コラム
2024年10月03日

暑さ指数(WBGT)と熱中症による搬送者数の関係

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――熱中症に対する注意喚起

近年、熱中症に対する注意喚起には、気温ではなく暑さ指数(WBGT)が使われることが多い。

暑さ指数(WBGT)とは、通常の温度計を用いて測定できる気温(乾球温度)だけでなく、黒球温度(弱風時の日なたにおける体感温度)や湿球温度(皮膚の汗が蒸発する時に感じる涼しさ度合い)を加味したもので

屋外:暑さ指数(WBGT) =0.7 × 湿球温度 + 0.2 × 黒球温度 + 0.1 × 乾球温度
屋内:暑さ指数(WBGT) =0.7 × 湿球温度 + 0.3 × 黒球温度

で算出する1

熱中症に関しては、気温よりも暑さ指数(WBGT)の方が関連が強いとされ2、2021年からは暑さ指数の予測に基づいて「熱中症警戒アラート」が、2024年4月からは「熱中症特別警戒アラート」が発表されるようになった3

日本生気象学会による「日常生活における熱中症予防指針Ver.4」では、WBGT31以上を「危険」とし、「高齢者においては安静状態でも発生する危険性が大きい。外出はなるべく避け、涼しい室内に移動する」といった注意を出している。また、(公財)日本スポーツ協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック(2019)」では、運動に関する指針として、WBGTが31以上で「運動は原則中止」としている。

この夏は、毎日のように天気予報で熱中症に対する注意が呼びかけられていた。WBGTによってどの程度リスクが高まるのか。年齢による違いはどの程度なのか。WBGTと熱中症による救急搬送者数にはどのような関係があるか、公表されているデータを紹介する。
 
1 単位は「℃」であるが、乾球温度(いわゆる気温)と区別しやすいように単位のない指数として表記することが多い。
2 環境省「熱中症予防情報サイト:暑さ指数(WBGT)について」「 〃 :暑さ指数はなぜ有効なのか?」(https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt_ex.php
3 村松容子「熱中症に対する注意喚起が変わる~災害・防災、ときどき保険(番外編)」ニッセイ基礎研究所 基礎研レター(2020/7/1)(https://www.nli-research.co.jp/files/topics/64842_ext_18_0.pdf?site=nli

2――暑さ指数(WBGT)と熱中症による救急搬送者数

使用したデータは、2022年と2023年の5~9月の毎日の都道府県別WBGTと都道府県別熱中症による救急搬送者数で、以下の図は人口10万人あたりの搬送者数を示している。すなわち、47都道府県×153日(5~9月)×2年間分の搬送者数×年齢群(4区分)を色分けしてプロットしている。

WBGTは、環境省が公表する毎時のWBGTのうち都道府県を代表する地点における日ごとの最高WBGT(日最高WBGT)を使用した。救急搬送者数は、総務省消防庁による「熱中症情報 救急搬送状況」の日ごとの年齢群別都道府県別搬送者数を使用した。新生児と乳幼児はそれぞれ搬送者数が公表されているが、本稿では合算した。
図表 WBGT(暑さ指数)別人口10万人あたり救急搬送者数 (1) 年齢群別 1高齢者、少年、成人、新生児・乳幼児の順に多い
年齢群別に人口10万人あたり4の搬送者数をみると、同じWBGTでは高齢者(65歳以上)がもっとも多く、次いで少年(7~17歳)、成人(18~64歳)、新生児・乳幼児(0~6歳)の順に多く(図表(1))、年代によって耐性が異なることが知られている。

成人であっても、WBGT30程度以上で救急搬送者数が急激に増えていることがわかる。

一般に、熱中症においては高齢者と小さな子どもへの注意喚起が行われることが多いが、新生児・乳幼児については、救急搬送者数は多くはなかった。大人が側にいることが多いと思われるため、適宜水分補給や休息をおこなっていると思われるほか、体調不良時には救急搬送にいたる前に受診している可能性が考えられる。
 
4 総務省「10月1日人口推計(都道府県別、5歳階級)」と2020年国勢調査の結果から2022年、2023年の都道府県別年齢別人口を推計した。
図表 WBGT(暑さ指数)別人口10万人あたり救急搬送者数 (2) 平均気温別(65歳以上) 2同じWBGTなら平均気温が低い地域の方が多い
直近5年間の平均気温が高い順に10県、低い順に10道県を比較すると、同じWBGTなら平均気温が低い10県で、搬送者数は多い傾向がある。その他の27都府県は、図表(2)では割愛したが、両者の間にある。同じく、図表(2)では、高齢者(65歳以上)について図示したが、他の年齢群も同様の傾向がある。暑さへの慣れやエアコンの設置率・利用率などの影響がある可能性が考えられる5
 
5 たとえば、公立小中高校における普通教室のエアコン設置率は、2022年時点で、平均気温が低い10県で75.4%、平均気温が高い10県とその他27県で99.8%(文部科学省「公立学校施設の空調(冷房)設備設置状況について」)となっている。
図表 WBGT(暑さ指数)別人口10万人あたり救急搬送者数 (3) 月別(65歳以上) 3同じWBGTなら5~6月ほど多い
同じWBGTならば、5~6月の方が7月以降よりも搬送者数が多い傾向がある。図表(3)では、高齢者(65歳以上)について図示したが、他の年齢群も同様の傾向がある。

やはり暑さへの順化やエアコンの利用率などの影響が考えられる。





 

3――最高気温を参照するのではだめなのか

式でみたとおり、WBGTは湿気も加味した指標であり、気温だけを参照するのに比べて、気温が低くても湿度が高い日の身体の負担を表している。7~8月以降のような連日猛暑かつ多湿となる時期もさることながら、5~6月といった気温が低めであるが湿度が高い日がある時期の熱中症リスクを予測する際にも参考となりそうだ。

今後も暑さは増していく可能性がある。WBGTと熱中症の関係を知って、時期や地域、年代に応じて適切に対処していく必要があるだろう。

(2024年10月03日「研究員の眼」)

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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

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