2024年09月09日

米国経済の見通し-24年後半にかけて景気減速も景気後退は回避を予想

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.経済概況・見通し

(経済概況)4-6月期の成長率は大幅上昇
米国の24年4-6月期の実質GDP成長率(以下、成長率)は、改定値が前期比年率+3.0%(前期:+1.4%)と前期から大幅に上昇した(図表1、図表7)。

需要項目別では、住宅投資が前期比年率▲2.0%(前期:+16.0%)と4期ぶりのマイナスとなったほか、外需の成長率寄与度が▲0.8%ポイント(前期:▲0.7%ポイント)と前期に続いて成長率を大幅に押し下げた。

一方、設備投資が前期比年率+4.6%(前期:+4.4%)と前期並みの伸びを維持したほか、政府支出が+2.7%(前期:+1.8%)、個人消費が+2.9%(前期:+1.5%)と前期から伸びが加速した。さらに、在庫投資の成長率寄与度も+0.8%ポイント(前期:▲0.4%ポイント)と大幅なプラスに転じて成長率を押し上げた。とくに、当期は個人消費が成長率を+2.0%ポイント押し上げており、成長率の上昇は個人消費が堅調となったことが大きい。
(図表2)実質個人消費および実質可処分所得(前月比) また、実質個人消費(前月比)は7月も+0.4%(前月:+0.3%)と堅調な伸びとなった(図表2)。財消費が+0.7%(前月:+0.3%)、サービス消費が+0.2%(前月:+0.3%)と財消費の伸びが前月から加速したことが大きい。財消費では自動車ディーラーがサイバー攻撃の影響を受けて6月の自動車販売が落ち込んだ反動で自動車関連消費が+4.1%(前月:▲2.4%)と大幅に伸びた。

もっとも、個人消費は堅調を維持しているものの、個人消費の原資となる実質可処分所得(前月比)は24月2月以降個人消費の伸びを下回る状況が続いているため、個人消費の下支え効果は剥落しており、所得面からは堅調な個人消費は長続きしないとみられる。
一方、労働市場は減速感が強まっている。非農業部門雇用者数(前月比)の3ヵ月平均は24年8月が11.6万人増となり、24年上期平均の20.7万人増、23年平均の25.1万人増から低下が顕著となった(図表3)。また、失業率は8月が4.2%と5ヵ月ぶりに低下したものの、依然として景気後退の開始を示すとされる「サームルール」に抵触しており景気後退リスクが意識されている。

サームルールはFRBのエコノミストを務めていたクラウディア・サーム氏が考案したもので、失業率の3ヵ月移動平均が直近12ヵ月の最低水準から0.5%ポイント以上上昇した場合に景気後退が始まるとされている。7月に同指標が0.53%となりサームルールに抵触した後、8月も0.57%ポイントと抵触状態が継続している。

もっとも、サームルールには抵触したものの、足元の雇用統計は米国の景気後退が既に始まっている、または直ぐに始まる可能性を示していないと判断している。非農業部門雇用者数は増加が続いている。また、一般的に景気後退局面では失業者数の増加のうち「一時解雇」と「恒久解雇」が大宗を占める。しかしながら、失業者数に占めるこれらのシェアは8月が6割を下回っており、過去の景気後退局面に比べて低位に留まっている(図表4)。
(図表3)米国の雇用動向(非農業部門雇用増と失業率)/(図表4)失業者数内訳と解雇シェア
一方、足元で物価上昇圧力は緩和している。消費者物価(CPI)の総合指数は24年7月が前年同月比+2.9%と、4ヵ月連続で低下し21年3月以来の水準となった(図表5)。また、物価の基調を示す食料品とエネルギーを除くコア指数も+3.2%と23年2月の+5.6%をピークに低下基調が持続、21年4月以来の水準に低下した。

とくに、コア指数は7月の前月比年率が+2.0%と24年1月の+4.8%のピークから低下が続いているほか、3ヵ月前比年率も+2.3%と24年4月の+4.3%から3ヵ月連続で低下している(図表6)。前月比年率、3ヵ月前比年率ともに24年初から春先にかけて上昇に転じていたものの、4月以降は低下基調が持続しており、足元で物価上昇圧力が緩和していることを示している。
(図表5)消費者物価指数/(図表6)CPI伸び率(期間別)
これまでみたようにインフレが落ち着いてくる中で労働市場の減速が顕著となっていることを受けて7月のFOMC会合では金融政策の意思決定において、従前のインフレ重視から労働市場や景気により目配せする方針が示された。また、8月下旬のジャクソンホールの演説でパウエルFRB議長は「政策を調整する時が来た」と発言し、事実上次回9月のFOMC会合で利下げを開始することが予告された。
(経済見通し)成長率は24年が+2.6%、25年が+1.6%を予想。
当研究所は経済見通しの策定にあたって、ウクライナや中東の地政学リスクの高まりに伴う大幅な原油・商品価格の上昇は回避されるほか、来年以降の新政権の経済政策運営が現状から大きく変更されないことを前提とした。

