2020年09月08日

2019年度生命保険会社決算の概要-外貨建保険と外貨建資産にいつまで頼れるか

基礎研REPORT(冊子版)9月号[vol.282]

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1―保険業績(全社)

生命保険会社42社が2019年度決算を公表した。。42社合計では年換算保険料ベースで新契約は▲35.1%減少、保有契約は▲1.8%減少となった。これらを、さらに伝統的生保(16社)、外資系生保(15社)、損保系生保(4社)、異業種系生保等(6社)、かんぽ生命に分類し業績を概観した。[図表1]
[図表1]主要業績(2019年度)
基礎利益は、全体では▲2.7%と減少した。基礎利益が増加したのは42社中16社にとどまる。

新契約年換算保険料[図表2]は、かんぽ生命を除く41社合計で、個人保険は対前年▲34.5%減少し、個人年金は▲21.7%減少した。法人向け定期保険や外貨建保険の販売減少によるものである。外貨建保険については、海外金利の低下により内外金利差が縮小し、貯蓄メリットが縮小したことが響いた。
[図表2]新契約年換算保険料(2019年度)

2―大手中堅9社の収支状況

1|基礎利益は減少
2019年度までの資産運用環境は図表3の通りである。
[図表3]資産運用環境
この状況を反映して、有価証券含み益は、国内大手中堅9社で見ると、国内債券で▲1.3兆円減少、外国証券では債券で増加、株式で減少し合計では0.7兆円増加、国内株式では▲2.7兆円減少し、有価証券合計では▲3.4兆円減少した。[図表4]
[図表4]有価証券含み益(大手中堅9社計)
そうした中、2019年度の基礎利益は23,519億円、対前年度▲3.8%の減少となった。[図表5]

利差益については、ほぼゼロ金利の状況下、外債利息や内外株式配当の増加により、2019年度は、逆ざや解消後最高水準をさらに更新し7,707億円、7.2%増加となった。危険差益・費差益等の保険関係収支は15,812億円、▲8.3%の減少となった。
[図表5]基礎利益の状況(大手中堅9社計)
2|利差益は逆ざや解消以降最高水準
利差益について図表6に示した。
[図表6]利差益(逆ざや)状況の推移(大手中堅9社計)
「平均予定利率」は、過去に契約した高予定利率の契約が減少することにより、毎年緩やかな低下を続けている。現在の新規契約の予定利率は、1%未満であるものが主流であることから、そこに向けて、これまでより緩やかにではあるが、今後も低下傾向は続くだろう。

一方、「基礎利回り」は、わずかながら低下した。主要な構成要素である利息配当金収入自体は多くの会社で増加してはいるが、運用資産の中で中心となる国内債券に関して、超低水準の金利が続いており(保有債券の年限などにもよるが、)利回りの方は低下傾向にあると思われる。今後も利息収入に徐々に悪影響をもたらすことになるだろう。そうした状況に対し、近年、外貨建債券などへのシフトが進んでいることと、国内大手社においては株式の保有も比較的多いことから株式配当の増加もあり、債券の利回り低下を補っているものと考えられる。

基礎利益の動向は、危険差益や費差益では大幅な好転が見込めない中、利差益の動向に大きく依存しているのが現状だが、経済環境に大きく左右されることもあり、将来にむけて決して楽観はできない。
3|当期利益は実質減少~しかし引き続き内部留保、配当とも安定的な水準
前述の通り、基礎利益が減少するとともに、キャピタル損益も減少したこと等により、実質的な当期利益は減少した。[図表7]
[図表7]当期利益とその使途(大手中堅9社計)
2019年度は、「実質的な利益」の69%が内部留保に、残り31%が契約者への配当にまわっているとみることができ、引き続き内部留保の充実により重点がおかれていて、この傾向は近年比較的安定している。

9社中4社が、危険差益関係で増配した。一方利差益関係では2社が減配しており、運用環境の先行きに不安があることを反映している。
4|ソルベンシー・マージン比率~高水準を維持
ソルベンシー・マージン比率(9社合計ベース)は前年度の966.9%から1000.3%へと上昇し、引き続き高水準にある。[図表8]
[図表8]ソルベンシー・マージン比率(大手中堅9社計)
2019年度は、その他有価証券の含み益は減少し、オンバランス自己資本(貸借対照表の資本、危険準備金、価格変動準備金などの合計)が引き続き増加した。また、外貨建資産の増加にも関わらず、資産運用リスクが減少した(国内株式の時価下落によるリスク対象資産額の減少、外貨建保険対応資産の増加で実質的には為替リスクが増えていないことによるものと推測される。)ことでリスク総額も減少している。

4―トピックス

1|外貨建保険と外貨建資産
国内の超低金利状況下で、比較的利回りの高い外貨建資産への投資が近年増加してきた。ただし、それでは保険会社が為替変動リスクを大きくとることになることもあり、それを抑えつつ、顧客が直接高い海外金利を享受できる外貨建保険の販売が増加してきた。

しかし2019年度には、海外金利も低下して、外貨建保険の貯蓄の魅力が薄れた。この状況が今後も続くと販売業績面・資産運用面ともに苦しい状況になる。

今後どこまで外貨建保険への注力が続くのか、あるいは一時の傾向にすぎなかったということになるのか、興味深いところではある。もちろん「経済状況に応じて機動的に」となるだろうが、資産運用面ではそれが当然としても、保険販売面でも機動的に運営できるだろうか。
2|新型コロナ、感染拡大の影響
新型コロナウィルス感染拡大の影響は、2019年度はまだ株価の下落程度しか表にでてはいない。今後、直接収支上に影響を及ぼすと考えられる状況としては、・新型コロナによる死亡等に対し「災害割増」保険金を支払うこと・新型コロナによる入院に加え、臨時施設への宿泊、自宅療養に対しても入院給付金を支払うことなどがある。ただし現時点での感染者数や死亡者数をみる限りにおいては、こうした保険金・給付金支払の増加そのものが収支に与える影響は限定的と思われる。

それよりも、販売活動の制限や景気の悪化に伴う新規契約の減少は、既に2020年4月以降、大きな影響をもたらし始めており、収支上も長期的に大きな痛手となることが懸念される。また経済状況の悪化による資産運用収支の悪化も懸念される。さらに長期的には、死亡率あるいは疾病発生率全体の変動など何らかの悪影響(例えば、平均寿命などへの長期的な影響による保険料率のアップ)なども考えられるが、統計上これらが判明するまでには、しばらく時間がかかるだろう。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2020年09月08日「基礎研マンスリー」)

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