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2024年09月13日
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(インフレ)
(リスク評価)
(金融・通貨環境)
(結論)
(質疑応答(趣旨))
- ユーロスタットの速報値によると、インフレ率は7月の前年比2.6%から8月には2.2%に低下した
- エネルギー価格は前月の前年比1.2%増から3.0%の下落となった
- 財インフレとサービスインフレは逆方向に動いている
- 財インフレは7月の0.7%から0.4%に低下する一方、サービスインフレは4.0%から4.2%に上昇した
- 基調的なインフレ率のほとんどの指標は、概ね7月は変化がなかった
- 域内インフレは6月の4.5%から4.4%にわずかに低下し、賃金を主因とする強いインフレ圧力がある
- 妥結賃金上昇率は引き続き高く、いくつかの国で一時金払いによる影響が大きいこと、賃金調整が不連続に実施されるという特性から、今年の残りにかけて変動が大きくなるだろう
- 同時に総じて人件費の伸びは緩和している
- 1人あたり雇用者報酬の伸びは4-6月期に4.3%の伸びとなり、4四半期連続で減速、ECBスタッフの見通しでは、来年はさらに大幅に低下する
- 生産性は低迷しているものの、単位労働コストは1-3月期の5.2%から4-6月期には4.6%となりそれほど強くなかった
- スタッフは単位労働コストが、賃金上昇率の低下と生産性の回復に伴って引き続き見通し期間にわたって低下すると予想している
- 最後に、利益は高い人件費によるインフレへの影響を部分的に相殺し続けている
- このディスインフレ過程は人件費圧力の解消と過去の制限的な金融政策の影響が消費者物価に波及することに支えられるとみられる
- 長期のインフレ期待の多くの指標は2%近くとなっており、市場で観測される指標は7月の会合以降、その水準に近づいている
(リスク評価)
- 成長率に対するリスクは引き続き下方に傾いている
- 世界経済の軟化や主要経済圏による貿易摩擦の激化といったユーロ圏輸出に対する需要の低さがユーロ圏の成長の重しになるだろう
- ロシアの正当化されないウクライナとの戦争や中東での悲劇的な紛争は地政学的リスクの主要要因である
- これは企業や家計の将来への景況感を低下させ、また世界的な貿易を混乱させるかもしれない
- 金融政策引き締めの効果がラグをもって予想以上に強く生じれば成長率が低下する可能性がある
- インフレ率の低下が予想よりも迅速に進み、景況感の改善と実質所得の上昇が予想以上に支出を増加させること、世界経済が予想以上に強く成長することが成長率を押し上げる可能性がある
- インフレ率は賃金や利益が予想以上に上昇すれば、上振れする可能性がある
- インフレ率の上方リスクはまた、特に中東における地政学的緊張の高まりがエネルギー価格や運送費用を短期的に上昇させ、世界貿易を混乱させることが含まれる
- 加えて、異常気象や気候変動危機の展開が、食料品価格を上昇させる可能性もある
- 対照的に、インフレ率は金融政策が予想以上に需要を低下させること、もしくは、予想外に世界経済が悪化することで低下する可能性がある
(金融・通貨環境)
- 市場金利は、世界成長見通しの低迷とインフレ圧力懸念の後退を主因として、7月の会合以降、大幅に低下した
- 夏場の世界市場の緊張は、一時的にリスクの高い市場における金融調達環境の厳格化につながった
- 総じて、資金調達費用は、我々の過去の政策金利引き上げが伝達経路に波及を続けているため、引き続き制限的である
- 新規の企業向け金利と住宅ローン金利は平均でそれぞれ7月に5.1%と3.8%で高止まりしている
- 需要が低迷するなか、信用伸び率も低迷している
- 企業向け銀行貸出は7月に0.6%の伸びで6月から低下、家計向け貸出は0.5%にやや上昇した
- M3で計測される広義通貨は7月に2.3%となり、6月と同じであった
(結論)
- (声明文冒頭に記載の決定に再言及)
(質疑応答(趣旨))
- 0.25%ポイントの引き下げか、0.50%ポイントの引き下げかについて。なぜ0.25%ポイントだったのか
- 決定は全会一致だった
- 通常実施しているように、3つの鍵となる基準に照らしてデータを見ることによって明確に示している
- 将来について、FRBが利下げを行おうとしており、マクロ経済見通しは依然より悲観的となっている。インフレは戻りつつある。年末までにさらに0.50%ポイントの利下げを行うと予想する市場は正しいか
- 我々は引き続きデータに依存している
- 我々は会合毎に決定を行う
- 我々の経路は、方向としては低下していくことが明らかだが、回数(sequence)も幅(volume)も事前に決まってはいない
- また、データ依存とは特定のデータ依存ではなく、あらゆる指標を見ている
- 10月会合まであと5週間である。3月の言葉を借りれば、来る10月17日には多くのことを知ることができると考えるか、それとも少ししか知ることができないのか
- 10月17日まで5週間というのは、過去の間隔と比べると比較的短い
- 我々はデータに依存し、会合毎に決定を行う
- 特定の日付に関するいかなる確約もするつもりはない
- 経路は全く事前には決定していない
- ECBが何年もの間擁護している銀行の国境を超えた統合について。ウニクレディトがコメルツ銀行の株式を取得して、それが実現しつつあるように思われる。ECBはこの現象を歓迎しているか
- 個別機関に関するコメントはしていない
- 我々には、監督機関であるSSM(単一監督メカニズム)による明確な手続きがあり、関係監督機関が規制要件を完全に認識し、従うと確信している
- 数週間のうちに、多くの当局が望んできた国境を超えた統合の過程が進むことは興味深い
