は、つぎの表のようになった。
つまり、1プレイの得点確率が60%あると、ほぼ確実に試合に勝てる。この確率が55%や53%の場合でも、試合には95.3%や84.3%とかなり高い確率で勝てる。それどころか、両者がほぼ互角で、1プレイの得点確率が51%(相手の得点確率は49%)とわずかに相手を上回るような場合でも、試合に勝つ確率は63.2%とけっこう高い。
これをバレーボール(6人制、5セットマッチ)、卓球(7ゲームマッチ)、バドミントンと比較したい。ここで、それぞれの球技の点数カウントの仕組みについても、簡単にみておこう。
バレーボールは、先に25点を獲得したチームがセットを取る。ただし、点数が24-24で並んだ場合は、デュースとなって2点差をつけて相手を上回った場合にセットを取る。そして、先に3セットを獲得したチームが勝利する。
ただし、セットカウントが2-2で並んだ場合は、第5セットは、15点を獲得したチームがこのセットを取って試合に勝利する。なお、第5セットの点数が14-14で並んだ場合は、デュースとなって2点差をつけて相手を上回ったチームが試合に勝利する。
卓球は、先に11点を獲得したプレーヤーがゲームを取る。ただし、点数が10-10で並んだ場合は、デュースとなって2点差をつけて相手を上回った場合にゲームを取る。そして、先に4ゲームを獲得したプレーヤーが勝利する(7ゲームマッチの場合)。
バドミントンは、先に21点を獲得したプレーヤーがゲームを取る。ただし、点数が20-20で並んだ場合は、デュースとなって2点差をつけて相手を上回った場合にゲームを取る。なお、デュースが続いて点数が29-29で並んだ場合は、30点目の点を獲得したプレーヤーがゲームを取る。そして、先に2ゲームを獲得したプレーヤーが勝利する。
さて、4つの球技の計算結果を比べてみよう。1プレイの得点確率を55%とした場合、試合の勝利確率は、テニス(5セットマッチ)が95.3%なのに対し、バレーボールが90.1%。卓球が85.6%、そしてバドミントンが83.9%という結果となった。つまり、テニス、バレーボール、卓球、バドミントンの順番に、試合に勝利する確率が高いことになる。この順番は、1プレイの得点確率を60%、53%、51%にした場合も同じだ。
最後に、1つ重要な注意点を述べる。今回取り上げた4つの球技では、サービスをするか、レシーブをするかで、1プレイの得点確率は全く違ったものになることが多い。特に、テニスはその傾向が顕著だ。しかし、上記の分析では計算が複雑になることを避けるために、サービスかレシーブかの違いは考慮せずに1プレイの得点確率を置いている。その点にご注意いただきたい。
こんどラリーポイント制の球技をプレイしたり、観戦したりするときには、得点のカウントの仕組みが試合に与える影響を、少し考えてみてはいかがだろうか。
(2019年11月07日「研究員の眼」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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