2024年09月06日

2023年度 生命保険会社決算の概要

基礎研REPORT(冊子版)9月号[vol.330]

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1―保険業績(全社)

2023年度の生命保険会社の業績を概観する[図表1]。

41社合計では、年換算保険料ベースで新契約は15.8%増加した。

基礎利益(再び図表1)は、全体では対前年度41.5%と大幅に増加した。主に2022年度に急増していた新型コロナウィルス関連の給付金支払いが減少したことが増加の要因である。
[図表1]主要業績(2023年度)
新契約年換算保険料の個人保険、個人年金保険および第三分野の内訳を見たものが図表2である。全体としては、コロナ下の落ち込みから回復し、特に金融機関窓販による外貨建商品や円建てでも一時払個人年金商品などの貯蓄性商品が好調であったようだ。第三分野は▲2.6%減少となった。
[図表2]新契約年換算保険料の状況(2023年度)

2―大手中堅9社の収支状況

1|資産運用環境と有価証券含み益
2023年度までの資産運用環境は図表3の通りである。
[図表3]運用環境
こうした状況を反映して、国内大手中堅9社の有価証券含み益は、図表4に示す通りとなった。
[図表4]有価証券含み益(大手中堅9社計)
多くの生保は、従来、国内債券中心の資産運用をしてきたため、国内金利が上昇する中で、9社すべてが含み損を抱える状況となっている。また外国債券も金利上昇の影響により価格が下落しているところではあるが、円安がそれを緩和する状況となっており、総合すると含み益が増加した、2022年度あたりから、米国では債券含み損を抱えた銀行の破綻も報道されており、その後それほど大きな悪影響はないようだが、引き続きわが国においても金融機関の財務状況への悪影響が懸念される。

生命保険会社の場合は、資産だけでみると含み損ではあっても、対応する長期負債(責任準備金)もそれ以上に負担が軽くなっているため、全体としては財務状況に問題はないと思われる。(そのあたりの対応状況をきちんと評価しようとするのが、経済価値ベースのソルベンシー指標である。(後述))
2|基礎利益は大きく増加
そうした中、2023年度の基礎利益は20,802億円、対前年度35.0%増加となった[図表5]。
 
うち利差益は7,269億円、4.0%増加となった。

危険差益・費差益等からなる保険関係収支は13,533億円、60.7%の大幅増加となった。2022年度に新型コロナ給付金の支払いの一時的な急増により、危険差益が大幅減少となっていたが、2023年度にはその減少要因がなくなったことで回復し、これでほぼ平年ベースに戻ったと考えられる。
[図表5]基礎利益の状況(大手中堅9社計)
3|うち利差益も増加
利差益について、さらに詳しく見てみる[図表6、7]。

多くの会社で円安の恩恵をうけるなどして、利息配当金収入は増加したが、ヘッジコストが高止まりしているようで、基礎利回りはむしろ低下している。

運用資産の中核である国内債券に関しては、金利がこのまま徐々にでも上がってくれば、負債に適した投資対象として復活してくるので、今後期待が持てるところだろう。

その一方で、新型コロナ禍からの経済環境の回復もあって、株式配当金や投資信託の分配金などの増加は、基礎利回りを支える有力な収入となっていると推測される。一方、「平均予定利率」は、過去に契約した高予定利率契約が減少していくことにより、毎年緩やかな低下を続けている。現在の新規契約の予定利率は、1%未満であるものが主流であることから、そこに向けて、より緩やかになってはいるが、今後も低下傾向は続くだろう。
[図表6]利差益の状況(大手中堅9社計)
[図表7]利差益(逆ざや)の推移(大手中堅9社計)
4|当期利益は増加~引き続き内部留保の割合は高いが、配当金額も増加
次に当期利益の動きをみる[図表8]。

基礎利益(①)は大幅に増加、キャピタル損益(②+③)は合計で減少し、その合計で21,478億円と対前年度+3,651億円の増加となった。

さてこうした利益の使途であるが、実質的な内部留保の増加額(B’)は12,492億円と、これも前年度より+2,253億円増加している。

一方、配当であるが、6,382億円が還元(株式会社の契約者配当を含む)されることとなり、対前年955億円増加している。

このような見方をすれば、2023年度は「実質的な利益」の66%が内部留保に、残り34%が契約者への配当にまわっているとみることができ、利益が増加した分、引き続き内部留保の充実も着実に行われている一方で、配当も増加し例年並みには配当へも配分されている。
[図表8]当期利益とその使途(大手中堅9社計)
5|ソルベンシー・マージン比率~高水準を維持、一部の会社のESRも開示され、大きな変動なし
健全性の指標であるソルベンシー・マージン比率(9社合計ベース)をみたものが図表9である。ソルベンシー・マージン総額と保有リスクとの関係を見るため、形式的に9社計で算出した比率は前年度の955.0%から934.4%と下がってはいるが、引き続き高水準にある。
[図表9]ソルベンシー・マージン比率(大手中堅9社計)
これまで現行方式によるソルベンシー・マージン比率の内訳をみることにより、保有リスクとそれに対する準備金等の対応状況は、ある程度窺い知ることができていたが、前回2022年度の決算発表から、経済価値ベースのソルベンシー指標(ESR :Economic Solvency Ratio)を、大手4社グループなど一部の会社が開示し始めている。

このイメージは以下のように考えられる。

マージンとしては、「債券価格―責任準備金価格」をとる(現行のソルベンシー・マージン比率と同じ)。しかし経済価値ベースでは責任準備金も時価評価されたものを用いる。

これまでのように超低金利のもとでは、高い予定利率を持つ責任準備金の時価は大きくなるので、マージンは現行方式より減少し、厳しい評価となる。

逆に直近のように金利が上がってくると、責任準備金時価が減少し、マージンが増加する。今はこちらの状況なので、債券側だけ見たとき含み損であっても問題ない。一方、リスクとしては、一定の金利変動の下で、債券時価、責任準備金時価を両方増減させ、その差額の変動とする。

実情としては、より残存期間の長い責任準備金側の変動率の方が大きいので、金利が上がると責任準備金の方が大きく減少するので、健全性の面では余裕ができる方向になる。

ということで、負債と資産がほぼつりあっている(あるいは、そうなるように金利リスクを管理したい)生命保険会社では、債券の含み損状態だけでは大きな問題にはならない。ただしその「つり合い具合」については、経済価値ベースのソルベンシーでみていくことになる。

(2024年09月06日「基礎研マンスリー」)

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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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