2024年09月24日

あの“同期”はなぜ飲み会に参加しないのか-Z世代のアルコールに対するスタンスについて考える

生活研究部 研究員 廣瀬 涼

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3――夜だから「飲む」という慣習からの「解放」

一方で、現代社会においては、あえて酒を飲まないライフスタイルを選ぶソバ―キュリアス、飲みたい人は飲めばいいし、飲めない人はムリしなくてもよいというスマートドリンク(スマドリ)など、酒の消費に対する多様性が浸透しつつある。特に若者においては20年程前と比較すると20代、30代男女で飲酒習慣が低下しており、昨今言われている「若者のアルコール離れ」の様相を見て取れる6
図6 性年代別にみた飲酒習慣率の変化
これは、若者のナイトタイムアクティビティのスタンスにも影響を与えているようだ。
図7 Z世代の外出時間帯における意識(n=423 男性:209, 女性:214)
SHIBUYA109 lab.が行った「Z世代のナイトタイムエコノミーに関する意識調査」7では、出かける時間帯の意識ついて聞いている。それぞれの時間帯を見てみると夜や深夜は「初対面やまだ浅い仲の相手と出かける時間」ではなく、「既に仲が良い相手と出かける時間」としての意識が強く、何か新しい出会いや仲を深めるよりも、気のおけない仲間と過ごす時間として活用しているわけだ。

また、同調査では、夜の外出におけるアルコールとの関りについても聞いているが、「まだお酒の得意不得意が分からない相手には“飲みに行こう”より“ごはん行こう”と誘うことが多い」が65.9%、「夜の時間帯のお出かけ・遊びをする場合でもお酒を飲まないことがある」が63.3%、「お酒のペースや注文、お店選びなどはお酒が飲めない人に合わせている」が59.6%と、飲酒が必須でないことや、お酒を飲まない人もいることが前提であることが伺える。
図8 夜の外出に関してあなたの考えにあてはまるものを教えてください(n=423 男性:209, 女性:214)
1980年以降、飲みニケーションが円滑な人間関係を構築するための機会として重宝されてきたが、Z世代においては、酒そのものがコミュニケーションの“フック”になってはいないと言えるだろう。

BIGLOBEが行った「若年層の飲酒に関する意識調査」8によれば特に20~24歳のZ世代においては、飲酒のスタンスに対して「特別な時のみお酒を飲みたい」が34.8%と最も高くなっている。また、飲酒へのイメージについては、20~24歳のZ世代ではそれ以前の世代と比較して「盛り上がる」「特別感が出る」が高くなっている。一方、「落ち着く」「日常感がある」は20~24歳のZ世代と比べ、30~60代が高い。飲酒に対するモチベーション(動機)が世代によって変化があることが垣間見れる。
図9 飲酒に対する気持ち
図10 飲酒へのイメージ(複数回答)
飲酒の特別感や非日常性など、消費者の飲酒に対する考え方の変化から、最近ではノンアルコール/ローアルコール専門のバーも存在している。「お酒は飲めないけれど、バーには行きたい」あるいは「お酒はあえて飲まないけれど、バーには行きたい」という消費者のために、お酒よりむしろバーという舞台性=特別感・非日常性を提供することに特化している。また、アルコールを飲む人を敢えて排除するわけではなく、アルコール入りのカクテル“も”提供している。同様に夜カフェなどでも、コーヒーや紅茶だけではなくアルコール“も”提供していることが一般的だ。前述したZ世代の調査やメインで酒が提供されるわけではないバーが市場に受け入れられていることからもわかる通り、飲酒は個々の「選択」であるべきなのだ。
 
6 久我尚子「さらに進行するアルコール離れ-若者で増える、あえて飲まない「ソバ―キュリアス」」2022/11/24 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=73047?site=nli
7 SHIBUYA109 lab. 「Z世代のナイトタイムエコノミーに関する意識調査」2024/08/22 https://www.shibuya109lab.jp/article/240822.html
8 あしたメディアby BIGLOBE「若年層の飲酒に関する意識調査:Z世代「日常的にお酒を飲みたくない」8割強 あしたメディア by BIGLOBEが若年層の飲酒に関する意識調査を発表」2023/05/17 https://www.biglobe.co.jp/pressroom/info/2023/05/230517-1

4――Mockが雰囲気を壊さない

4――Mockが雰囲気を壊さない

とはいえ、バーや仲間内で飲み会をしている時に、自分だけソフトドリンクを飲んでいるとなんともバツが悪いという心理も理解できる。学生時代にバーテンダーのバイトをしていたころ、ワインやウイスキーを頼む若い客層に「酒よりもコーラの方がおいしくない?」と意地悪な質問をしたことがあったが、「コーラの方がうまいけど、バーの雰囲気を楽しみたいからお酒を頼んでる」と返されることが多かった。彼らはバーという舞台性(雰囲気)を楽しむために自分自身がその舞台から排除されないよう酒を頼まなくては格好がつかないと考えていたのかもしれない。

このようにその場の雰囲気や場の盛り上がりを白けさせないような、「アルコールを飲んでいる雰囲気を提供する市場」も新しい様相を帯びてきた。従来から飲酒しない、できない人向けの市場として「ノンアルコール市場」が存在していたが、昨今では真似たという意味の「mock(モック)」と「cocktail(カクテル)」を組み合わせた造語でmocktail (モクテル)と呼ばれるノンアルコールカクテル市場が注目されている。アルコールが飲めなくともカクテルのようなお洒落な飲み物を楽しむことができるということもあり、飲酒の雰囲気を楽しみたい、酒が提供される場の雰囲気を楽しみたいという層から支持されている。併せてコロナ禍における緊急事態宣言の際、バーや居酒屋など飲食店への酒類提供自粛が求められた中で、カクテルを飲んでいるような雰囲気を味わえ、料理とのペアリング9も楽しめたことも支持されてきた背景にある10

また、アメリカでは「Liquid Death(リキッド・デス)」と呼ばれる「死(death)」を連想させる飲料が注目されている11。ドクロのデザインがされたその缶飲料は、ビールやエナジードリンクに見えるが中身はただの水だ。仲間内でパーティーをしている際にもアルコールを飲んでいるように見え、場の雰囲気を壊さないで済むとして、ソーシャルメディアを中心に人気ブランドとなり、自社価値が14億ドルと評価されるなど今注目されているブランドのひとつとなった12。最近ではロックバンドがライブのステージに持ち込むことも多く、見栄えの良い飲み物として定着している。実際に筆者がアメリカの小売店で当商品を探すと、ほとんどの店で水コーナーではなく、ビールの陳列棚に置かれていた。
 
9 店側が、料理一皿ごとに最も合うドリンクを一緒に提供してくれる新しい食事スタイル。ワインやカクテルが提供されることが一般的。
10 よむよむカラーミー 「モクテルとは?ノンアル市場拡大で注目される5つの理由」2021/09/27
 https://shop-pro.jp/yomyom-colorme/79629
11 liquiddeath.com
12 Bloomberg Liquid Death Is Valued at $1.4 Billion in New Financing Round 2024/03/12 https://www.bloomberg.com/news/articles/2024-03-11/liquid-death-is-valued-at-1-4-billion-in-new-financing-round

(2024年09月24日「基礎研レポート」)

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生活研究部   研究員

廣瀬 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化論、若者マーケティング、サブカルチャー

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・公益社団法人日本マーケティング協会 第17回マーケティング大賞 選考委員
    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

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