2024年08月15日

気候変動:死亡率シナリオの試作-気候変動の経路に応じて将来の死亡率を予測してみると…

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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(2) 低温指数
低温指数は、過去の観測実績が低下傾向を表している。SSP1-1.9とSSP1-2.6の経路では、この低下傾向が消失し、低温指数は概ね横這いで推移するものとなっている。SSP2-4.5の経路では、低下傾向は残るものの、なだらかな低下で推移するものとなっている。一方、SSP5-8.5の経路では、低下傾向が続き、低温指数は-1.5近辺にまで下がる。なお、過去の観測実績との接続には、特に問題はないものとみられる。
図表7—2. 低温指数の経路ごとの比較 (関東甲信・5年平均)
(3) 降水指数
降水指数は、過去の観測実績ではゼロ近辺で推移してきた。SSP1-1.9、SSP1-2.6、SSP2-4.5、SSP5-8.5の4経路とも、一貫した上昇や低下の傾向は見られないが、いずれも、数年ごとに上昇と低下を繰り返して推移する形となっている。なお、過去の観測実績との接続については、各経路で変動の幅がやや大きくなる形となっている。
図表7—3. 降水指数の経路ごとの比較 (関東甲信・5年平均)
(4) 乾燥指数
乾燥指数は、過去の観測実績ではゼロ近辺で推移してきた。SSP1-1.9、SSP1-2.6、SSP2-4.5、SSP5-8.5の4経路とも上昇して、2030年代には1~2程度の水準で推移するものとなっている。その後、2050年代後半から、各経路間の違いが表れ始める。SSP1-2.6の経路では乾燥指数は概ね1を下回る水準で推移する。一方、SSP5-8.5の経路では、乾燥指数は、2.5を超える水準にまで上昇する。なお、過去の観測実績との接続については、各経路での2020年代の上昇(上昇幅 +1~+2程度)がやや目立つものとなっている。
図表7—4. 乾燥指数の経路ごとの比較 (関東甲信・5年平均)
(5) 風指数
風指数は、観測実績では近年プラスの値で推移してきた。SSP1-1.9、SSP1-2.6、SSP2-4.5の経路では、この水準が徐々に低下し、ゼロ近辺で推移するものとなっている。SSP5-8.5の経路でも、指数は低下するものの、その低下のスピードは他の3経路に比べて緩やかなものとなっている。なお、過去の観測実績との接続には、特に問題はないものとみられる。
図表7—5. 風指数の経路ごとの比較 (関東甲信・5年平均)
(6) 湿度指数
湿度指数は、過去の観測実績では、2010年頃までゼロ近辺で推移していた。2010年代半ばからは、一転して上昇している。SSP1-1.9、SSP1-2.6、SSP2-4.5、SSP5-8.5の4経路とも、湿度指数は低下して、ゼロ近辺で推移するものとなっている。その後も、一貫した上昇や低下の傾向は見られない。いずれも、数年ごとに上昇と低下を繰り返して推移する形となっている。なお、過去の観測実績との接続については、各経路での2020年代の低下(低下幅 -1~-0.5程度)がやや目立っている。
図表7—6. 湿度指数の経路ごとの比較 (関東甲信・5年平均)
以上をまとめると、高温、低温、乾燥の指数について、経路間の違いが鮮明となっている。特に、高温指数については、SSP1-1.9やSSP1-2.6の経路では概ね横這いで推移する一方、SSP2-4.5の経路では4、SSP5-8.5の経路では8近くにまで上昇するなど、違いが顕著となっている。一方で、降水、風、湿度の指数については、経路間の違いはあまり見られない形となっている。

なお、過去の観測実績との接続については、乾燥については各経路での2020年代の上昇、湿度については低下がやや目立っている。高温、低温、降水、風は、特に問題はないものとみられる。

3|気候指数が死亡率に与える影響割合は2%弱
続いて、気候指数と死亡率の関係式(回帰式)について、計算結果を見ていく。回帰式は、前回のレポート(2024年1月18日のレポート)と同様、東日本大震災と、コロナ禍の影響を除いた直近の10年として、2009-2019年(2011年を除く)の死亡率と気候指数から算定する。このため、説明変数の係数は、前回のレポートのものと大きくは変わらない。ただし、気候指数の作成にあたり、(1)父島・南鳥島の気象データを用いないことと、(2)回帰式の説明変数から海面水位指数を除去したことの、2つの違いから、算定された回帰式の係数は前回のレポートの値からは変化している。

ここで、回帰式における気候指数の影響を見ておこう。まず、回帰式ごとに係数を標準化 31して相互に比較可能とする。この標準化した後の変数は、「標準偏回帰係数」と呼ばれる。その上で、気候指数の標準偏回帰係数の和の絶対値を分子に、その数値と時間項の標準偏回帰係数の絶対値と各ダミー変数の標準偏回帰係数の絶対値の和を分母にとる。そして、その分数の値を、気候指数が死亡率に与える影響割合とみなすこととした。32

回帰式は全部で504本あり、この影響割合の値はその本数の数だけ得られる。そこで、2018~22年の死亡数の実績をもとに、この割合の値を加重平均して、割合の平均値を求めることとした。

その結果、気候指数の影響割合は、男性1.7%、女性1.8%、男女計1.7%となった。2%程度としていた前回のレポートでの割合を、やや下回る水準となった。33
図表8-1.気候指数の影響割合(男性)/図表8-2.気候指数の影響割合(女性)/図表8-3.気候指数の影響割合(男女計)
 
31 標準化は、係数に当該説明変数の標準偏差を掛け算し、目的変数の標準偏差で割り算して行う。
32 説明変数間の相関関係を考慮せずに簡易な計算を行った。
33 今回、回帰式において海面水位の項を除去したことが、主な原因と考えられる。

(2024年08月15日「基礎研レポート」)

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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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