- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 保険 >
- 保険会社経営 >
- 超過確率何分の1の豪雨が基準?-治水事業の整備基準を確率の面から見てみよう
超過確率何分の1の豪雨が基準?-治水事業の整備基準を確率の面から見てみよう

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
日本は山地が多く平野が少ない島国であるため、大陸国と比べると、急勾配の河川が多くある。大雨が降ると、急に増水して洪水が起こりやすくなる。そこで、古くから全国で河川の治水整備が進められてきた。特に、木曽三川(長良川、木曽川、揖斐川)が集中する濃尾平野の輪中の地域を抱える愛知県、岐阜県、三重県は治水に力を注いできた。
水の分布や循環を扱う水文(すいもん)学、水の流れや治水を扱う水理学においては、堤防などの施設の整備水準を定める際に「超過確率」という考え方が用いられる。これは、施設がどのぐらいの確率で降る大雨に対応するようにすべきか、という整備の目標基準だ。超過確率は、降雨の程度を、過去の降雨実績をもとに確率を用いて表すもので、通常は、年単位で「年超過確率」として示される。例えば、「年超過確率1/10の降雨は、1時間60ミリメートル」などと表示される。
今回は、この超過確率について見ていこう。
◇ 超過確率とは
「年超過確率1/80の降雨」は、1年間のうちに、その規模を超える大雨が発生する確率が1/80であることを意味する。超過確率が小さいほど、滅多にないような大雨、ということになる。
地方自治体の治水計画には、超過確率が示されている場合がある。各種の雨水整備事業を行うにあたり、どの水準の大雨に耐えられる整備を行うかという目標水準を示すものといえる。
例えば、名古屋市は、過去の降雨実績から「年超過確率1/10の降雨は、1時間63ミリメートル」として、これを河川整備や緊急雨水整備(下水道など)の基準としている。
◇ 「年超過確率 1/20 の降雨」が20年の間に降る確率は100%ではない
年超過確率は1年間のうちに起きる確率をいう。したがって、年超過確率1/20の降雨が1年間のうちに起きない確率は、19/20となる。
20年間で考えると、一度も起きない確率は、その20乗つまり、(19/20)20 ≒ 0.358となる。年超過確率1/20の降雨が20年間のうちに一度以上起きる確率は0.642(=1-0.358)となる。
確率を冷静に考えれば何ということはない話だが、焦っているときは、つい誤ってしまいかねない。超過確率の解釈には、少し注意が必要と言えるだろう。
◇ 最大値の確率-極値理論
一般に、降水による洪水の発生のような滅多に起こらないような極端な事象に関して、平均値の統計は通用しない。平均を中心に左右対称に分布する正規分布のような確率分布が、極端な事象の場合は成り立たないとみられるためだ。
最大値などの極値を扱う統計として、極値理論や極値統計学といわれる分野がある。超過確率は、この極値理論をもとに計算される。
◇ 最大値の分布にはガンベル分布がよく用いられる
イギリスの統計学者フィッシャーとティペットは、1次元の極値の漸近分布は、ガンベル分布、フレシェ分布、ワイブル分布の3タイプのいずれかであるとの定理(フィッシャー-ティペットの定理)を示した。
もともとのデータがどのような分布に従うものかによって、極値の漸近分布は異なってくる。例えば、もともとの分布が正規分布や対数正規分布やガンマ分布の場合は、漸近分布はガンベル分布。パレート分布やコーシー分布の場合は、フレシェ分布。一様分布やベータ分布の場合は、ワイブル分布といった具合だ。
このうち、最大値の分布には、漸近分布としてよくガンベル分布が用いられる。
(2024年10月15日「研究員の眼」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
篠原 拓也のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/01 | 1, 2, 4, 8, 16, ○, …-思い込みには要注意! | 篠原 拓也 | 研究員の眼 |
2025/03/25 | 産業クラスターを通じた脱炭素化-クラスターは温室効果ガス排出削減の潜在力を有している | 篠原 拓也 | 基礎研レター |
2025/03/18 | 気候変動:アクチュアリースキルの活用-「プラネタリー・ソルベンシー」の枠組みに根差したリスク管理とは? | 篠原 拓也 | 基礎研レター |
2025/03/11 | 国民負担率 24年度45.8%の見込み-高齢化を背景に、欧州諸国との差は徐々に縮小 | 篠原 拓也 | 研究員の眼 |
新着記事
-
2025年04月01日
今日もまたエンタメの話でも。 -
2025年04月01日
欧州大手保険グループの2024年末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック- -
2025年04月01日
1, 2, 4, 8, 16, ○, …-思い込みには要注意! -
2025年04月01日
日銀短観(3月調査)~日銀の言う「オントラック」を裏付ける内容だが、トランプ関税の悪影響も混在 -
2025年04月01日
「こづかい」が20年で7割減少?-経済不安、キャッシュレスやサブスクなど消費のデジタル化の影響も
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【超過確率何分の1の豪雨が基準?-治水事業の整備基準を確率の面から見てみよう】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
超過確率何分の1の豪雨が基準?-治水事業の整備基準を確率の面から見てみようのレポート Topへ