コラム
2023年06月13日

山口県は九州北部 !?-気象の地域区分における、下関地方気象台の変遷

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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気象では、北海道から沖縄まで、日本全国を12の地域区分に分けている。地域区分は、原則として、都道府県単位で設定されているが、鹿児島県だけは奄美地方を奄美、それ以外を九州南部としている。
図表1. 気象での12の地域区分
この図をよく見ると、1つ不思議な点に気がつく。山口県が、九州北部に含まれているのだ。一般に、地理の分類では、山口県は中国地方の一部とされることが多いと思われるが、気象の地域区分では九州北部の一部となっている。なぜなのだろう。今回は、この点を調べてみた。

◇ 山口県は、戦後4年あまり、中国の区分に含まれていた

山口県では、下関地方気象台が中心となって、気象の観測や予報等が行われてきた。同気象台の前身は、1883年(明治16年)に観測を開始した下関測候所だ。その変遷を追うと、次表のようになる。
図表2. 下関地方気象台 (山口県) の変遷  (主なもの)
この表によると、戦前には、長い間、県営とされていた。戦後は、1945年8月15日(終戦日)~1949年10月31日の4年あまりの間、下関(山口県)は広島管区気象台の管轄とされている。この間、地域区分でいうと中国の区分に含まれていたことがわかる。

◇ 1939年に、下関が福岡管区気象台の管轄となったことがすべての始まり

上記の表では、1939年に、下関測候所は福岡管区気象台の管轄となっている。これが、山口県が九州北部に入る、そもそもの発端といえる。
 
この年、中央に加えて、札幌、大阪、福岡の3つの管区気象台が発足した。その際、全国の各測候所は、いずれかの管区気象台の管轄となった。
 
大阪管区気象台は、近畿地方、中国地方、四国地方の各府県の測候所を広く管轄することになった。一方、福岡管区気象台は、奄美を含む九州地方を管轄することとなった。
 
[(注) 以降は、明確な資料に行き着かなかったため、筆者の推察を含む]
 
このとき、山口県について、他の中国地方の諸県と同じく大阪管区気象台の管轄とするか、それとも地理的に近い福岡管区気象台の管轄とするか、検討が行われたのではないだろうか。
 
ここで、冬季の気象の特徴を見てみよう。北陸地方や山陰地方などの日本海側の諸県は大陸からの距離が長く、冬にはシベリア気団による大陸からの冷たい北西風の影響で西高東低の気圧配置となりやすい。もともと乾燥しているシベリア気団は、日本海からの水蒸気を含んで変質し、日本海側に湿った季節風をもたらす。この季節風が日本列島の中心を走る山脈に当たることで積乱雲が発生し、多雪となる。
 
一方、山口県は、九州北部と同様、朝鮮半島からの距離が短い。このため、冬にも北西風が海からの水蒸気をあまり含まず、降水量がそれほど多くならない。つまり、山口県は、九州北部に似た気象となる。(この点については、2018年11月21日のウェザーニュース(参考資料)で詳しく解説されている。)
 
こうした点を踏まえて、1939年に、山口県の管轄は福岡管区気象台とされたものと考えられる。そして、このときに、気象の地域区分上、山口県は九州北部に入ることとなったわけだ。

◇ 1949年に下関は福岡管区気象台の管轄に戻された

その後、1945年の終戦の日に広島管区気象台などが発足して、8管区体制となった。その際、下関(山口県)は、中国地方として広島管区気象台の管轄に変更となった。その後、1949年8月には、新たに新潟が管区気象台に加わり、9管区体制となった。
 
ところが、同年11月には、新潟、名古屋、広島、高松が管区気象台ではなくなり、5管区体制に変更となった。
 
その際、広島管区気象台の管轄であった山口県をどうするかということが検討されたはずだ。そのなかで、他の中国地方の諸県のように大阪管区気象台の管轄とするのではなく、以前の姿に戻して、福岡管区気象台の管轄とすることになったようだ。そしてそれ以降、現在までこの状態が続いている。

◇ 管区気象台の管轄地域を分けて、地域区分を設定

1972年には、沖縄が本土復帰し、沖縄県ができた。このとき、沖縄には管区気象台は設置されず、沖縄気象台が設置された。5管区気象台プラス沖縄気象台という体制となり、いまに至っている。
 
その結果、各管区気象台と地域区分は、次のような関係となっている。
表3. 管区気象台と地域区分の関係
このような経緯で、福岡管区気象台の管轄である山口県は、九州北部に含まれることになったものと考えられる。気象の地域区分1つとっても、戦前から戦中、戦後に渡って、様々な変遷が含まれているものと言えるだろう。

(参考資料)

「日本の気候」(気象庁HP)
(https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kisetsu_riyou/tenkou/Average_Climate_Japan.html)
 
「山口県の気象100年」(下関地方気象台, 1973年)
 
官報 (「日本法令索引」(国立国会図書館)による)
 
「管区気象台」(ウィキペディア フリー百科事典)
 
「図解・気象学入門 - 原理からわかる雲・雨・気温・風・天気図」古川武彦・大木勇人著(講談社, ブルーバックス B-1721, 2011年)
 
「気象庁では、山口県を九州北部地方、新潟県を北陸地方としている」饒村曜氏(Yahoo! Japanニュース, 2017年4月10日)
https://news.yahoo.co.jp/byline/nyomurayo/20170410-00069717
 
「山口県は九州なの!? 天気予報における地方区分の不思議」(ウェザーニュース, 2018年11月21日)
https://weathernews.jp/s/topics/201811/160055/
 
「山口県は中国地方? 九州北部? 天気予報の区分、そのルーツは」井上俊樹氏(毎日新聞, 2022年6月28日)
https://mainichi.jp/articles/20220628/k00/00m/040/237000c#:~:text=%E6%99%AE%E6%AE%B5%E3%81%AE%E5%A4%A9%E6%B0%97%E4%BA%88%E5%A0%B1%E3%81%A7%E3%82%82,%E3%81%9F%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%AB%E3%81%95%E3%81%8B%E3%81%AE%E3%81%BC%E3%82%8B%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E3%80%82

 
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2023年06月13日「研究員の眼」)

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