2024年08月15日

気候変動:死亡率シナリオの試作-気候変動の経路に応じて将来の死亡率を予測してみると…

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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4|死亡率は、2060年代以降、SSP5-8.5の経路がSSP1-1.9の経路を上回ることが多くなる
気候指数と死亡率の関係式(回帰式)に各経路に応じた気候指数を代入して、死亡率の推移をグラフ化した。各グラフは、関東甲信の男性と女性の90-94歳の死亡率 34を表している。

まず、死因合計。死亡率は、冬期に上昇、夏期に低下して、細かい上下動を繰り返している。35
図表9-1-1. 死亡率推移(死因合計) 男性90—94歳(関東甲信)/図表9-1-2. 死亡率推移(死因合計) 女性90—94歳(関東甲信)
この上下動をならすために、年間平均死亡率の推移を表示すると次の通りとなる。
図表9-1-3. 年間平均死亡率推移(死因合計) 男性90—94歳(関東甲信)図表9-1-4. 年間平均死亡率推移(死因合計) 女性90—94歳(関東甲信)
経路ごとの違いを明らかにするために、SSP1-1.9の経路を基準として、それとの差を表示すると次の通りとなる。SSP1-2.6とSSP2-4.5は、SSP1-1.9の近辺で推移している。一方、SSP5-8.5は、男性は2060年代以降、女性は2070年代以降で、SSP1-1.9を上回ることが多くなっている。
図表9-1-5. 年間平均死亡率SSP1-1.9との差(死因合計) 男性90—94歳(関東甲信)/図表9-1-6. 年間平均死亡率SSP1-1.9との差(死因合計) 女性90—94歳(関東甲信)
次に、死因別に、年間平均死亡率のSSP1-1.9との差を見ていく。

新生物の死亡率は、男性はSSP1-2.6とSSP2-4.5は、SSP1-1.9の近辺で推移している。一方、SSP5-8.5は2070年代以降、SSP1-1.9を下回ることが多くなっている。女性はいずれの経路もSSP1-1.9近辺で推移している。
図表9-2-1. 年間平均死亡率SSP1-1.9との差(新生物) 男性90—94歳(関東甲信)図表9-2-2. 年間平均死亡率SSP1-1.9との差(新生物) 女性90—94歳(関東甲信)
循環器系疾患の死亡率は、経路による違いはあまり見られない。
図表9-3-1. 年間平均死亡率SSP1-1.9との差(循環器系疾患) 男性90—94歳(関東甲信)/図表9-3-2. 年間平均死亡率SSP1-1.9との差(循環器系疾患) 女性90—94歳(関東甲信)
呼吸器系疾患の死亡率は、SSP1-2.6とSSP2-4.5は、SSP1-1.9の近辺で推移している。一方、SSP5-8.5は2070年代以降、SSP1-1.9を上回ることが多くなっている。
図表9-4-1. 年間平均死亡率SSP1-1.9との差(呼吸器系疾患) 男性90—94歳(関東甲信)/図表9-4-2. 年間平均死亡率SSP1-1.9との差(呼吸器系疾患) 女性90—94歳(関東甲信)
異常無(老衰等)の死亡率は、SSP1-2.6とSSP2-4.5は、SSP1-1.9の近辺で推移している。一方、SSP5-8.5は2060年代以降、主としてSSP1-1.9を上回っており、その差は経過とともに拡大している。この異常無(老衰等)の差が、死因合計におけるSSP1-1.9とSSP5-8.5の差の主な要因となっている。
図表9-5-1. 年間平均死亡率SSP1-1.9との差(異常無(老衰等)) 男性90—94歳(関東甲信)/図表9-5-2. 年間平均死亡率SSP1-1.9との差(異常無(老衰等)) 女性90—94歳(関東甲信)
外因(熱中症含)の死亡率は、経路による違いはほとんど見られない。
図表9-6-1. 年間平均死亡率SSP1-1.9との差(外因(熱中症含)) 男性90—94歳(関東甲信)/図表9-6-2. 年間平均死亡率SSP1-1.9との差(外因(熱中症含)) 女性90—94歳(関東甲信)
その他の死因の死亡率は、経路による違いはあまり見られない。
図表9-7-1. 年間平均死亡率SSP1-1.9との差(その他の死因) 男性90—94歳(関東甲信)/図表9-7-2. 年間平均死亡率SSP1-1.9との差(その他の死因) 女性90—94歳(関東甲信)
 
34 今世紀中に平均寿命が延伸することを見越して、90-94歳の年齢群団を対象に、死亡率をグラフで表示していくこととした。
35 次節の死亡数の計算には、この死亡率を用いている。

(2024年08月15日「基礎研レポート」)

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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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