コラム
2024年07月24日

メタバース雑感-視力と電力はどうなる?-

保険研究部 主任研究員・気候変動リサーチセンター兼任 磯部 広貴

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1――起きている時間の大半をメタバースで過ごす日がくるかもしれない

2021年、米国のフェイスブックは社名をメタ・プラットフォームズ(略してメタ)に変更した。世界中でビジネス基盤を確立させ、ネームバリューの高かったフェイスブックをあえてメタに変更することで、将来はメタバースがITの中心になると予測し、これに取り組む熱意を込めたと言ってよいだろう。その後、わが国でも様々な取り組みが行われている。

メタバースとその中で活動するアバターについては、概略以下の通り定義することができよう。

メタバース(metaverse):
インターネット上で他者とコミュニケーションを取れる仮想空間(語源としては、超越を意味するmetaとuniverseを組み合わせたもの)

アバター(avatar):
メタバースでユーザーが自らの分身として設定したキャラクター。現実社会の自分と真逆の属性にすることも可能。

メタバースはアニメやゲームの世界、単なる遊びのようにも感じられるものの、ビジネス上も大きな期待が寄せられている。さらには、いずれ人類は起きている時間の多くをメタバースで過ごすようになるという主張もある。

こういった主張に対しては異論もある。諸説ある中、専門家ではない筆者がメタバースの今後の発展について判断を下すところではないが、どの立場にあろうとも、関連してもっと深く議論されてよいのではないかと感じる点が2つある。視力と電力である。
メタバースを闊歩するアバター

2――そのとき視力は守られるのか

VRゴーグル装着 メタバースといえば、VR(バーチャルリアリティ)ゴーグルを頭にかぶって利用する印象を持つ方も多いかもしれない。一般的なメタバースの議論ではVRゴーグルなどのデバイスは必須要件とされていないようであるが、さすがに起きている時間の多くをメタバースで過ごすほどであれば、現実社会と同じ、あるいはそれ以上の没入感を得るためにデバイスの利用を伴うことが前提となろう。

VRゴーグルによるメタバース利用に際しては「VR酔い」と呼ばれる、乗り物酔いと同様の症状が発生しうることが指摘されている。筆者も10分強の着用でこれを経験した。「VR酔い」は慣れることで改善されると思いつつも、VRゴーグル着用の感想は単純に「目に悪そう」であった。

ちなみにメタバースがマニアの領域を超えて一般に広く普及していくためには、VRゴーグルのように重くて大仰な機材では難しく、メガネをかけるくらいの負荷で済む革新的なデバイスが必要との指摘がある。とはいえそのように特殊なメガネが誕生したとしても、物理的に目からの距離が近くなるのでVRゴーグルよりさらに「目に悪い」のではないかと懸念してしまう。

今時の若者は1日に5時間も6時間もスマホ画面を眺めていると言われるが、起きている時間の大半でデバイスを装着する場合の目への負担はその比ではないだろう。目に優しい、急激に視力を悪化させることがないデバイスは開発可能なのだろうか。

3――そのとき電力はあるのか

メタバースといっても、詰まるところはコンピュータで利用するものであり、電気がなければコンピュータは動かせない。人類が起きている時間の多くをメタバースで過ごすなら莫大な電力需要が生じるはずで、それだけの電力を確保できるのだろうか。

インターネット上のメタバースには世界のどの国からも入れる。よって、言語の壁を別とすれば、メタバースで国境は消滅するとの見方もあるが、自分の住んでいる場所で電力を確保できなればメタバースに入ることはできない。世界に電力不足の国は少なくない。

仮に電力を確保できたにせよ、現実社会での生活に支障が出るほど高額の電気料金を支払われねばならないのなら、メタバースで多くの時間を過ごすことはできないだろう。安定した電力供給と価格に折り合いをつけるには電源構成(原発の稼働に反対すべきか、化石燃料による発電を増やすか等)の議論は避けて通れない。そのように政治的な議論をせずともよいような超省電力型のメタバースは開発されるのだろうか。
 
こういった疑問はメタバース発展の可能性を決して否定するものではない。ここで取り上げた視力も電力も、メタバースに関するメジャーな論点ではない。さりながら視力は守られる、電力も確保されると聞かなくては、メタバース発展にどうも現実味を感じられないのが率直なところである。

(2024年07月24日「研究員の眼」)

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保険研究部   主任研究員・気候変動リサーチセンター兼任

磯部 広貴 (いそべ ひろたか)

研究・専門分野
内外生命保険会社経営・制度(販売チャネルなど)

経歴
  • 【職歴】
    1990年 日本生命保険相互会社に入社。
    通算して10年間、米国3都市(ニューヨーク、アトランタ、ロサンゼルス)に駐在し、現地の民間医療保険に従事。
    日本生命では法人営業が長く、官公庁、IT企業、リース会社、電力会社、総合型年金基金など幅広く担当。
    2015年から2年間、公益財団法人国際金融情報センターにて欧州部長兼アフリカ部長。
    資産運用会社における機関投資家向け商品提案、生命保険の銀行窓版推進の経験も持つ。

    【加入団体等】
    日本FP協会(CFP)
    生命保険経営学会
    一般社団法人 アフリカ協会
    一般社団法人 ジャパン・リスク・フォーラム
    2006年 保険毎日新聞社より「アメリカの民間医療保険」を出版

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