2024年08月29日

女性の更年期症状と就労の継続

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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3――おわりに

以上のとおり、本稿では、40~59歳で更年期症状を自覚している女性を対象に、更年期症状が仕事に与えた影響や、退職や休職、配置転換等を行った理由とその時の状況について、ニッセイ基礎研究所が2024年3月に行った調査から紹介した。

今回の調査で、40~59歳の女性のうち、受診レベルの更年期症状を自覚している人は12.4%、受診レベルではない更年期症状を自覚している人は22.5%だった。仕事への影響は、受診レベルの更年期症状を自覚している人で高く、「退職した+退職を検討した」が9.0%、「休職した+休職を検討した」が5.0%、「昇進が難しくなった、配置転換を申し出た+検討した」が5.9%だった。退職や休職をしたり、配置転換を申し出た、またはこれらを検討した、昇進が難しくなると感じた等を合わせて、仕事の継続やキャリア形成の妨げとなり得る影響と考えると、仕事の継続やキャリア形成の妨げとなり得る影響があったのは、更年期症状を自覚している40~59歳女性の10.6%だった。

退職や休職、配置転換等を選んだ理由としては、体調の問題のほか、仕事生活の中で自信・余裕喪失(いずれも59.1%)、職場が合わなかった(56.1%)、職場に迷惑がかかると思った(50.0%)、家族の面倒をみる(31.8%)、勧められた(13.6%)等があがった。「退職した+退職を検討した」「休職した+休職を検討した」「昇進が難しくなった、配置転換を申し出た+検討した」それぞれについての理由の特徴は、分析対象者の人数が少ないため、大まかな傾向だけとらえると、配置転換を申し出ることで仕事を継続することを選んだ人は、勤め先の制度(特別休暇等・短時間勤務等)も利用する傾向があり、各種制度を活用して、仕事を継続しながら体調が悪い時期を乗り切ろうとしている可能性が伺えた。それに対して、退職したり検討をしている人では、職場が合わなかったり、家族の事情も影響している可能性があった。ただし、職場が合わないことや、自信や余裕の喪失、職場に迷惑をかけているように感じること自体が、更年期症状による心身の不調にともなうものである可能性があることから、退職を検討したくなる程悪化する前に更年期症状に気づき、対処することが重要と思われる。また、休職については、職場から勧められた人が多いことから、体調不良を相談された場合、職場は配置転換や退職より休職を勧めることが多い可能性がある。しかし、従業員の希望があるならば、休職だけでなく、業務負荷の軽減や働き方の見直し、場合によっては配置転換を含めて、継続して働くための策や、もとの勤務に戻るまでの道筋についても話し合えるような職場環境であることが望ましいのではないだろうか。

退職した、または退職を検討した人に多い「家族の面倒」については、これまでの女性の働き方が変わってきた経緯もあわせて考える必要があるだろう。これまでの中高年女性には、若いころから家庭を優先しながら働いてきた人もあったと思われる。自分自身の健康上の問題があるうえに、子どもの学校や受験、高齢となった親の介護等が重なれば、勤務先の各種制度を使って医療機関を受診しながら働き続けるのではなく、家族の生活に合わせる可能性もあり、そういった働き方も尊重される働き方の1つだろう。しかし、最近では、子どもを育てながらキャリアを築いてきた女性も増え、指導的地位の女性や役員の女性比率を高めることの重要性が認識されてきている、企業においても各家庭においても、女性の更年期における離職等は、これまで以上に損失が大きくなる可能性がある。各家庭でもサポートが必要となるだろう。

女性の更年期症状は、症状が多岐にわたることから、本人も気づかないまま、放置しているケースがあるとされる9。まずは、女性自身が、心身が疲弊する前に自分の体調に気づくことが大切だろう10。企業においても、相談しやすい環境を整えたり、医療機関を受診するための支援体制が期待される。働き続けたい人やキャリアを積んでいきたい女性が、健康上の問題を理由に断念せざるを得ない状況を改善するために、更年期症状に関する知識や利用できる各種制度等、職場における知識と理解を広めることが大切になるだろう。
 
9 村松容子「イメージする更年期症状は、実際の症状と結構違う~実際はホットフラッシュやイライラばかりではない」ニッセイ基礎研究所 基礎研レター(2024年4月30日)(https://www.nli-research.co.jp/files/topics/78379_ext_18_0.pdf?site=nli
10 村松容子「女性の更年期症状と就労」ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート(2024年3月26日)
https://www.nli-research.co.jp/files/topics/78024_ext_18_0.pdf?site=nli

(2024年08月29日「基礎研レポート」)

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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

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