2019年09月06日

2018年度生命保険会社決算の概要ー外貨建資産、外貨建保険が引き続き増加

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1―保険業績(全社)

生命保険協会加盟全41社が、2018年度決算を公表した。
 
41社合計では、新契約高は15.9%増加、保有契約高は▲0.9%減少となった。これらを、伝統的生保(15社)、外資系生保(15社)、損保系生保(4社)、異業種系生保等(6社)、かんぽ生命に分類し、業績を概観した。[図表1]
図表1:主要業績
基礎利益は、全体では5.2%と引き続き増加(前年度6.6%増加)した。しかし41社中基礎利益が増加したのは19社にとどまる。
 
新契約年換算保険料[図表2]については、かんぽ生命を除く40社合計で、個人保険は対前年15.3%増加し、個人年金は、18.4%増加した。
 
第三分野は引き続き進展しており、かんぽ以外12.7%の増加、かんぽ生命も4.1%増加となった。
図表2:新契約年換算保険料

2―国内大手中堅9社の収支状況

1|減少した基礎利益
2018年度までの資産運用環境は図表3の通りである。
図表3:運用環境
こうした状況を反映して、国内大手中堅9社で見ると、国内債券の含み益が1.4兆円増加し、外国証券含み益も債券を中心に1.4兆円増加したものの、国内株式の含み益が▲1.5兆円減少し、有価証券合計では1.3兆円増加した。[図表4]
図表4:有価証券含み益(大手中堅9社計)
そうした中、2018年度の基礎利益は24,439億円、対前年度4.7%増加となった。[図表5]
 
利差益(逆ざや)については、ほぼゼロ金利の状況にあっても、2018年度は、逆ざや解消後最高水準を更新し7,192億円となった。危険差益・費差益等の保険関係収支はほぼ横ばいである。
図表5:基礎利益の状況(国内大手中堅9社計)
2│利差益は逆ざや解消以降最高水準
 
利差については、2008年度を底として、2012年度までマイナス(逆ざや)であったものが、2013年度からプラス(利差益)に回復し、2018年度は7,192億円と2017年度に引き続き最高水準を更新した(一部の会社はまだ逆ざやであるが、そのマイナス額は減少傾向)。[図表6]
 
「平均予定利率」は、過去の高予定利率の契約が減少していくことにより、毎年緩やかな低下を続けている。現在の新規契約の予定利率は、1%未満であることから、今後も低下傾向は続くだろう。
 
一方、「基礎利回り」は、横ばいであった。国内債券に関しては、超低水準の金利が続いているので、利回りは低下傾向にあると思われる。外債利息や内外株式配当の増加により、債券の利回り低下を補っている。
 
利差益については、将来にむけて決して楽観はできないと見る会社が多い。
図表6:利差益(逆ざや)状況の推移(9社計)
3│当期利益は実質減少~しかし引き続き内部留保、配当とも安定的な水準
 
基礎利益(①)は増加、キャピタル損益(②+③)は減少し、その合計額は20,964億円と対前年度▲1,444億円の減少となった。[図表7]
 
2018年度は「実質的な利益」の68%が内部留保に、残り32%が契約者への配当にまわっているとみることができ、引き続き内部留保の充実により重点がおかれている。配当還元の金額自体は対前年▲412億円減少しているものの、9社中4社が、危険差益関係で増配する。
図表7:当期利益とその使途(大手中堅9社計)
4│ソルベンシー・マージン比率~高水準を維持
 
ソルベンシー・マージン比率(9社合計ベース)は、前年度の922.0%から966.9%へと上昇し、引き続き高水準にある。[図表8]
 
2018年度は、国内債券を中心としたその他有価証券の含み益は増加し、また当期利益の使途でふれたように、オンバランス自己資本(貸借対照表の資本、危険準備金、価格変動準備金などの合計)が引き続き増加した。また、外貨建資産の増加(後述)にも関わらず、資産運用リスクが減少したことでリスク総額も少し減少している。その理由の詳細は不明だが、国内株式の時価下落や、為替ヘッジ率を高めたことなどによるものであろうか。あるいは、外貨建保険については、そもそも仕組上会社の為替リスクはないものであることから、リスク算出上は、外貨建保険の保険料の運用先としての外債等を対象外としていることも考えられる。
 
なお、現在、経済価値ベースのソルベンシーの検討が進められているところであり、新聞報道によれば、2025年をめどに新規制が導入される見込みのようである。新規制では、責任準備金を時価評価するなど、主に金利リスクの評価がより適切になされることを中心に、算出方法が大きく変わる。
図表8:ソルベンシーマージン比率(国内大手中堅9社計)

3―トピックス

1|外貨建資産の増加
 
まずは、外貨建資産だが、図表9で見るように、ここ5年間で残高・資産中の構成比とも急激に高まってきている。為替ヘッジの状況に変動があることや、外貨建保険について実質的には会社の為替リスクがないなどの事情はあるものの、一定程度為替リスクが高まっているに注意する必要があろう。
2|今後販売業績を支える(かもしない)注目の保険商品など
 
今後国内金利がゼロに近いままだと円建保険には貯蓄メリットがないので、海外の比較的高い金利を得ることを目指した外貨建保険が、引き続き業績を牽引することになりそうだ。為替リスクを顧客が負っていることに関する苦情が増えている現状もあるが、販売時の説明を充分に行うことや、同時に利回り表示が適正化されることで、健全な発展となるかどうかが注目される。
 
次に、経営者向けの保険であるが、多くの会社で2018年度の販売業績を押し上げた主役商品であった。ここ半年ほどは税務上の取り扱いや販売時の説明事項の整備がなされてきたので、適切な形で販売が再開されることになりそうだ。
 
また、老後の生活資金に、世間の関心が高まる中、NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)と並んで、所得控除など税制優遇のある個人年金保険が注目されることになるかもしれない。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2019年09月06日「基礎研マンスリー」)

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