- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 保険 >
- 保険会社経営 >
- 線状降水帯の予測と対応-線状降水帯からいかに避難するか?
線状降水帯の予測と対応-線状降水帯からいかに避難するか?
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
気象庁は、今年もすでに、線状降水帯の予測情報を何度か出している。7月には13~14日に九州北部と山口県に線状降水帯への警戒を呼びかけ、14日に長崎県(五島)で実際に発生した。
それ以前は、5月27~28日に九州南部、奄美、四国、東海に、また6月17~18日に九州南部、四国に、さらに6月20~21日に九州南部に、線状降水帯への警戒を呼びかけた。だが、このうち実際に発生したのは、6月21日の鹿児島県のみだった。
6月27~28日には、九州北部と山口県に線状降水帯が発生する恐れがあるとして警戒を呼びかけたものの、対象地域では線状降水帯は発生しなかった。一方、28日には、予測していなかった静岡県で線状降水帯が発生し、これを見逃す形となった。
どうやら線状降水帯の予測は難しいようだ。今回は、線状降水帯の予測について見ていきたい。
◇ 「線状降水帯」とは
“線状降水帯は、次々と発生した積乱雲により、線状の降水域が数時間にわたってほぼ同じ場所に停滞することで、大雨をもたらすもの。線状降水帯が発生すると、災害の危険性が高くなります”
線状降水帯の発生メカニズムについては、以下の通りとされている。
(線状降水帯の発生)
(1) 大気低層を中心に大量の暖かく湿った空気が入り続ける
(2) その空気が局地的な前線や地形などの影響により持ち上げられて雨雲が発生する
(3) 大気の状態が不安定な状態の中で雨雲が積乱雲にまで発達する
(4) 上空の風の影響で積乱雲が線状に並び線状降水帯が形成される
※「気象と気象用語」(松山地方気象台, 2023年6月)より、筆者まとめ
(4)で上空の風により、できた積乱雲が風下に流される。そして、同じ場所にまた別の積乱雲が発生する。つまり積乱雲ができては流され、できては流され、……、という具合に次々と発生して一列に並ぶ。
普通、1つの積乱雲は、雲が発達する「成長期」、雨を降らせる「成熟期」、上昇気流がなくなり雲が消滅に向かう「減衰期」をたどる。強い雨を降らせる成熟期は15~30分ほどとされる。ところが、線状降水帯は成熟期の積乱雲が列をなしていて、同じ場所を次々に通過するため、大雨をもたらすこととなる。
◇ 「線状降水帯」という言葉はいつごろから知られるようになったのか
この言葉が一般に知られるようになったのは、2011年7月の新潟・福島豪雨の報道で用いられたことからだという。
このときは、繰り返して新たな積乱雲が発生する現象を意味する「バックビルディング」のほうが知られていたが、その後、各地で起こる線状降水帯による大雨とともに、この言葉が浸透していった。
2017年には、新語・流行語大賞の候補語の1つに、「線状降水帯」がノミネートされた。ちなみに、この年は「インスタ映え」と「忖度(そんたく)」が大賞を受賞し、線状降水帯はトップ10入りを逃している。
◇ 線状降水帯は頻繁に発生している
2011年「平成23年7月新潟・福島豪雨」
2014年「平成26年8月豪雨(広島)」
2015年「平成27年9月関東・東北豪雨」
2017年「平成29年7月九州北部豪雨」
2018年「平成30年7月豪雨(西日本豪雨)」
2020年「令和2年7月豪雨」
2021年「令和3年7、8月の大雨」
2022年「令和4年台風第14、15号」
2023年「令和5年6-7月の大雨」
最近は、毎年のように、日本のどこかで線状降水帯による豪雨や大雨が発生していることが分かる。
◇ 「富岳」などのスパコン投入で予測の強化を図る
(1) 水蒸気の鉛直構造(水平面と垂直な方向の水蒸気の分布状態など)や流入量が、特に海上で正確に分かっていない
(2) 個々の積乱雲の発生等を予測できないため、いつどこで線状降水帯による大雨が発生し、どのくらいの期間持続するのか事前には分からない
(3) 予測技術を踏まえた線状降水帯による大雨の危険性の呼びかけができていない
といったことが挙げられている。
(1)については、気象衛星観測や洋上観測などで、最新のセンサーを活用したり、船舶による全球測位衛星システム(Global Navigation Satellite System, GNSS)での水蒸気観測に世界で初めて取り組んだりするなど、観測の強化が図られている。
2028年度ごろに打ち上げられる予定の次期静止気象衛星「ひまわり10号」には、赤外サウンダという水蒸気量を調べるための新しい機器が搭載される計画となっており、線状降水帯のさらなる観測技術向上が期待される。
また、(2)については、2024年3月に気象庁の新しいスパコンが導入され、予報時間を従来の10時間から 18時間に延長した水平解像度2kmの数値予報モデル(局地モデル)を運用開始したのをはじめ、スパコンの中では有名な「富岳」を活用して大学や研究機関との共同研究を進めるなど、予測の強化が図られている。
◇ 「大雨の危険性」を呼びかける時期を前倒し
2024年5月からは、府県単位で半日前からの呼びかけをする運用が行われている。2029年には、市町村単位で、危険度の把握が可能な情報を半日前から提供する予定とされている。
一方、実際に大雨に見舞われたときの、迫りくる危険から直ちに避難するための情報発信についても、早期化が進められてきた。
気象庁は2021年6月から「顕著な大雨に関する気象情報」を発表しているが、2023年5月からは予測技術を活用して、その発表を最大30分程度前倒ししている。2026年には、2~3時間前を目標に発表を行う予定とされている。
(2024年08月06日「研究員の眼」)
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
篠原 拓也のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2024/12/10 | 気候変動とアクチュアリー職業倫理-専門職は気候変動の不確実性にどう対処すべきか? | 篠原 拓也 | 基礎研レター |
2024/12/06 | 生成AIと保険-保険事業に、生成AIをどう活用できるか? | 篠原 拓也 | 基礎研マンスリー |
2024/12/03 | 保険の社会的サステナビリティ-「差別」が「差別化」に入り込まないようにするには… | 篠原 拓也 | 保険・年金フォーカス |
2024/11/26 | 年末ジャンボ くじ購入の配分法-2つの宝くじからどのようにポートフォリオを組成する? | 篠原 拓也 | 研究員の眼 |
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年12月13日
ECB政策理事会-3会合連続となる利下げを決定 -
2024年12月13日
インド消費者物価(24年11月)~11月のCPI上昇率は4カ月ぶりに低下、食品価格の高騰がやや緩和 -
2024年12月13日
海底資源探査がもたらす未来-メタンハイドレートと海底金属 -
2024年12月13日
日銀短観(12月調査)~景況感はほぼ横ばい、総じて「オントラック」を裏付け、日銀の利上げを後押しする内容 -
2024年12月13日
グローバル株式市場動向(2024年11月)-トランプ氏の影響で米国は上昇するが新興国は下落
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【線状降水帯の予測と対応-線状降水帯からいかに避難するか?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
線状降水帯の予測と対応-線状降水帯からいかに避難するか?のレポート Topへ