- 金利をしばらくの間、十分に制限的にする必要があると述べた。ECBはもはや十分に制限的でなくなるまで何回の利下げができるのか。いわゆる中立金利と呼ばれるものはどこにあると考えているか
- 十分に制限的になるまで、制限的にする
- 25年の下半期にインフレ率が目標に到達するというベースラインの見通しを基準に、ベースラインの変化を観察し、どの程度利下げを続けるべきか、十分に制限的なのかを決定する
- r*は観測不可能な概念であるため、考えを述べるつもりはない
- それに近づけば、より良く知る事ができるだろう
- スタッフはr*に関する非常に優れた論文を発表し、かつてより上昇している可能性があると指摘するが、私がそれを支持している訳ではない
- 利下げの効果について。課題の大半ではないとしても、少なくとも一部は構造的な問題であるなか、利下げはユーロ圏経済をどの程度押し上げるのか
- 明らかに決定と、実際に影響が感じされ経済に反映されるまでには時間差がある
- 我々が現在観測しているのは、およそ2年近く前の引き締めの決定の影響である
- GDPとの関係では、ピークに達したと考えているが、影響は続いており、下向きの影響が続くとみられる
- また、ドラギレポートが指摘する構造改革と実践的な提案は、欧州がより強くなるために役立つだけでなく、中央銀行が金融政策でより良い結果を出すことにも役立つ
- インフレ率が目標を下回るリスクについて懸念しているか。フランスでは、INSEE(フランス国立統計経済研究所)が12月にインフレ率が1.6%になると予想しており、原油価格はコロナ禍以降で最低である。これはリスクか
- ユーロ圏ベースでの仕事をしているため、国固有の問題には回答しない
- 我々は、このリスクには明らかに注意を払わなければならず、それは目標が2%安定である理由であり、戦略見直しで提示したように中期的には対称でなければならず、引き続き完全に妥当である
- エネルギーは物価を上昇させると同時に下落させる要因でもある
- これは外生的な問題で、再び変動する可能性があり、そのことに備える必要がある
- マリオ・ドラギ氏の報告書について。金融政策やECBの責務への影響はあるか
- ドラギレポートやレッタレポートの提案のいくつかは、単一市場を達成し、競争力を改善させるという補完的なもので、我々が特に懸念していることに直接関連している
- 特に単一市場同盟については、理事会が強い見解を有しており、意見も公表している
- マリオ・ドラギ氏の報告書にはECBの責務を修正すべきとの提案は見られなかった
- 我々はこの責務を果たすつもりである
- マリオ・ドラギ氏の提案は多くが構造改革と関連している
- 関連当局が真摯に受け止め、構造改革への道筋が見えてくることを非常に期待している
- サービスインフレについて。最新データは再び上昇した。これをどの程度懸念するか。またコアインフレ率の見通しを若干引き上げた点について、今後のリスクをどう見ているか
- サービスインフレは4.0%から4.2%に上昇したが、多くの要素は低下経路を辿っており、パック旅行(holiday packages)や保険料といった一部の品目が上昇している
- 賃金、利益、生産性を注視しており、サービスインフレが低下方向に向かうとの自信を与えてくれるものである
- 賃金の伸びがより緩やかになり、利益がより賃金上昇を吸収し、循環的な生産性上昇が見られることで、サービスインフレは現在よりも低下することになるだろう
- ドラギレポートについて。ECBはドラギ氏の提案の実施を促すために、金融政策を調整するつもりはあるか
- 構造改革は中央銀行の責任ではなく、各国政府に責任がある
- ドイツ経済がこれほど減速することを予想していたか、また、これはあなたの見通しやリスクバランスにどのように反映されているか
- ドイツ経済の減速はブンデスバンクにより予想され、またECBでも予想していたし、ユーロシステム全体で共有されている
- ウニクレディトとコメルツ銀行について。すべての健全性要件(prudential requirements)とバッファーを遵守した上で、汎欧州銀行が誕生することはユーロ圏全体の産業にとって肯定的だと考えるか
- 汎欧州銀行はかなりの数、存在していると考えている
- 国境を超えた2つの大きな機関の統合については、規制の観点から検討されるもので、銀行同盟が達成されれば、国境を超えた合併を期待する人の多くを満足させるだろう
- 預金金利の決定は全会一致であったことを強調しているが、全会一致でなかった他の決定があったのか
- (明確な回答なし)
- 我々は、最新データやスタッフによって提供された分析について広範な議論を行った
- 見通しについて。一方では、インフレ見通しは変更せず、他方では弱い域内需要を要因として成長見通しを修正しており、これはインフレの主要な要因ともなる。これはどのようにつじつまが合うのか
- ヘッドラインインフレは修正していないが、コアインフレは24年と25年を0.1%ポイント引き下げた
- エネルギー価格が大きな低下圧力となりヘッドラインインフレに恩恵をもたらした
- 成長率見通しの下方修正は、インフレが大幅に低下し、所得が増加しはじめたのに、回復期待があった消費が回復しなかったことによる
- スペイン銀行の新総裁であるエスクリバ氏を迎えての第一印象を教えて欲しい。また、理事会に対してどのような貢献を期待するか
- 他の総裁同様、非常に有益な貢献をした
- 他の総裁が理事会のテーブルを囲む際と同様、スペインの状況に触発された個人的見解を述べるだけでなく、欧州的な側面を持つことを期待している
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2024年09月13日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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