それらの前提の下、米国経済はこれまでの累積的な金融引締めの影響に伴い今後も失業率の上昇を伴う労働市場の減速が続くほか、個人消費が緩やかに減速することから、24年後半にかけて景気減速を予想する。その後は、FRBが金融緩和に転じることもあって25年以降、景気は緩やかに回復しよう。

四半期ベースの実質GDP成長率は24年10-12期に+1.3%まで低下した後、25年は1%台半ばを中心に推移しよう(図表7)。当該予測期間においてマイナス成長は示現せず、景気後退は回避されると予想する。

通年の成長率(前年比)は24年が+2.6%と23年から小幅に上昇した後、25年は+1.6%に低下しよう。24年後半の景気減速にもかかわらず23年より高い成長率を維持する理由は、23年10-12月期の成長率が堅調となったことによるプラスのゲタの影響に加え、24年4-6月期の成長率が上振れた影響が大きい。
(図表7)米国経済の見通し
物価は、コアインフレ率(前年同月比)が24年末に+2.9%(24年通年:+3.3%)とFRBの物価目標(2%)を上回る水準に留まった後、25年末の+2.3%(25年通年:+2.4%)まで緩やかな低下を予想する。また、当研究所は原油価格が足元の70ドル近辺から25年にかけて70ドル台前半で推移すると予想しており、エネルギー価格のインフレへの影響は限定的に留まろう。この結果、総合指数も概ねコア指数同様に緩やかな低下基調が持続しよう。当研究所はCPIの総合指数(前年比)が23年の+4.1%から、24年に+3.0%、25年に+2.3%に低下すると予想する。

金融政策は、インフレが落ち着いてくる中、労働市場の減速が顕著となっていることもあって、9月に▲0.25%の利下げを開始した後、24年内は11月、12月会合でも▲0.25%の利下げを実施すると予想。25年は四半期に一度のペースで▲0.25%の利下げを継続しよう。

長期金利は24年7-9月期平均の4.0%から、インフレ率が低下する中、金融緩和が継続することから、24年10-12月期平均が3.9%に低下するほか、25年10-12月期平均が3.6%まで緩やかに低下しよう。

上記見通しに対するリスクは、地政学リスクの高まりに伴うエネルギー価格急騰などを受けたインフレ高進と政策金利の上振れに加え、24年の大統領・議会選挙の結果を受けた米国内政治の機能不全が挙げられる。

インフレに関しては、ウクライナ侵攻や中東情勢の緊迫化などを背景にエネルギー価格が再び急騰することでインフレが高進する可能性がある。その場合には、政策金利の引上げ再開や金融引締め期間が長期化し、需要が大幅に抑制されることで将来の景気後退リスクが高まろう。

一方、11月の大統領選挙は大接戦となっている。政治ニュースサイトのリアルクリアポリティクスによる全米レベルの支持率はハリス氏が48.1%とトランプ氏の46.7%を僅かに上回っている。

選挙のカギを握る7つの激戦州ではハリス氏が4週でトランプ氏をリードしている一方、2州でトランプ氏がリードしている(図表8)。一方、選挙人数が19人と多いことから接戦州の中でも最重要州と考えられているペンシルバニア州では同率となっている。このため、いずれも両者の支持率には大きな差はないことから、現時点でどちらの候補が勝利するのか予想するのは困難な状況となっている。
(図表8)接戦州の支持率
議会選挙では、現時点で上院では共和党が過半数を獲得するとみられるほか、下院では接戦ながら僅かに共和党がリードしている。もっとも、下院では大統領選の結果に引っ張られる傾向があり、大統領と同じ政党が過半数を得る可能性がある。このため、ハリス氏が選出される場合には上院が共和党、下院が民主党とねじれ議会になる一方、トランプ氏が再選される場合には上下院ともに共和党が過半数を獲得するトリプルレッドとなる可能性がある。ハリス氏選出でねじれ議会では予算措置を伴う経済政策が与野党対立から実現できない可能性があるほか、トランプ氏再選でトリプルレッドになる場合にはトランプ氏の予見不可能な政権運営がされる可能性があり、いずれも米国政治が機能不全となるリスクを孕む。経済が減速する中で政治が機能不全となる場合には米景気の下振れリスクが懸念される。

(2024年09月09日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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